【王手報知】5番勝負盤外も楽しい旅 里見香奈女流名人が谷口由紀女流三段に先勝

引用元:スポーツ報知
【王手報知】5番勝負盤外も楽しい旅 里見香奈女流名人が谷口由紀女流三段に先勝

 旅の始まりは雪景色から―。将棋の第46期岡田美術館杯女流名人戦5番勝負(主催=報知新聞社・日本将棋連盟、特別協賛=(株)ユニバーサルエンターテインメント)が開幕した。神奈川県箱根町の「岡田美術館 開化亭」で19日に行われた第1局は後手の里見香奈女流名人(27)が挑戦者の谷口由紀女流三段(26)に先勝した。独特の慣例がある、3日間の旅程を振り返る。

 一行を乗せたバスが箱根山の坂を登ると、雪国であった。視野全体が白くなった。宿泊ホテルにバスは止まった…。

 川端康成の文章を安易に模倣したくなるほど、東京から向かった箱根は一面の銀世界。「真冬の女流名人戦」を象徴する風景からシリーズは始まった。里見が「冬のタイトル戦は女流名人戦だけなので、雪を見て戦う意識が自然と強くなりました」と決意を語れば、谷口は「雨女なんですけど…『ゆき』ですからね」と吉兆と捉えていた。

 タイトル戦とは勝負を中心に据えた旅である。対局はもちろん、非日常の光景が数多く見られることが魅力になっている。

 〈1〉遠征 公式戦は基本的に東西の将棋会館で行われるが、タイトル戦は基本的に地方の旅館やホテルなどに遠征する。対局前日は観光や見学などを通し、普段とは違う対局者の表情が見られる。第1局では岡田美術館内で数千年前の土器や土偶などを鑑賞した。 〈2〉検分 通常と異なる環境で指すため、対局室で実際の盤駒や照明、空調などを前日にチェックする。今回も入念な検分が行われたが、翌朝の対局直前に里見が盤の位置の修正を提案。畳の縁が視線に入ることを避けた。勝負に臨むと感覚が鋭敏になる棋士という存在を物語る出来事だった。

 〈3〉前夜祭 関係者が一堂に会し、両対局者が抱負を語る。両者が中座した後、立会人らによって戦型予想が行われる。翌朝に「当たった」「外れた」と盛り上がるのもお約束。

 〈4〉和服 いよいよ対局当日。谷口は親友の高浜愛子女流2級(35)の義母から譲り受けた和服姿で現れた。男女問わず、和装は基本的にタイトル戦のみ。和服に袖を通すことを夢見て、普段の棋士はスーツ姿で対局している。

 〈5〉食事・おやつ 近頃、ファンが熱視線を送るポイント。両者とも名物「豆アジ天うどん」と「花豆のパウンドケーキ」を注文した。

 〈6〉大盤解説会 一般ファンを招いた別室で、棋士が大型の将棋盤を用いて対局を解説。対局者のエピソード、将棋界の近況を語るトークショー的な役割も大きい。対局後には感想戦前の2人があいさつに訪れるのもファンにはうれしい時間になっている。

 〈7〉一夜明け 対局翌朝、勝者にインタビュー。主催紙を開く姿、地元の名産品を用いた撮影が毎回話題に。今回は里見が箱根名産の寄木細工けん玉にチャレンジした。

 以上、男女合わせて15のタイトル戦で行われている主な慣習である。盤上の勝負以外にも楽しみは尽きない。(北野 新太) 報知新聞社