「映像研には手を出すな!」原作者・大童澄瞳が「これがアニメーションだよ!!」と唸る“アニメ版”の見どころ【インタビュー】

「映像研には手を出すな!」原作者・大童澄瞳が「これがアニメーションだよ!!」と唸る“アニメ版”の見どころ【インタビュー】

想像の翼を広げ、女子高生3人は自分たちの“最強の世界”を創造する。

アニメ制作に挑む少女たちを描いた大童澄瞳原作の『映像研には手を出すな』が、湯浅政明率いるアニメーションスタジオ「サイエンスSARU」によってアニメ化。満を持してのTVシリーズが2020年1月5日よりNHK総合で毎週日曜深夜に放送される。

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パースを使った独特の吹き出しや妄想力全開の設定図解、モノづくりにかけるワクワク感と熱い想い……心の奥の何かを呼び覚ますエネルギッシュな原作は、連載時からSNSで話題となっていた。
大童自身がアニメーションを自主制作していた経験が存分に発揮されている、アニメーション愛全開の心躍る作品だ。

放送開始を前に、大童にTVシリーズ放送に向けた心境をインタビュー。アニメーションと「動き」への愛を惜しみなく語ってもらった。
[取材・構成=川俣綾加]

■「アンタのこだわりは私に通じたぞ!!」
――アニメ制作陣に対して大童さんからこうして欲しい、あるいはしないで欲しいといったオーダーはありましたか?

大童:僕としては、タイトルさえ『映像研には手を出すな!』であれば、他に何を変えてもらってもOKとお伝えしました。

――何でも?

大童:キャラクターが全員変わってもいいし、何ならアニメーション制作の話でなくてもいい。

――すごく思い切った回答ですね。

大童:僕が本当に見たいのは、アニメーションの作り手である制作スタッフさんが、「面白いものを作ろう」として作ったものなんですよ。原作をなぞるよりもそれが重要。僕もそこを楽しみたいので「こうして欲しい」と僕からは言ってないですね。

――浅草(みどり)氏たちがアニメで動くのを見ていかがでしたか?

大童:まずは3人が動いていることそのものに感動がありました。本当にいいですよね。水崎(ツバメ)氏が使用人から逃げ回る大捕物のシーンが印象的で、原作にはない動きが描かれているのもよかったです。

浅草氏が何をする人か、それを受けて水崎氏がどう動いて、2人を金森(さやか)氏がどんな目で見ているか。初見の方もあのシーンで3人のキャラクターの個性に触れられると思います。
原作だと第1話は学校のシーンから始まって、徐々に3人の関係性が立ち上がっていきますが、TVシリーズではまた違った構成になっていて、アニメーションならではだと思いました。

――アニメの第1話の冒頭は、原作では第1巻の後半に出てきますね。

大童:実はこの部分、僕がマンガ連載を始めた時に第1話として設定していた場面なんです。でも担当編集さんからは「ここが最初だと導入として弱い」と。
アニメーションや映画を自主制作していたこともあってか、僕の頭の中では映像的な演出で描いたんですね。

しかしマンガはページ数に制限があり、入れられる情報は映像よりも少ない。読者に伝わりやすくするため、キャラクターのインパクトが前に出る第1話にしたんです。そうでないと読者が読むのをやめてしまう可能性が高くなるので。
第1話はマンガとアニメーションで媒体の特性が表れているところです。

――アニメ制作サイドは大童さんがこのパートを第1話冒頭に描こうと思っていたことを知っていた?

大童:いえ、全然。本当に偶然です。この構成にしたのは湯浅監督なのか、脚本の木戸雄一郎さんなのか、それとも他の要因で決まったのか全然わからないです。
でもここが導入として最適だと思ってくださったのはとても嬉しいですね。映像的な意味では「僕の演出は間違ってなかったぞ」っていう(笑)。

――単行本2巻の134ページにある「どこの誰だか知らないけど/アンタのこだわりは私に通じたぞ!!って。」そのままの出来事ですね。

大童:まさにそうですね。作品を媒介して通じ合った。

――「アニメの作り手が考えた面白い見せ方」をすでに楽しんでいますね。

大童:ストーリーの流れは付け加えたり減らしたり整理されていますが、それはメディアの違いによる微々たるもの。映像研の部室に描いてあるマル映の看板が動くなど、アニメーションを作る人のアレンジが本当に楽しいです。
意外な部分がちまちまと動くようになっていて驚きのあるアニメーション映像になっています。

――浅草氏、水崎氏、金森氏3人の声は、それぞれ伊藤沙莉さん、田村睦心さん、松岡美里さんが務めています。本編を拝見したところ、生っぽさのある声が印象的でした。

大童:僕もそこにグッときています。湯浅監督と初めてお会いした時に、互いに「棒読み系の芝居が好き」って話をしたんですよ。

――棒読み系?

大童:いわゆるアニメっぽい抑揚のつけ方とは少し違う演技で……何と言えばいいんだろう。アニメっぽさが少ないタイプが好きというか。
もちろん普段見るアニメの声優さんたちの演技がどうこうって話ではなく、単純に僕の好みです。

――声も低くて、アニメに登場する女子高生としては珍しいです。

大童:もともと全員少しハスキー寄りの声のイメージはあったんですよ。キャラクターごとにもっと差をつけたほうがわかりやすい面もあるけど、この3人がこの声なのはすごくいいですね。
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■些細な「動き」が出すリアリティに惹かれる
――大童さんはアニメーションでも実写でも「動き」に心動かされるそうですね。どういう「動き」が好きなのですか?

大童:どういう「動き」……そうですね、なんでも好きではありますが、あえて挙げるなら「リアル寄りの動き」が好きです。
その動きを現実との対比で見ることができて「こういう時、確かにこの動きするな」みたいなものが予備知識なしでわかるので。それが再現されたアニメーションに驚いたり感動したりしますね。

――Twitterに「これがアニメーションなんだよ」と浅草氏があぐらで望遠鏡をかまえている場面を投稿していましたが、まさに今おっしゃった通りの内容ですね。

大童:ちょっと膝をあげてから前のめりに行く動きですね。あぐらの状態から前のめりの姿勢になる場合、上半身をぐっと動かさないといけない。その際に重心を変えることになるので膝を一度軽くあげると簡単に上半身を前に傾けることができる。
その動作が描かれていて「これだよ!! これがアニメーションの仕事だよ!!」(笑)。

もちろん、細かい演技を省いた動きにも気持ち良さはあります。なんなら動きに注目しなくたってアニメーションは楽しい。紅葉シーズンの山に入り、「この木は何という名前なのか」「葉っぱの種類は何なのか」を見ながら観察してみるのもいい。同時に、山全体の紅葉を見て楽しむのもまた素晴らしいのと同じで。

――『映像研』の空想と現実が交錯して世界が広がっていく感覚は、湯浅監督作品と通じる部分があります。『映像研』を湯浅監督がアニメ化すると発表されたとき、納得感を持ったファンの方も多いと思います。

大童:よくそう言われますね。僕の中ではそれがどこからどこまでの話をしているのかわからなくて。湯浅監督がアニメ化してくださるなら絶対に面白いものになるという確信はありましたけど。

――「どこからどこまでの話」というのは?

大童:読者のみなさんは、マンガでもアニメーションでも完成した『映像研』を見ていますよね。僕の場合はマンガを描いていくプロセスが、自分の中にある。

逆に僕が湯浅監督を見た場合、完成後のアニメーションだけが見えていて、制作プロセスのことは知らない。だから共通点をどこに見出すかは僕からすると不思議な感じ。受け手のみなさんは完成物を見て何か共通項を見出しているんでしょうね。

ただ、ハチャメチャな動きは絶対に出てくる作品なので、そういう部分は湯浅テイストにマッチするはず。完成したアニメーションを見た時に「みんなが言っていたことはこれだったのか」と気づけるかも、という期待もあります。

――大童さんは制作プロセスで作品を見ている。

大童:そうですね。湯浅監督への信頼は僕の中で確かなもので、『カイバ』『四畳半神話体系』『マインド・ゲーム』、それから『クレヨンしんちゃん』で湯浅監督が担当したパートも繰り返し見たし、アニメーターとしてのすさまじい能力は全部わかっているし………って今、言いそうになりましたが、奥深すぎて全部はわかっていないです(笑)。

――アニメ作品とつながりでいうと、原作では『未来少年コナン』が広告つきで登場してびっくりしました。

大童:「ここで『未来少年コナン』を出したい」ということで担当編集さんが許諾を取ってくれて、掲載条件が使用料を払うか宣伝広告を入れるかのどちらかだったんです。「だったら広告でしょ!」と即答でした。だって自分のマンガで『コナン』の広告を入れられるなんて最高じゃないですか(笑)。

――これまでのアニメ視聴歴で、印象に残っている「動き」は何ですか?

大童:たくさんありますが、まず思い浮かぶのは、『交響詩篇エウレカセブン』の第26話(「モーニング・グローリー」)、エウレカが乗っていたリフボードが壊れ、LFOのブースターに捕まって落ちるシーン。
ブースターは円錐の形をしているから徐々に手が滑っていくのですが、落ちる前に一回持ち直すんですよ。そこが吉田健一さんの作画で、めちゃくちゃいい! こういう「動き」あるよね!と。

あと『プラネテス』のEDで海沿いをバイクで走行するシーンも「あ、これ吉田さんのバイク(の作画)だ」と思ってたら、やっぱり正解だったり。

――『映像研』ではどうですか?

大童:浅草氏ら3人が作る「そのマチェットを強く握れ!」のアニメーションは、作画の面白さが強く表れるシーンになるはず。僕も期待しています。

『映像研』は子供から、僕の親世代の方まで広く読んでくださっています。TVシリーズの放送は深夜ですが、お子さんの健全な成長にもいいと思いますし(笑)、昔からのアニメオタクの方に楽しんでもらえる要素もたくさんあります。

サイエンスSARUはFlashアニメーションを使ったり、海外のクリエイターも参加していたりと時代の先端を行くスタジオ。『映像研』をサイエンスSARUがアニメーションにすることで新たな衝撃が生まれると思うので、楽しみにしていてください。

(C)2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会 アニメ!アニメ! 川俣綾加