新感覚サーカスが問う“日本人の働き方” 勤勉ゆえの問題を世界屈指のパフォーマーが表現

引用元:オリコン
新感覚サーカスが問う“日本人の働き方” 勤勉ゆえの問題を世界屈指のパフォーマーが表現

 「サラリーマン」という言葉を聞いて、どのような姿を思い浮かべるだろう。情報化社会に翻ろうされるサラリーマンの姿を、言葉を用いない“ノンバーバルショー”として描く、世界屈指のパフォーマーによるサーカスアクロバット×日本漫画のアニメーション×電子音楽が融合した新感覚ジャパニーズサーカス『CLONES(クローンズ)』(大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール 2月7日~11日)では、次のように“サラリーマン”を定義づける。

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 「会社に所属し役職を名乗り、社会の歯車として、1年365日ひたすら頑張って会社の利潤のために働く、優秀な労働者達の事である。世の中の多くの人は、このサラリーマンとして社会に参画し、家族を背負い、来る日も来る日も同じ時間に起きて、同じ電車に同じ人達と乗り込み、仕事に出かけていくのである。彼らはそれを正しく、幸せなことだと信じる。なぜなら、他人がそうしているから」

 原作者で日本を代表するパントマイマー・KAMIYAMAが「今の時代はどんどん便利になってきていますが、その一方で不便なことも増えています。ボールペンと手帳でスケジュールを管理していたのが、スマホになって、モバイルバッテリーと仕事用のパソコンっていう風に通勤の荷物も重たくなってきた。さらに、仕事のメールもこまめにチェックしないといけなくて、結果的に仕事が増えて、自分の時間がなくなっている。そうした状況を表現できたら」と作品の意義を明かすと、映像とジャグリングを融合したディアボロアーティストとして同作に参加する望月ゆうさくも深くうなずく。

■言葉を用いずサラリーマンを表現 海外から見た日本人の仕事観

 今回の舞台では、KAMIYAMA、望月をはじめ、世界各国で活躍しているアーティストたちが圧巻のパフォーマンスを披露。マイムでサラリーマンの仕草を表現するKAMIYAMAは「パントマイムってこれ(手を左右に動かすジェスチャー)だけじゃないと思うんです。例えば、電車に乗っていて、スマホを見る仕草とか、座ってバス停で待っている様子も、日常的な動きはすべてパントマイムだと思うんです」と言葉に力を込める。演出を担当するZero-Tenの松本一晃氏は、作品のコンセントをこう説明した。

 「情報化社会になる前は、連絡手段が手紙だった時代もありましたし、待ち合わせも時間通りに来るかドキドキしたりと、自分が起こすアクションに何かしらの感情が乗っかっていましたが、便利な世の中になることで、それがなくなってシステマティックになっています。そうすると、KAMIYAMAさんが指摘しているように、まさにデータ化された“クローン”の人間が増えていく。そういった現代社会に対するアンチテーゼや『日本人は働きすぎだ』というような意見を作品に取り入れて、ショーアップしています」。

 海外で活動する機会も多いKAMIYAMAと望月だが、日本のサラリーマンについて感想を聞くこともあるという。望月は「いろんな国がありますから、感じ取り方はそれぞれあると思いますが、一般的に『ハードワーク』『過労死』といった言葉は有名になっていますよね。僕が接する海外の方たちからすると、日本は夢の国に見えるらしいです。テクノロジーが発達していて、便利で安全なのに、なんでハードワークなどの問題が起こってしまうのかと。あとは、満員電車の光景は異常に見えるようです」と指摘する。

 望月は続けて「以前、ウクライナ・ロシア系の人に動画を見せたら、日本人がマスクをしているところに疑問を持ったようです」とのエピソードを披露。「日本人からしたら『もし、自分に風邪がうつったら、仕事ができなくなる』という仕事優先の理由から、予防でマスクをするということがあると思うのですが、その人たちからすれば『マスクは、本当に病気になった時でいいじゃん。風邪を引いたら、仕事を休めばいいじゃない』っていう考え方で、仕事に対する捉え方が違っているなと感じました。海外の方と一緒にクリエーションをする中で、そういった感覚の違いは面白いです」と明かす。

■駅の階段で垣間見えるサラリーマンのかっこよさ 数分間の技に凝縮されるもの

 パフォーマーという職業柄、サラリーマンとは違った働き方をしている2人だが、KAMIYAMAは「僕はサラリーマンの方たちに憧れていて、新宿とかで歩いている姿を見ると『かっこいいな』思うんです。駅の階段を降りる姿に、家族を守っている姿がにじみ出ていて。だから、今回の作品を通して決して『サラリーマンがダメだ』と伝えたいわけではなくて、一生懸命に働いていらっしゃる一方で、それゆえに追い詰められてしまう面もあるのではないかということが作品のコンセプトになっています」と率直な思いを打ち明ける。

 日本人の働き方を描いた作品…というと、堅苦しい印象を受けるが、望月はこう解説する。「単純にサーカスっていうのは、基本的には変に頭で考えなくても『ヤバい!』『スゴイ』って思うものというのが僕自身にはありますし、そのパワーがある人たちが集まっているので、小さいお子さん、実際に働いている方など、誰にでも見てほしいです。僕が思うのは、サーカスというものは、その人の人生がたった数分の技の中に凝縮されている。そういったものが斬新でかっこいいなと感じていただけたらうれしいですね」。

 KAMIYAMAも「それぞれのパフォーマンスは非常にハイレベルですし、いろんな国のパフォーマーが集まる面白さもあります。それぞれ、作品に対する感じ方が違うんですが、そこからひとつの方向へと向かっていく過程が面白いです。あるシーンでは、小さなお子さんが『キャー』って言う中で、お父さん世代の人は『あぁー』と深いため息のようなものをついていて、その反応の差も興味深いです」とアピール。日本人の働き方を明るみにする新感覚サーカスが、いよいよ幕を開ける。