「ダンメモ×ゴブスレ」コラボ誕生秘話、原作者・大森藤ノ&蝸牛くも「良い意味で殴り合ってつくった」

「ダンメモ×ゴブスレ」コラボ誕生秘話、原作者・大森藤ノ&蝸牛くも「良い意味で殴り合ってつくった」

ライトノベルダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(ダンまち)』を原作とするスマートフォン向けRPG『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~(ダンメモ)』内において、劇場版の公開を控える『ゴブリンスレイヤー(ゴブスレ)』とのコラボイベントが、1月31(金) 11時00分から2月27(木) 14時59分にかけて開催される。

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これまでも『キノの旅』や『進撃の巨人』、『デート・ア・ライブ』など多彩な作品とのコラボイベントを展開してきた『ダンメモ』だが、今回は原作『ダンまち』と同じレーベルであるGA文庫の人気タイトル同士の顔合わせだ。
シナリオ執筆は大森藤ノ先生と蝸牛くも先生が共同で行い、それぞれの作品のキャラクターたちの個性を存分に活かした物語となっている。

ファン期待の本コラボがいかにして実現し、どのような点にこだわったのかを両先生にお話いただいたものを前後編に分けてお届けする。
前編ではコラボの経緯やコラボシナリオのこだわりポイント、作家として互いにリスペクトしている点を中心に語ってもらった。
[取材・文=杉本穂高]

■満を持してGA文庫同士のコラボが実現した経緯
――おふたりはもともと親交があるようですが、どのように知り合ったのですか?

蝸牛:『ゴブスレ』2巻が刊行された直後のGA文庫大賞授賞式で初めて大森先生とお会いしました。その後、ちょくちょくご飯を食べに行ったりボドゲで遊んだり、仲良くしてもらってます。

大森:GA文庫さんの作家さん同士でよく飲みに行ったりしているんですが、くも先生も例に漏れずという感じですね。

――お互いの作品についてはどんな印象でしたか?

大森:『ゴブスレ』は1巻を読んだ時、「すごく面白い! すごい小説が出てきた!」と衝撃を受けました。作家はゲンキンなもので、こんな面白い本を書く人にはぜひお会いしたいと思うもので。
くもさんは授賞式の時からモテモテでしたよね。

蝸牛:いえいえ。あの時はすごく緊張していて。挨拶して回るのはまだしも、される側は慣れてないですし(笑)。

――大森先生は『ゴブスレ』のどの点に衝撃を受けましたか。

大森:未読の方は試し読みできる部分をぜひ読んでいただきたいのですが、1巻の構成が素晴らしくて、冒頭から衝撃でした。ゴブリンスレイヤーのような孤高のスペシャリストが最後は仲間の力を借りて、笑顔になるという展開が刺さりましたね。

それにゴブスレさんには破天荒で泥臭い魅力があります。彼は自分を冒険者じゃないと言いますけど、彼の冒険を最後まで見届けたいという気にさせてくれるんです。

蝸牛:大森先生に面と向かって褒められると、恥ずかしくなってきますね(笑)。読者だった頃から知ってるプロの先生、先輩作家さんですし。

大森:モブキャラの末路を見ると「くもさんは鬼か!」って思いますけど(笑)。

蝸牛:あれでも割とセーブしている方なんですけどね(笑)。

――一方、蝸牛先生は『ダンまち』を読まれていかがでしたか?

蝸牛:お会いする度にリリルカさんを推しています(笑)。『ダンまち』はわりとハードな世界なんですが、変にひねくれていない真っ直ぐな冒険譚なのが好きです。ベルくんも良い子ですし。
自分は、ステータスやレベル、スキルが存在するなら何か説明が欲しいのですが、『ダンまち』の場合、それは神様から与えられたギフトという設定が秀逸。しっかりファンタジーしているなと思います。

大森:逆に自分は『ゴブスレ』の方が『ダンまち』よりファンタジーとして深いと思っています。ゴブリンスレイヤーのバックパックの中身までディテールをつくり込んでいて、そういう描写はメモして参考にしているぐらいです。

蝸牛:TRPGをやっているとよくエライ目に遭うんです。ダンジョンで罠にかかって荒野に飛ばされて、ゲームマスターがニヤニヤしながら「君たちは水と食料をどれくらい持っているかな」と(笑)。あの時はそれで一週間ぐらいサバイバルしました。
『ゴブスレ』でアイテム描写にこだわっているのは、TRPGファンならではの性分かもしれません。TRPGに限りませんが、持っていない道具や技能が、都合よくパッと出てくる事はあまり無いので。

――今回のコラボはどんな経緯で実現したのでしょうか。

蝸牛:大森先生にご飯食べに行こうと呼び出されてホイホイ行ったら「コラボやりません?」と誘われたところから始まりました(笑)。

大森:『ダンメモ』はこれまで『キノの旅』『デート・ア・ライブ』『進撃の巨人』とコラボイベントをやらせていただいていますが、『ダンまち』と同じGA文庫作品ともコラボやりたいね、とゲームの運営サイドとも話していたんです。
それで、『ゴブスレ』劇場版が公開されるタイミングならちょうどいいのでは、という話になって。

毎回コラボをやるときと同様に、自分からくもさんを誘ったんですが、そこからは話が早かったです。
これまでコラボ作品は他社さんだけでしたが、同じGA文庫さんで“身内”みたいなものですから。編集者さんたちもこちらから伝える前にすでに知っているという状況でした(笑)。

蝸牛:公式に企画が通る前からプロットの話をしていましたからね(笑)。

■今回のシナリオは「良い意味で殴り合ってつくった」
――大森先生から蝸牛先生にお声がけした段階で、物語の具体的なビジョンはあったのですか。

大森:これまでのコラボはダンジョンよりもオラリオの街をフィーチャーしたものが多かったので、『ゴブスレ』とやるなら世界観も近いし「ダンジョンを舞台にしたい」と思っていました。くもさんも「やっぱそうだよね」とノッてくれて。

蝸牛:『ゴブスレ』も他作品とのコラボはこれまでにもやっていますが、概ねゴブスレさんたちが異世界に行ってゴブリンを倒して帰ってくるというシンプルなお話が多かった。今回シナリオから関われるなら、相互のキャラを絡めて、がっつり冒険させてあげたいと思っていました。

――事前にシナリオを拝読させてもらったのですが、お互いの作品の世界観が上手く噛み合ったストーリーでした。

大森:良い意味で「殴り合ってつくったシナリオ」だったんです。スケジュールが厳しい中、けっこう何度もやり取りしましたよね。

蝸牛:2人とも勝手に“デスマーチ”してました(笑)。

――具体的にどんな流れでシナリオ制作を進めたのでしょう?

大森:まずは2、3度、2人で話し合って方向性を決め、ある程度固まった段階で自分がプロットを切らせてもらいました。
それを一度『ダンメモ』のシナリオライターさんにお渡しして、20話のシナリオにしてもらい、そこから自分のほうでキャラの台詞を肉付けし、設定も膨らませて。そこからくもさんに投げてブラッシュアップしてもらうという流れで3往復ぐらいしています。先ほど20話と言いましたが、最終的には確か28話くらいまで膨らんでしまいました。

『ゴブスレ』側の描写に関しては、自分は最低限のことしか書いていなくて、くもさんに料理していただきました。

蝸牛:『ダンまち』のキャラクターを書くのが世界で一番上手いのは大森先生に決まっているので、面白い面白い言って楽しませて頂いて。それで言ったら『ゴブスレ』のキャラクターなら自分はそこそこ上手く書けるかなと(笑)。

あと、『ダンまち』と『ゴブスレ』双方の世界観のギャップはもうちょっと強調していいかなと思ったので、手を加えさせてもらいました。

――プロット段階で、「これは絶対に見せたい」というポイントはありましたか。

大森:自分が意識していたのは、くも先生という作家の魅力、『ゴブリンスレイヤー』の原作小説でしか味わえないTRPG的な世界の面白さを、ゲームという媒体を通して伝えたいということでした。

蝸牛:『カオスフレア』という異文化交流のTRPGが好きなので、お互いの世界のギャップにより生じるコミュニケーションとその面白さをしっかり見せたいと思っていました。
世界観も一見似ているようで、けっこう違うんですよ。たとえば『ダンまち』にはステータスがあるけど『ゴブスレ』にはない。あと同じRPGでも、『ダンまち』はデジタルなRPGの影響が強い世界観なのに対し、『ゴブスレ』はアナログなTRPGですし。

大森:両作品の差異が上手く出ているのはくもさんのおかげです。自分はシナリオ監修をずっとやってきたせいか、会話劇の面白さを追求しがちで、細かい差異を拾えなかったんです。そこをくもさんが上手くやってくれたんです。

蝸牛:これは自分のシナリオの作り方もあって、キャラクターをシナリオに放り込んで好きに動いてもらう、TRPGのような感覚で書いてるんです。TRPGは本筋のストーリーの他、キャラクター同士の掛け合いも魅力ですから、それが大森先生のプロットにそれが上手くハマりましたね。

大森:自分はいつも、見せたいシーンありきで着地点をつくり、そこから逆算して書いています。
今回のコラボでは、ベルとゴブリンスレイヤーがしんみりと英雄について語り合う情景が浮かんできて、そこから大まかなポイントを作っていきました。
ただ、今回の舞台は『ゴブスレ』8巻と『鍔鳴の太刀』に関わる話だったんですけど、ちょっと忙しすぎて原作8巻まで手をつけられず……。そこの舞台設定に自分は一切触れることができなかったんです。コラボして頂いている側として本当に申し訳ないです。

蝸牛:そしてまだ『鍔鳴の太刀』は書いてる途中なんですよね……(笑)

大森:だから「ごめん、くもさん、あとのディテールはどうか……!」みたいな感じで投げてしまったんですが(笑)、すごく面白いものを詰め込んで頂いたので拝んでも拝みきれません。

――今回のお話は、『ダンまち』の明るい世界観に対し、『ゴブスレ』の死が隣り合わせな緊張感が入り込んできて、そのギャップが印象的でした。

大森:ありがとうございます。

蝸牛:『ゴブスレ』はこれくらいわりと普通では? くらいの感覚なんですが(笑)。『ダンまち』も明るい雰囲気ですが、わりと殺伐としていますよね。キャラクターもけっこう死にますし。

大森:巻数が進むとだんだん暗くなりがちですよね。

蝸牛:自分は「人は基本的に死ぬ、だからと言って暗くなる必要もない」ぐらいのノリで書いています。その辺りは『ダンまち』も変わらないんじゃないでしょうか。

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■コラボで避けたいこと「説教はしたくない」
――作品の違いによるギャップを見せたいとのことでしたが、互いの世界観を壊さないために「これはやらないようにしよう」といったルールはありましたか?

大森:今回、『ゴブスレ』の令嬢剣士というキャラクターが登場し、彼女は今回のメンバーで一番未熟な冒険者かもしれないキャラクターなんですが、彼女に対して、説教くさいやり取りはさせたくなかったんです。そこは逐一くもさんに確認しつつ進めました。

蝸牛:自分もクロスオーバーするときに、特定のキャラクターに対して「説教しない」ことと「上から目線にならない」よう気をつけています。あと一方が一方をひたすら褒めて持ち上げてしまわないようにとか。
とはいえ、ベテランなゴブスレさんから見ると、新人冒険者なベルくんは色々危なっかしく思えてしまいますし、ベルくんは教わったら素直に「はい!」って言いそうなので……(笑)。大森先生に、「こういうことを言わせても大丈夫ですか?」と確認しながら書きました。

大森:どのコラボシナリオでも言えるんですが、ベルは頼りなくて足を引っ張っても許されるキャラクターなので、その辺りは大丈夫ですよ。

蝸牛:ベルくんは、ほんと良い子ですよね。

大森:弱い部分を見せてもヘイトが貯まらないですし、弱いところからの逆転を上手く使えるキャラだと我ながら思います。

蝸牛:ゴブスレさんは自分なりに後輩の面倒を見ようとする人なので、ベルくんが素直に聞いてくれるからたくさん喋らせてもらえました。

大森:そこはびっくりしました。ゴブスレさんが今までに見たことないほど話しているので。

蝸牛:聞かれたら素直にしゃべるんですよ。聞かれないから黙ってるだけで(笑)。

大森:キャストの梅原裕一郎さんもビックリしたんじゃないですかね?

蝸牛:ゴブスレさんは主人公なのにセリフが少なくて、梅原さんには毎回申し訳なく思っていたんです。それに格好良く喋ってくださるのに、「ゴブスレさんは格好良くしないでください」となるのも心苦しくて。

大森:え、そんなお願いしているんですか? でも梅原さんだと何を言ってもカッコよくなってしまうのでは?

蝸牛:梅原さん自身、カッコよく芝居しようとは思っていないんでしょうけど、それでもカッコよすぎてしまうので「なるべく抑えてください」と、音響監督さんらがお願いしていることがありましたね。実際梅原さんの声は本当にカッコいいので。

大森:なるほど、それでああいうお芝居になっているんですね。ゴブリンスレイヤーさんらしさが出ていて、すごく良いですよね。

■タイトル決めで板挟みになった大森先生
大森:今回の作業で一番怨嗟の声を上げたのは、コラボのタイトルを決める時に運営さんとくもさんとの間で板挟みになったことです(笑)。最初にくもさんに提案してもらったタイトルは「神は骰子を振った」。これは第一話のタイトルに使用していますが、それをコラボタイトルとして運営さんに提案したら「うーん……」といった反応で(笑)。

蝸牛:その後、カッコいい横文字のタイトル案が送られてきたので、今度はこっちが「うーん……」となり(笑)、じゃあ「ダンジョンにゴブリンを求めるのは間違いじゃない」はどうですかと返事したら……。

大森:大反対されてしまいました(笑)。

――横文字のカッコいいタイトルはなぜダメだったんですか。

蝸牛:ダメというわけではなく、自分が少し前の海外SF小説やハードボイルド小説、ファンタジー小説のシンプルな題名や翻訳された和文タイトルが好きだからか、カッコいい横文字タイトルを付けられると「うーん」となるんです。逆中二病ですね(笑)

大森:でも運営さん側はカッコいいタイトルをつけたかったようで。

――それでどのように落着したのでしょう?

蝸牛:後で「『ダンジョン&ゴブリンズ』はどうですか?」と提案したら、それが通りました。

大森:あれは提案してもらって本当に助かりました。コラボのタイトルだけでこんなに揉めたの初めてでしたよ! もういっそ、くもさんと運営さんで直接会って話し合って! と叫びそうになりました。中間管理職というのもあれですが、大変さを思い知りました(笑)。

――今回のコラボビジュアルのポイントや気に入っている部分はありますか。

大森:自分は牛飼娘の一途なとこが大好きなので、この兜を抱えているイメージはキュンとしますね。

蝸牛:イラストは基本的にお任せしているので、「ゴブスレさんにスタイリッシュなカッコいいポーズをつけないでください」とお願いした程度ですね。皆さん、主人公だから格好良くしようとしてくださるのですが、ゴブスレさんはそんな凄い動きとかできないので……!(笑)。

大森:でもくもさん、ゴブスレさんの、このガニ股のポーズは良かったんです? くもさんから頂いた参考画像をそのままお渡ししてイラストにしてもらったんですが。

蝸牛:ゴブスレさんはわりと「腰を深く落として構える」とかやってるので……(笑)。
あとまあこのポーズは、ウェブ版の頃から追いかけてくれている方々にはニヤリとして頂けるかな、と。

大森:なるほど(笑)。あと、桜花は『ゴブスレ』の重戦士をイメージしたビジュアルになっています。

実は、最初に上がってきたイラストは、桜花がゴブスレさんの鎧を着たもので、「これ、桜花とゴブリンスレイヤーさんの話になっちゃいますよ!」と言って直してもらったんです(笑)。

思わず笑ってしまうほど、かなりいい仕上がりだったのですが、今回のコラボシナリオには合わないだろうなと。

■『ゴブスレ』劇場版の前日談でありTVアニメの後日談
大森:これまでいろいろコラボをやらせてもらいましたが、実は最初、コラボというものに抵抗感があったんです。二次創作は大好きではあるんですけど。

蝸牛:あれ、それ初耳ですね。ちょっと意外でした。

大森:『ダンメモ』最初のコラボの話をいただいた時、実はかなり渋っていました。
でも、『キノの旅』の時雨沢恵一先生とはよくお話させてもらう機会があって、時雨沢先生となら面白いものが作れるかもしれないと思って挑戦することにしたんです。

『キノの旅』なんてレジェンド級の作品を手がけられた先生との共作は緊張感も伴いましたが、お互いにアイデアを出し合いながら綿密にコミュニケーションを取りながらコラボシナリオをつくることができて。その結果、コラボに抵抗感がなくなったんです。

蝸牛:なるほど。そこから「ご飯食べよう! ところでコラボやらね?」につながったと……(笑)。

――では最後にあらためて今回のコラボイベントの注目ポイントをお願いします。

大森:今回のコラボシナリオは、令嬢剣士のエピソードを描く『ゴブスレ』劇場版の直前の時系列という体で書いていますので、それを踏まえていただくと一層楽しめると思います。
一番の見どころは、ベルとゴブリンスレイヤーとのかけ合いです。とても面白い異文化交流が見られると思うので、ぜひお楽しみください。

あと、今回ゲームスタッフさんの作り込みも凄くて、ガチャも演出パートも背景素材も素晴らしい仕上がりです。

蝸牛:昨今、また流行りだしているTRPGですが、ジャンルとしてはまだまだ弱い。だからその魅力を知ってほしいという思いで書かせていただきました。
大森先生から、劇場版の前日談という話がありましたが、同時にTVアニメの後日談でもあります。アニメで冒険者、パーティとして成長したゴブスレさんや女神官さんたちがどんな風に活躍するかを楽しんでいただけると幸いです。

大森:そのパッションがシナリオにも滲み出ていますよね。20話の予定が、ボリュームが増えて28話になってしまった時のディレクターさんとプロデューサーさんの顔が今でも忘れられません(笑)。

蝸牛:それは本当に申し訳ありません!(笑)

大森:迷惑をかけたぶん、少しでも貢献しないといけませんね。自分とくもさんは、何度もガチャを引かなくては!(笑) アニメ!アニメ! 杉本穂高