肥大化したSNSで発信力のダイエットに取り組むのはどうか

肥大化したSNSで発信力のダイエットに取り組むのはどうか

【2019年下半期ネット炎上事件簿】最終回

 元アイドルで会社経営者の川崎希夫妻のブログは、普通を装いながら見る者の嫉妬心をあおる「上級国民」の要素が満載で、典型的な炎上予備軍だといえる。度を越した誹謗(ひぼう)中傷や脅迫の書き込みへの対処は見事なものだったが、うかつに生活を見せ過ぎる投稿にはあまり感心しない。

 えっ! と思わせるような金遣いをしばしばやる割には、普段は等身大をアピールをしており、必ずしも覚悟の炎上マーケティングともいえないのが危うさを感じさせる理由だ。

 同様の危うさ、落ち着きのなさは、ZOZO前社長の前澤友作(44)にも見られる。

 ZOZOの売却、社長退任後はユーチューバーとしての活動を始めたが、1000億円の預金残高を記帳して早速、炎上した。そもそも、総額1億円お年玉プレゼントなど金がらみで話題になることが多かったが、その都度「発想が下品」「品のない小学生レベル」などと批判にさらされてきたのはご存じの通り。

 同時に、炎上させるだけ思うつぼ、話題になることでタダで宣伝していると評価や擁護する指摘が見られるのも、いつものこと。「週に1回マスコミに取り上げさせるのが真の目的では?」といった声もあったが、本当にそうだとしたら、崖っぷち芸能人が世間から忘れられないように話題づくりをするようなものか。

 とはいえ、狙ってやっているかと思いきや、批判に対して毎回のようにちゃんと反論してくるあたり、どこまでが本意なのか測りかねる部分もある。

 ガチンコで発信しているように見せかけて、いわゆる「プロレス」をやろうとして下手なだけかとも思えるが、いずれにせよ、はた目からは剣が峰をフラつきながら渡るような危うさを感じる。

 沈黙は金、冗舌は銀とは言うものの、SNS全盛にあって、ただ黙っているわけにもいかない。となれば、炎上も含めてどれだけうまく手綱さばきを見せられるか、そこが、ただ叩かれるだけの悪い炎上と、結果的に得をする良い炎上との分かれ目だ。

 炎上の猛者たるゆえんは、炎上させる要素の完璧なコントロールにある。だからこそ、マーケティングなのであり、わかってやっているから得する方へも誘導できる。同じ金の使い方でも、一方は下品だとネガティブな上級国民に、他方は豪快だとポジティブなセレブに受け取られるのは、普段の「見せ方の節制」の違いなのである。

 そろそろ、肥大したネットでの発信力のダイエットに取り組んではどうか。投稿数や書く分量の減量は外見を整える、内容の見直しは内臓脂肪を取るようなものだ。そう、いつものことなのだ。

(井上トシユキ/ITジャーナリスト)