今泉力哉監督、田中圭と初タッグ「うれしいサプライズ」 主人公が“成長しない”ラブストーリー…映画「mellow メロウ」公開中

引用元:スポーツ報知
今泉力哉監督、田中圭と初タッグ「うれしいサプライズ」 主人公が“成長しない”ラブストーリー…映画「mellow メロウ」公開中

 昨年公開の「愛がなんだ」などラブストーリーに定評のある今泉力哉監督(38)が自身のオリジナル脚本で手がけた最新作「mellow メロウ」が公開中だ。田中圭(35)が生花店を営む主人公を、岡崎紗絵(24)がラーメン店を営むヒロインを演じる恋愛群像劇で不器用な片思いを描く。田中の起用を「うれしいサプライズ」と表現する恋愛映画の旗手は「セオリーを無視して主人公が成長しない物語」と作品の魅力を語った。

(有野 博幸)

 花屋の男とラーメン屋の女、そしてその周辺にいる人々の日常を描く。オリジナルの脚本を手がけた今泉監督は「ラブストーリーには『これが幸せ』という答えがないから面白い。基本的にうまくいかない人たちの物語が好き。そこの興味が尽きることはない」と語る。旺盛な興味や関心が作品作りの原動力だ。

 王道のラブストーリーとは一線を画す今泉ワールドが展開される。「セオリーだと主人公が悩みや葛藤を解決して成長していく。でも、今回は主人公が全く成長しない。だから『自分のダメなところも、ダメでもいいんだ』と肯定する。そうすることで勇気を与えられるんじゃないか。オリジナルで脚本を書く時は意識している」と発想の一端を明かした。

 「女性が女性を好きになったり、結婚しているけど、誰かを好きになったり。それぞれが問題を抱えながらも誰もそれをとがめない」。それぞれの心情や個性を認め、肯定する。「伝えたいメッセージは特にない。それを言うと、そのための映画になっちゃうから。見た人がどう思うかでいい。『片思いは伝えるべきか、伝えないべきか』。そんな議論が起こればいいかな」。ほんわかした作品の温度感と同様に落ち着いた口調で語る。

 主人公の夏目を演じる田中とは初タッグ。プロデューサーから売れっ子俳優の起用を知らされ、「え? 田中圭さん、スケジュール空いてるの?」と、うれしいサプライズに目を丸くした。撮影が始まると「いい意味で自己主張しない。自分のために芝居をしてない。作品のため、という人」と田中圭という俳優の本質に気付いた。交わした言葉は決して多くないが、以心伝心で互いの意図をくみ取り、「びっくりするくらい何も話していない」と笑う。

 自分がイメージした芝居を押しつけるのではなく、現場で生まれる空気感を生かす。「映画作りにおいて、監督ができることは、それほど大きくない。なるべく任せることも大事。最近、どんどん頼るようになっている。その方が面白くなる気がする」と気付いたという。撮影現場では、俳優陣が芝居に集中しやすい環境作りに力を注いでいる。

 「それって、愛情じゃなくて情だよ」「世の中の好きっていう感情は、ほとんどやり取りされない」など今泉監督ならではの趣深いセリフにも注目だ。最近、社会問題として取り上げられる機会が多い同性愛については「僕の長編作品の半分くらいに登場する。当たり前に存在させる。普通にいていいと思っているので。このような時代だから、というわけではないです」と語る。

 いつも力まず、自然体の今泉監督。その空気感は作品にも反映されている。将来の目標を尋ねると「できるだけ、長く撮り続けていければ、いいかな。日常生活を題材にしても、まだできることがある。年1本はオリジナル脚本の作品をやって、淡々とやり続けたい」。今後も気負わずマイペースで作品を生み出していく。

 ◆「mellow メロウ」

 さまざまな人々の実らない恋が多様に描かれる。一切、暗くなることはなく、美しく、面白おかしく物語が展開される。生花店を営む夏目誠一(田中)は独身・彼女なし。好きな花の仕事をして、穏やかに暮らしている。古川木帆(岡崎)が営むラーメン店で食事をするのが、ささやかな楽しみ。タイトルの「メロウ」は「成熟した、芳醇(ほうじゅん)な」という意味だが、「笹塚に住んでいた時、女性向けの洋服屋さんの名前がメロウで。音の響きがいいなと思って拝借しました」(今泉監督)。

 ◆今泉 力哉(いまいずみ・りきや)1981年2月1日、福島県生まれ。38歳。2010年に「たまの映画」で長編映画監督デビュー。「こっぴどい猫」(12年)が、13年のトランシルヴァニア国際映画祭最優秀監督賞受賞。「知らない、ふたり」(16年)、「退屈な日々にさようならを」(17年)、「パンとバスと2度目のハツコイ」(18年)などオリジナル脚本の恋愛群像劇を多く手がける。19年は「愛がなんだ」が公開。今年は「mellow メロウ」のほか、「his」「街の上で」の公開を控える。 報知新聞社