テレ東ドラマ、2年で5枠増の理由は? 配信全盛期に模索する勝ち方

テレ東ドラマ、2年で5枠増の理由は? 配信全盛期に模索する勝ち方

『モテキ』『勇者ヨシヒコ』『孤独のグルメ』……様々な話題ドラマを生み出すテレビ東京。現在、「ドラマBiz」(月曜 22:00~)、「ドラマホリック!」(水曜 24:12~)、「ドラマパラビ」(水曜 25:35~)、「木ドラ25」(木曜 25:00~)、「金曜8時のドラマ」(金曜 20:00~)、「ドラマ24」(金曜24:12~)、「ドラマ25」(金曜 25:52~)と7つの連続ドラマ枠を展開し、さらには深夜のSPドラマや豪華俳優が揃う大型ドラマなど、骨太な作品から実験的な作品まで幅広く世に送り出している。

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それぞれ枠の名前を設定し、視聴者への定着もはかっている同局だが、実は7枠中の5枠は2017年以降に新設されており、約2年でドラマの数が急増した。今回は、テレビ東京 ドラマ室の浅野太担当部長にインタビュー。それぞれの枠の特徴や、ドラマが急増した背景について話を聞いた。

■いつかゴールデンの連ドラを…

――テレビ東京さんのドラマ枠はそれぞれ名前がついていますが、これはどこから始まったものだったんですか?

一番古いのは2005年に始まった「ドラマ24」です。14年前にこの枠を立ち上げた時は、ゴールデンの連ドラ枠が全然定着しなくて、ドラマ制作部も7~8人くらいでやっていました。まだまだテレビ東京で連ドラで勝負する土壌が全然できていなくて。お正月の時代劇など、単発で大きいものはやっていたんですけど、ゴールデンで連続ドラマをやることが、一つの大きな目標でした。いつかその目標に繋げたいという思いで、まずは深夜でノウハウを蓄積しようと立ち上げたのが「ドラマ24」なんです。

最初は、各俳優事務所さんや制作会社さんとのつきあいも深くなかったので、お試しのような感覚でした。それが続けていくと、徐々に『モテキ』『勇者ヨシヒコ』のように目立つような企画が出て来て、「テレビ東京のドラマといえば、深夜で変なことやっってる枠だよね」ということが少しずつ根付いてきました。でも、なんでこの名前なんですかね? 多分「24時台のドラマ」というだけで、枠の名前にあまり深い意味はなかったと思います。そのままですし(笑)

――やはり、枠自体に視聴者がつくように、ということだったのでしょうか?

「エッジの利いた変なことをやっている枠だ」ということを浸透させていきたかったので、メインタイトルや番宣スポットにもなるべく「ドラマ24」と入れるようにしていました。

――それをまた、他の枠でも踏襲したのですか?

枠で認知してほしい、ちょっとでも視聴習慣につながれば……という思いは強かったです。2番目に古いのは2013年から始まった「金曜8時のドラマ」ですが、枠の名前がそのまますぎるし、なんならちょっとダサいとかもいうのは薄々わかっていました(笑)。この枠を始めた当時は、木曜に演歌や歌謡曲を毎週お届けする「木曜8時のコンサート」という番組をやっていて、けっこう良い視聴率をとっていたので、ならばこちらは「金曜8時のドラマ」だ! いうのがきっかけでした。念願のゴールデンの連続ドラマでした。「ドラマ24」が開始してから、8年越しの悲願です。

――「金曜8時のドラマ」は刑事物も多く、高年齢層にもアプローチされている枠ですよね。

元々刑事物から始まって、『三匹のおっさん』『釣りバカ日誌』なども好評でした。金曜8時の時間帯に家でテレビを見ている層を考えると、まず20代男性や働き盛りは家にいないし、必然的に上の世代の方が中心になり、さらに子供世代にも広がる企画になっていきます。

深夜帯のドラマは、そこまで枠のカラーに大きな違いはないですが、「木ドラ25」「ドラマ25」はドラマ室ではなく、コンテンツビジネス部が主体でやってるので、「これ、ドラマじゃないだろ」みたいなことに、より挑戦できる枠になっています。やっぱり僕らは新しいものを作っていけることにやりがいがあるので、実験的なことができるのは嬉しいですね。あとは人がもうちょっと増えてくれたらいいんですけど(笑)。

■配信と向き合うと、ドラマが増える

――こうして見ると、本当に2017年以降どんどんドラマ枠が増えていますね。

増えました! 配信全盛期が来ました。死にそうです(笑)。

――配信と連動すると、ドラマが増えるということでしょうか?

配信に強いのがドラマ、アニメというジャンルなので、期待がかかっているのだと思います。

――テレビ東京さんに限らず、他局でも深夜枠が増えているように思います。とはいえゴールデン帯のドラマ視聴率がそこまで高いわけではなく、ドラマというものに何が求められているのでしょうか?

他局の事情はわからないですが、やはり配信に向き合うと深夜ドラマが増えていく、ということではないかと思います。配信でヒットするバラエティコンテンツは、そんなに頻発できない。また、コンテンツを海外に持っていくことを考えると、ドラマの方が実現しやすいですし、いろいろな戦略の中で、枠が増えているのではないでしょうか。

今、自宅でテレビを見ている人はどんどん減っていると思うんです。ただ、テレビ局が世に送り出しているものを見ていないわけでなくて、スマホやパソコンで見るという方向にシフトしている。ドラマの面積が増えていくのも、次のテレビ局の勝ち方を期待されているためだと思いますし、今も探っているところです。

――いろいろな指標が並列することになると思いますが、どういう評価をされているんですか?

時間帯によって違います。「金曜8時のドラマ」や「ドラマBiz」は、視聴率がいちばんの指標で、プラスで話題性。深夜ドラマに関しては、視聴率が取れるに越したことないんですけど、やはり”話題性”と”配信”という、別の脳で作っている部分は大きいと思います。

ドラマ24に関しては、『モテキ』(10年)が起爆剤でした。社会現象になりかけたし、映画もヒットして、こういう作品がうちの深夜から出たことは大きかったです。『勇者ヨシヒコと魔王の城』(11年)は公式Twitterのフォロワー数がものすごいことになり、「これは反響がある」というところから、視聴率もどんどん上がっていって、DVDも売れました。

――SNSが盛り上がる時期にもハマったんですね。今は、やはり配信の数字が大きいですか?

DVDも売れなくなってきましたからね。最近嬉しかったのは、『死役所』(19年)の第1話が配信サイト「Paravi」で相当回ったことです。『きのう何食べた?』(19年)もすごく良かったですし、本当に配信が未来につながると思っています。

――ドラマの企画を進めるにあたっての、指針のようなものはあるんですか?

やっぱり募集すると、社内や制作会社さんからものすごくたくさんの企画をいただけるんです。でも輝いて生き残っていく企画は、絶対、普通じゃないものなんですよね。「これは、他局さんでやればいいんじゃないの? うちでやっても、うまくいかないよね」という作品はたくさんあるんです。「これは、ちょっと見たことないかも」という視点でピックアップしています。

ただ『死役所』『何食べ』なんかは、そもそもすごく人気原作の実写化なんですよね。最近はそういう傾向があって、原作者や出版社が大事にしている原作を、うちにまかせていただけるということが増えてきました。脚本家や演出家が面白がってドラマを作ってくれてる空気感が、なんとなく伝わり始めているのかな。「預けたら、面白くしてくれるんじゃないか」という期待感をもっていただけているのかもしれません。ゴールデンじゃできない原作も多いし、うちらしい、良い作品になっていると思っています。

――その流れはやはり『孤独のグルメ』(12年~)が大きかったのでしょうか?

そうかもしれないですね。たぶん『孤独のグルメ』が世に出たときに、新鮮だったんだと思います。そういう作品に出会えると、「また変なことやってるね」という最高の褒め言葉をいただけます。

――最近のテレビ東京さんは、大型ドラマで「●年ぶりにテレ東に出演!」という俳優さんが、通常のドラマ枠にレギュラー出演されるような流れも感じます。

『琥珀の夢』『きのう何食べた?』に主演された内野聖陽さんもまさにそうですね。1度ご一緒すると共通言語ができますし、枠が増えるときっかけが増えて、新しい役者さんともおつきあいできるようになりました。きっと役者さんがうちの局に期待するものもあるんだろうなと思っているので、そこは裏切れないという気持ちがあります。テレビ東京なので、そりゃお金はないんですよ。それでもご出演いただけるのは、それに代わるものを感じていただけるからだと思うと、プレッシャーでもありますね。

――1月クールも気になる作品がたくさんありますが、浅野プロデューサーのイチオシ作品を教えてください。

僕がチーフPをやっている、ドラマBizの『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』(20日スタート 毎週金曜20:00~)ですね! この枠は“働く人”をテーマに企画性を広げていて、今回初めて病院の経営を題材にするんですが、これが面白くて。医療ドラマという面白さと、経営を立て直すという「ドラマBiz」枠のコンセプトとのマッチがすごく新鮮で、こういう病院ドラマは見たことないと思います。「なんだこれは!」という感覚は、うちの深夜帯でやっているドラマを見た時の感覚にも近いんです。病院は身近な存在ですし、「なくなってしまったらどうするんだ」という危機感もあるので、ぜひ見ていただけたら。

深夜帯だと、野木亜紀子さんが書いてくださった、ドラマ24『コタキ兄弟と四苦八苦』(10日スタート 毎週金曜24:12~)。うちの濱谷(晃一)プロデューサーの趣味が結実した素晴らしい作品です!

(C)テレビ東京

浅野太 プロデューサー

テレビ東京 制作局 ドラマ室 担当部長。これまでに『勇者ヨシヒコと魔王の城』(11年)、『不便な便利屋』(15年)、『釣りバカ日誌~新入社員浜崎伝助~』(15年)、『記憶捜査~新宿東署事件ファイル~』(19年)などに携わる。 佐々木なつみ