韓流ライター・安部裕子が語る、韓国映画ムーブメント

韓流ライター・安部裕子が語る、韓国映画ムーブメント

今年2月に授賞式が開かれた第92回アカデミー賞で、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(’19年)が英語以外の作品として初めて作品賞を受賞。監督のポン・ジュノは、これまでも「殺人の追憶」(’03年) 、最大のヒット作「グエムル―漢江の怪物―」(’06年) などで、世界で注目されてきた鬼才だが、ついに歴史的快挙を成し遂げた。

【写真を見る】「哭声/コクソン」より

「ふだん韓国の映画やドラマをほめない人も含め、多くの人が『パラサイト―』の受賞を好意的に受け止めていますね。この作品はまずサスペンスとして抜群に面白いのですが、貧富の格差を描き、終盤に復讐劇があるなど、韓国映画らしい要素も詰まっています」

韓流ライターの安部裕子さんはそう分析する。そもそも、韓国映画の本格的な海外進出は’99年に大ヒットしたサスペンス・アクション「シュリ」から始まった。日本でも興行収入18億円を記録したこの映画は、韓国と北朝鮮のスパイの悲恋を描いたもの。その後も「JSA」(’00年)「シルミド/S1LM1DO」(’03年)をはじめ、近年では「1987、ある闘いの真実」「タクシー運転手 約束は海を越えて」(共に’17年)など、南北の軍事境界線上にある板門店の共同警備区域を舞台にしたり、実際にあった弾圧事件を描いたりと、事実ベースの作品が多い。

「韓国映画はあえてタブーに切り込み、暗い歴史もさらけ出す。さらに、その題材をきちんとエンターテインメントとして仕上げる。その貪欲さというかパワーが強みだと思います」

’04年には、パク・チャヌク監督が手掛けた壮絶な復讐劇「オールド・ボーイ」が、カンヌ国際映画祭・グランプリを獲得し、男女の愛憎を描き出すキム・ギドク監督もベルリン国際映画祭とベネチア国際映画祭で賞を受けた。

「世界的に名前を知られる監督がどんどん出てきました。その頃から欧米の資本が監督の”名前買い”で、韓国映画界に集まるようになり、予算が格段に増えてスケールアップした印象があります」

国外にも市場を得て、作家性と商業性を両立できる映画監督たちが育っていった。そのトップを走るポン・ジュノ監督は、アメリカとフランスの資本協力を受け、SFアクション大作「スノーピアサー」(’13 年)を製作する。

「’02年のサッカー日韓W杯のころから、 韓国の中で映画も音楽も、世界市場に売って出るという姿勢ははっきりあったと思います。音楽ではK―POPも世界的に人気を得ていますが、映画もそうした挑戦が実を結んで、今回のアカデミー賞受賞が実現したと思います」

「パラサイト―」に代表されるように近年、韓国エンタメでは海外市場で売り出しやすいサスペンスが主流になっている。

「ひと昔前、韓流といえばドラマはもちろん、映画でも『私の頭の中の消しゴム』(’04年) など、純愛物語が多いイメージで したが、今ではクライムサスペンスが増え、ラブストーリーでもホームドラマでもないということで”ジャンルもの”と呼ばれています。ケーブルテレビのドラマで『サイン』『ボイス』『シグナル』などがヒットし、日本でもリメークされましたよね。やっぱり犯罪を描くものって刺激的で退屈しない。映画では『哭声/コクソン』(’16年)も話題になり、出演した國村隼さんが韓国で有名になりました」

次々に良作を生み出す韓国映画。その強さはどこから来るのだろうか?アカ デミー賞授賞式で「パラサイト―」のプロデューサー、イ・ミギョンは「受賞できたのは、韓国の観客が遠慮ない批判をしてくれたから」とスピーチした。

「サスペンスだけでなく、どのジャンルでもクオリティが高いのは、もともと映画館に行く人が多く、また、見た人が直接ネットやSNSなどで厳しい批判をするからかもしれません。日本のエンタメ界も見習うべき点がありそうですね」

あべ・ゆうこ●韓国エンターテインメントライターとして、多くの媒体で韓流情報を発信するとともに、コメンテーターとしても活躍。韓流ロケ地ツアーのアドバイザーなども行っている。

取材・文=小田慶子 HOMINIS