初出場のからし蓮根、「日常生活の延長にM-1がある」

引用元:Lmaga.jp
初出場のからし蓮根、「日常生活の延長にM-1がある」

高校の同級生だった伊織(いおり)と杉本青空(そら)が2013年に結成したお笑いコンビ、からし蓮根。武器は、杉本が放つ熊本弁の鋭いツッコミと、190cmという高身長で圧倒的な存在感を持つ伊織の奇想天外なボケ。『第8回ytv漫才新人賞決定戦』の優勝を勝ち取り、『M-1グランプリ(以下M-1)』では2年連続準決勝敗退だったが、今年は決勝進出。今、勢いに乗る2人に相方や漫才への思いや意気込みを語ってもらった。
取材・文/西村円香 写真/木村華子
「熊本では人前でふざけたら怒られた」(杉本)

【写真】舞台に立つ2人

──熊本で育ったお2人が、芸人を目指したきっかけとコンビを組んだいきさつを教えてください。

杉本「中学生のときに『M-1グランプリ』をテレビで見て、自分もお笑いをやってみたいと思ったんです。でも、熊本だと漫才を見る機会も年末年始の番組がほとんどで、田舎の中学校ということもあって、なかなかお笑いしようという人はいなかったんです。高校に入学して街なかに出てきたら、クラスに良さそうな人がいたので声をかけました」

伊織「誘われたので、軽い気持ちで全然いいよって。一生やっていく感じじゃなく、楽しくやっていければ・・・くらいの思いでした」

杉本「高校生の漫才コンテストの九州大会で優勝もして。僕は最初から吉本興業の芸人養成所にも入るつもりで、大阪の大学に進学しました」

伊織「僕は、漫才が楽しかったので一緒についていった感じです」

──熊本と大阪では、言葉だけじゃなくお笑いのノリも、会話のテンポも全然違いますよね。大阪に来てみてどうでしたか?

杉本「すごくしゃべるし、みんな元気やな・・・と思いました」

伊織「大阪の人は常にボケているし、性格も裏表がないですよね」

杉本「僕らは小さい頃から、人前でふざけるなって教えられて育ってきているので、日常でボケないし、つい真面目さがでてしまう。熊本育ちと、関西育ちの芸人との違いですね」

──真面目なおふたりだから養成所での成績も良く、2016年にはかつてダウンタウンも受賞した『今宮こども戎マンザイ新人コンクール』では新人漫才福笑い大賞も受賞されていますね。

杉本「養成所ではずっと成績は上位でしたね。やっぱり真面目なんで、とにかく一生懸命やりました。ありがたいことに相応の結果は出ましたが、デビューしてすぐは全然受けなかったですね。今思えば、漫才の構成も分かりにくかったし、無理して高度な漫才に挑戦したりもして・・・」

伊織「スベりまくりでしたね」

──からし蓮根は、漫才の賞レースもいつも良いところまで勝ち残るなど、着実に足あとを残しているのですが、デビュー後の数年は、ゆりやんレトリィバァなど養成所の同期が、メディアでどんどん活躍していった印象もあります。焦りや不安を感じることはありましたか?

杉本「ゆりやんなんて、僕らが気にする間もないくらい、ポーン!といったので。がんばれ!すごい人や!と応援していましたね」

伊織「お笑いのフィールドが違うからすごいな、天才やなって尊敬していました。ゆりやんのほかに、ラニーノーズ、濱田祐太郎、コウテイなどの同期がいますが、同じスタイルの人がいないこともあって、みんな仲は良いんですよ」

オール巨人師匠の店でバイトしていました(伊織)

──からし蓮根にも、芸人だけで食べていけない時代はありましたか?

杉本「ありましたよー! バイトを辞めることができたのは、2018年ですね」

伊織「僕はオール阪神・巨人の巨人師匠が経営するスナックでバイトをしていました。天神橋筋六丁目で店をやるから、近くに住んでいる若手はおらんかと聞かれて、働くことになって。巨人師匠って怖いイメージがあると思いますが、(来店する日は)逃げていたので怒られたことはないんです(笑)。バイトに入る度、ママさんに今日は巨人師匠の来店の有無を聞いて、やって来るとわかったら真面目に働いていました」

──意外と要領がいいんですね。バイトを通じて巨人師匠との思い出はありますか?

伊織「店のカラオケで師匠が87点、その後でお客さんが歌ったら90点を叩き出したことが。そうしたら、巨人師匠の闘士に火がついてしまい、次に歌って負けたほうが店を出て行くという勝負をすることに。そしたら巨人師匠は92点、お客さんは95点というまさかの結果になって、本当に店を出て行ってしまったんです。心配になって探しに行ったら、ほかのお店で、さっきと同じ歌を練習していました(笑)」

相方がネタ考え中は、プライベートを楽しむ(伊織)

──からし蓮根のネタは、杉本さんが1人で考えているのですか?

杉本「はい。ネタを書くと決めたら、一生懸命考えて、絞り出して書いているって感じです」

伊織「青空がネタを考えている間は、僕はまったくそばにいないですね。旅行に行ったり、デートしたりして、プライベートを楽しんでいます」

──まさかのリア充!一緒に考えろよ、と怒ったり、ケンカになることはないんですか?

杉本「まったくないです。ネタを考えるのも、僕が好きでやっているので。賞レースなどで結果が出ないときなどはお互いイライラしたりもしますが、結果が出るまで漫才をやるだけなので」

伊織「デビュー7年目ですが、もともとが同級生というのもあるし、大きなケンカをしたことも、解散を考えたこともないですね」

杉本「どちらかがよく遅刻をするとか、そんな問題もないので。僕らがケンカをするにしても、原因はひとつしかないんですよ。ただ、『漫才をちゃんとやれよ』って、それだけですね」

──漫才に対する真面目さがあふれ出しています(笑)。学生時代からずっと一緒にやってきて、お互いにここが変わったな~と思う点はありますか?

杉本「伊織は明るくなりましたね。昔はもっと暗かったし、自信がない感じだった」

伊織「舞台に立つようになって変わりました。喜ばしいことです。やっぱりウケたときは、めちゃめちゃ嬉しいんです。青空もどんどん自信がついてきて、昔よりも自分のキャラクターを出せるようになってきていると思います」

──では、ここを直して欲しいなという点は?

杉本「僕は大丈夫ですね~。伊織がなんかやらかしてくれた方がネタにもなるし!」

伊織「僕も別にない。青空は仕事場に奥さんと子どもを連れてきたりして、たまに幸せをみせてくるんで、ええなぁ、幸せそうやな・・・とは、思っています」

──幸せでなによりです!『M-1』は、念願の決勝戦進出ですが、今年は手応えは感じていましたか?

杉本「今年はずっと怖いなって感じでした。意外と怖さが勝ってしまって、勝ち進んでも楽しくはなかったですね。例年よりもメディアにも注目していただいていたので、変なプレッシャーもあったよね」

伊織「うん・・・。プレッシャーはすごくあった」

──そのプレッシャーにはどう打ち勝たれたんですか?

杉本「特別なことは何もしなかったんです。ネタ合わせも、回数を増やしたりすることもなく、舞台の直前にしっかり長めにやる。劇場の舞台でいつものように漫才をする、そんな日常の延長状に『M-1』があるという感じで臨んできました。勝ち進むにつれて、吉本興業が劇場の出番も増やしてくれましたが、舞台を重ねることでネタが研ぎ澄まされるという良いこともあるし・・・」

伊織「舞台でウケないことがあると怖くなって、考えますしね」

──なるほど。同じネタでも、場所や雰囲気年齢層によって反応は変わりますから、絶対ウケるという保証はない。漫才って難しいですね。最期に、決勝への意気込みをお願いします。

杉本「テレビで見ていた『M-1』の決勝に出られるなんてすごい。と、自分のことだけどびっくりしています。僕らの強みは普通だということ。漫才もあんまり変わったことはしていない。熊本弁も、一時期よりネタの中で使う頻度を下げていて、ここぞというときにバシっと熊本弁でツッコミを入れるなど、いろいろ試して、削ぎ落として今の形になりました。芸歴は一番下ですが、優勝の可能性はあるぞ!と思って出ています。やるしかない!」

伊織「全員に負けたくないです!」