幸四郎のチャップリン、泣ける!喜劇王に対抗、身体能力披露…師走の歌舞伎界が熱い

引用元:スポーツ報知
幸四郎のチャップリン、泣ける!喜劇王に対抗、身体能力披露…師走の歌舞伎界が熱い

◆国立劇場「蝙蝠(こうもり)の安さん」(26日まで)

 新作が激突。師走の歌舞伎界が熱い。東京・歌舞伎座ではグリム童話「白雪姫」より「本朝白雪姫譚話」、新橋演舞場が宮崎駿原作の「風の谷のナウシカ」、国立劇場では喜劇王チャールズ・チャップリン「街の灯」から、「蝙蝠(こうもり)の安さん」を上演中。いち早く話題作を観劇した記者が本音の感想をつづる。

 松本白鸚(77)が28年ぶりに勤める「近江源氏先人館・盛綱陣屋」の盛綱、松本幸四郎(46)が夢をかなえた「蝙蝠の安さん」の2本立て。喜劇王チャールズ・チャップリンの代表作「街の灯」を歌舞伎化した幸四郎の安さんが泣かせる。

 木村錦花の脚色、13世守田勘弥の主演で昭和6年(1931)が初演とは知らず不勉強を恥じ入る。しかしチャップリン映画ファンの幸四郎が長年温めていた上演とは、さすが新作創造に熱心な目の付け様だ。外国人俳優が演じた主人公の書き替えは初か、いずれにしても珍しい。

 蝙蝠安と言えば「与話情浮名横櫛」で知られる与三郎の小悪人の相方。錦花はその安さんを偽悪家で弱腰、お人よしに仕立てた。チャップリンの映画では奇妙で軽快な演技、多彩な表情が独特だったが幸四郎も負けていない。大きな両手だけの大仏の左掌に乗った幕開け、かと思えばいきなり宙乗りで上空へ。大仏の鼻の中に入り、逆さつりで「あっかんべえ」の第一声。身軽な身体能力で対抗するようだ。

 顔に蝙蝠の入れ墨を入れた安さんは日雇い人足の風来坊。橋の上で出会ったヒロイン、花売り娘・お花(坂東新悟)を一目見た瞬間の表情と間(ま)がいい。

 お花の盲目を治療する金のため、飛び入り相撲で勝てば賞金5両。しこ名が「蝙蝠男」。褌(ふんどし)一丁の裸姿のお尻ペンペンをしてから戦うが、ボクシングのような、クルクル回されて土俵を割り負ける芝居までサービス精神旺盛。あるいは花道で「あちらの国の喜劇王様だあ!」。お釜を山高帽に、杖をステッキに見立て、あの手この手の知恵を尽くした演技は新作への心意気が伝わった。

 大詰。この場で雰囲気がグッと変わった。目が見えるようになり、店を始めたお花をジッと見つめる、勧めてくれたお茶を飲むといった芝居が幸四郎の本領。何でも取り込む貪欲さが歌舞伎、単なる思い付きではなく観客に喜んでもらうのに打ち込む幸四郎を再確認した。(演劇ジャーナリスト・大島 幸久)

報知新聞社