阪田知樹、2020春は横浜で、そしてベートーヴェンで始動

引用元:チケットぴあ
阪田知樹、2020春は横浜で、そしてベートーヴェンで始動

「音が自然に届く素晴らしい響きが大好きです」

横浜みなとみらいホールについてそう語るピアノの阪田知樹。少年時代からの地元でもある横浜で、2年連続となるリサイタルを開く(2020年3月1日・大ホール)。前回の全リスト・リサイタルに続き、《ピアノ・ソナタ》と《ラ・カンパネッラ》のリスト作品を今回もプログラムに入れた。「私の中で特別な作曲家ですし、《ピアノ・ソナタ》は人生をかけて勉強し続けるべき、自分の中でも常に進化している曲。10月にベートーヴェンの最後の3つのソナタに取り組んだのですが、リストのソナタは、ベートーヴェンの32曲のソナタの延長線上に存在する曲だと考えていて、特に最後の第32番のソナタとの類似点にはいろいろと気づいていました。それにあらためて直接触れたことで、目指すものがよりクリアになってきた気がしています」

【画像】インタビューに答える阪田知樹

リサイタルは一般的な2部ではなく3部構成。第1部にモーツァルトのソナタ第5番とシューマンの《交響的練習曲》、第2部がリストのソナタ、第3部に《ラ・カンパネッラ》を含む、さまざまな編曲作品。「SP時代の巨匠たちのリサイタルを研究してみると、3部に分けていることが多いんです。第1部がクラシカルな作品。第2部がちょっと挑戦的な作品。第3部はアンコール的な意味合いも込めて、楽しく聴ける作品が続くという形です。今回はまさにその形。巨匠たちへのオマージュです」

さらに新たな試みも。「彼らは、作品を弾く前に、つなぎの即興を入れることが多かったんですね。バックハウスやディヌ・リパッティがそうです。演奏者自身も聴き手も気持ちの準備ができる。それをやれたらなと思っています」作曲家でもある阪田ならではの発想かもしれない。「演奏会を、大きな枠で全体としてお届けしたいと思っています。植物のポプリのように。それをどういうふうに作ってプレゼントするのかが、私たちの表現です」

リサイタルの翌週にはヴァイオリニストの諏訪内晶子がプロデュースする「国際音楽祭NIPPON 2020」の一環で「ベートーヴェン室内楽マラソンコンサート」(3月8日・東京オペラシティ)に出演。諏訪内とヴァイオリン・ソナタ第10番などを弾く。「諏訪内さんは、彼女ならではのパッションをもつ音楽家。その諏訪内さんがベートーヴェンとどう向き合われるのか、最も間近で聴くことにもなるのでうれしいですし、諏訪内さんのCDを子供の頃から聴いていたので、なんだか不思議な気持ちです」

9時間を超える長丁場のコンサート。「作品1のピアノ三重奏曲も演奏します。後期のソナタ第10番と合わせて、ベートーヴェンの音楽の発展、変化を1日で体験できるのは楽しみです」

2020年6月からはリスト編曲によるベートーヴェン交響曲全曲ツィクルス(全9回・Hakuju Hall)もスタート。彼のベートーヴェンとの向き合い方にもいっそう注目していきたい。

取材・文:宮本明