夫婦旅日記さらば浪人 必殺シリーズとは異なる「すご腕」を好演

引用元:夕刊フジ
夫婦旅日記さらば浪人 必殺シリーズとは異なる「すご腕」を好演

【藤田まことが魅せる 時代劇の世界】

 『てなもんや三度笠』の陽気な渡世人、あんかけの時次郎で一世を風靡(ふうび)した後、「必殺」シリーズの中村主水で闇の殺し屋を当たり役にした藤田まことが、また違った顔を見せたのが、山本周五郎原作の「夫婦旅日記さらば浪人」(1976年)だった。

 剣の達人で越後長岡藩の剣術指南役の三沢伊兵衛(藤田)は友をかばったことからやむなく職を辞して浪人となった。

 一子・小太郎を預け、妻のたよ(中村玉緒)とともに仕官先を求めて旅に出た伊兵衛は、さまざまな事件にぶつかり、そのたびに仕官のチャンスがつかめそうなのだが、超お人よしのためにうまくいかない。そんな不器用な夫をたよはニコニコと見守るのであった。

 第1話「雨あがる」では、人助けのために妻に禁じられた賭け勝負をする伊兵衛の姿が描かれる。毎回、小太郎への思いが語られるのも切ない。小太郎を演じたのは渡哲也の『浮浪雲』でも絶妙の演技を見せた子役・伊藤洋一だった。

 このドラマで注目したい「藤田まこと鑑賞ポイント」はふたつ。ひとつは飄々とした伊兵衛がとても剣の腕があるとは見えないこと。

 もうひとつは「たよは私にとっては日本一の美人ですよ」などと「ですます調」で話すこと。よく考えてみれば、中村主水も仕事のできない昼行燈と呼ばれ、強そうには見えないのに実はすご腕。奉行所の上司や「婿殿」といびりにくるしゅうとめ(菅井きん)には「ですます調」で話す。

 伊兵衛と共通点はあるのだが、主水が裏の顔を持つのに対して、伊兵衛は不器用で穏やかな人物。森一生、工藤栄一、田中徳三ら「必殺」でも腕を振るった名監督とともに藤田は人情あふれる夫婦旅を演じたのであった。

 制作は勝プロ。プロデューサーは大映時代に勝新太郎とも仕事をした映像京都の西岡善信。撮影現場には玉緒の夫、勝がしばしば訪れ、熱心に演技アドバイスしたが、ついに第13話では監督を務めることに。しかし、京都で豪遊する勝と玉緒が楽屋で夫婦げんかを始め、藤田は仲裁することもできず困ったらしい。

 なお、第17話「群狼の街」には、松田優作が出演。他にも松平健、原田芳雄、石橋蓮司、中尾彬らゲストとの貴重な共演シーンも楽しみなシリーズとなっている。(時代劇コラムニスト・ペリー荻野)

 ■藤田まこと(ふじた・まこと) 俳優、歌手、コメディアン。1933年4月13日~2010年2月17日。76歳没。時代劇やコメディーだけでなく、『京都殺人案内』シリーズや『はぐれ刑事純情派』シリーズ(いずれもテレビ朝日系)など現代劇でもヒット作をもつ。