「ヒロアカ」原作者・堀越耕平と長崎健司監督が白熱対談!原作とアニメ、それぞれの難しさとは?

引用元:Movie Walker
「ヒロアカ」原作者・堀越耕平と長崎健司監督が白熱対談!原作とアニメ、それぞれの難しさとは?

2014年に堀越耕平が「週刊少年ジャンプ」にて連載を開始して以来、現在までにコミックスがシリーズ累計発行部数2500万部突破という人気を誇る「僕のヒーローアカデミア」、通称“ヒロアカ”。2016年からはテレビアニメもスタートされ、そのファン層はジャンプ読者以外にも爆発的に広がっていった。そして、2018年には初となる劇場版が公開され、観客動員130万人超の大ヒットを記録。さらに“ヒロアカ”の人気は日本に留まらず、北米、ヨーロッパ、アジアといまや世界中へと大きな広がりを見せている。そんな大きな波とうねりを受け、ファン待望の劇場版最新作『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』が公開中だ。

【写真を見る】個性的なキャラクターたちが躍動!「ヒロアカ」は劇場版も見逃せない

本作では、雄英高校ヒーロー科1年A組の生徒たちが全員集結。圧倒的な強さを誇るシリーズ史上最凶の敵〈ヴィラン〉・ナインに立ち向かう。そのストーリーは、本作の総監修・キャラクター原案も手掛ける原作者の堀越耕平が、「原作の最終決戦でやりたかったネタの1つ」と語る、ファンの想像をはるかに超えるものとなっている。このたび、「ヒロアカ」の生みの親である堀越耕平と、テレビシリーズ第1期~第3期と劇場版2作の監督を務めた長崎健司の対談が実現。本作にかける熱い思いを存分に語ってもらった。

■ 「『全員がPlus Ultra〈プルス ウルトラ〉する』さまを描いてほしい」(堀越)

――劇場版第1作の大ヒットを経て、第2作についてはどのような話し合いから始められたのでしょうか?

長崎健司(以下、長崎)「第1作の公開前から、アニメサイドでは脚本の黒田(洋介)さんたちとぼんやりと第2作に向けたアイディアをまとめてはいたんですが、堀越先生と初めて第2作についてお話ししたのはテレビアニメ3期放送中の時でした。でした。その時に『1年A組を全員きちんと出したい』という話をしました。第1作では全員を活躍させられなかったので」

堀越耕平(以下、堀越)「敵の話も結構しましたね」

長崎「そうですね。第2作では名前が全面に出るような敵キャラを作ろうと。しかも、すごく強い敵を出すなら、テレビシリーズで描かれたオール・フォー・ワン戦からの流れをくんだ敵であるべきかな、とか」

堀越「原作の話とも繋げられるといいなと思いながら、今回の敵を考えていきました。でも、僕はそんな話をしながらも『この作品はちょっと生き急ぎすぎではないか?』とも思っていたんですよ(笑)。第1作でオールマイトとデクが一緒に戦うという、ヒロアカこの作品の天井ではないかということをやったあとに、すぐ劇場版第2作に入ったので。第1作以上のものがどうやればできるか、初めはすごく不安でした」

――その思いがあったからこそ、今回はデクと爆豪の共闘という展開を盛り込もうと?

堀越「そうですね。デクと爆豪の共闘はアニメサイドから提案してもらったものでしたが、その2人なら第1作でのオールマイトとデクの共闘に続く第2作に相応しい熱いドラマが描ける気がしました」

長崎「そんななかですごく記憶に残っているのが、堀越先生からいただいたメモに『地獄絵図にしてほしい』と書いてあったことです。これはえらいことになったなと思いました(笑)。でも、その思いはすごくよくわかりましたし、そのくらい強い敵を描けてよかったと思っています。敵が強いからこそみんなで倒そうとする、全員が活躍する話にもできました」

堀越「そうですね。『全員が頑張る』ではなく、『全員がPlus Ultra〈プルス ウルトラ〉する』さまを描いてほしいとお願いしました」

■ 「『原作の熱量をどうやってアニメに置き換えていくか』をずっと考えています」(長崎)

――長崎監督はこれまでのテレビシリーズの作業も含め、この作品をアニメ化していく上で、どんなところに難しさを感じていますか?

長崎「『原作が持っている熱量をどうやって取りこぼさずにアニメに置き換えていくか』をずっと考えながらやっています。単純に原作に描いてある絵を、そのままアニメに写していくのではなく、自分が読んでおもしろいと思った感情を、そこにどうプラスアルファしていくかを考えているんです。『ここを読んで僕はこれほど熱くなったんだ』という思いを乗せていくと、その分、現場は大変になってしまうんですが、音楽も含め、そこは出していこうと思ってやっています」

――堀越先生はそうして作りだされるアニメを、劇場版もテレビシリーズも含めて、どんな思いでご覧になっていますか?

堀越「ただひたすら感謝しかないです。本当にすごい人たちにアニメにしていただいているんだと。個人的に漫画全般で一番おもしろいなと感じるのは、やっぱりキャラクターの感情が爆発するところなんですよ。僕はどの作品を読んでいても、そこに一番グッとくるので、『ヒロアカ』もそこをおもしろくしようと思って描いているんです。そうしたポイントをアニメでも絶対に外さずに盛り上げてくれるので、感謝しきりです。その一方で、アニメを観ていると、アニメは絵が動くし、アクションシーンではド派手な演出をしてくれているので、『漫画以上のものが「ドン」と出てきたな』と思うことがあるんです。そういうときは悔しいなと思います(笑)。そして、それならアニメよりもっとおもしろいものを描かないといけないなと感じるんです。感謝しつつ、かなりの刺激にもなっています」

長崎「やっぱり媒体が違うので感じられることでしょうね。逆にアニメからすると、画面の比率がずっと同じなので、漫画の大ゴマのような表現ができないんですよ。漫画だとページをめくるとドーンと大ゴマがあって一気に惹きつけられることがあるんですが、アニメではそのメリハリをどうやって出すかを考えないといけない。そういう見せ方を考えていくのは楽しい部分でもあるんですが、苦労する部分でもあります」

堀越「アニメにはそういう難しさがあるんですね。漫画だと扱いが小さくていいコマは本当に小さく描けばいいけど、アニメの画面は大きさがずっと同じですもんね」

長崎「しかも時間が流れてしまうから、止められないというのも大きいです」

堀越「それはおもしろい違いですね」

■ 「アメコミを読んで育った人たちにも楽しんでもらえていることが、すごく嬉しい」(堀越)

――お2人が影響を受けたヒーローものの映画作品などあれば教えてください。

堀越「僕はサム・ライミ監督の『スパイダーマン2』ですね。実は今年観た映画のベストも『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』なんです。『ファー・フロム・ホーム』は、たとえスパイダーマン映画でなかったとしても、普通によくできた映画だなと思いました」

長崎「僕の場合、ヒーローものの映画と言われると難しいですね。テレビでもよければ『仮面ライダーBLACK』なんです。でも、映画のヒーローものといわれると……やっぱり『ダークナイト』ですかね。アメコミ原作のヒーローを特に意識し始めたのが、『ダークナイト』が公開されたあたりからだったと思います」

――その頃から始まったと言ってもいいアメコミブームに乗って、国内でもアメコミ関連のアパレルやグッズが広く展開されるようになりました。そんないまの状況についてはどう感じていますか?

堀越「僕はそうした供給が始まってから、本格的にアメコミに興味を持ったので、アパレルやグッズが豊富になったいまの状況には単純に『やったあ!』と思っています(笑)」

長崎「それこそサム・ライミ監督の『スパイダーマン』3部作が2002年から始まって、『2』が2004年でしたかね。そのくらいの時期から一気に増えた気がします。単純に映画として観ていておもしろい作品が増えたのが大きいですよね。映画の技術も並行して進歩していったので、そうした技術面もブームを牽引した要素のひとつだと感じています」

堀越「『ヒロアカ』もそんな流れのなかから生まれてきた作品なので、いまの状況にはありがたいとしか言えないです(笑)」

――世界的なアメコミブームのなか、その流れから生まれた「ヒロアカ」は劇場版第1作が北米でも好成績を記録しました。海外での「ヒロアカ」人気についてどう感じていますか?

堀越「純粋に嬉しいです。最初は、たまにハリウッド映画で見かける『どこか奇妙な日本』のように、向こうの人は『アメコミっぽいけど、なんか違うぞ?』くらいに捉えられているのかと思っていたんです。でも、昨年、アメリカのコミコンに行って、きちんと内容を把握したうえでキャラクターたちを本気で応援してくれていることが感じられました。アメコミを読んで育った人たちに純粋に楽しんでもらえていることが、すごく嬉しかったです」

長崎「今回の映画も第1作に負けないエモーショナルな展開があり、音楽も含めて、『エモ』に全振りしています。なので、国内はもちろん、海外のファンの方たちにも満足してもらえるフィルムになっていると思います。ぜひできるだけ多くの方に、ご覧いただければと願っております」

(Movie Walker・取材・文/橋本 学)