菊之助のナウシカ、女形の“答え”普段は着物で見られない骨格の使い方や脚の運び…師走の歌舞伎界が熱い

引用元:スポーツ報知
菊之助のナウシカ、女形の“答え”普段は着物で見られない骨格の使い方や脚の運び…師走の歌舞伎界が熱い

◆新橋演舞場「風の谷のナウシカ」(25日まで)

 新作が激突。師走の歌舞伎界が熱い。東京・歌舞伎座ではグリム童話「白雪姫」より「本朝白雪姫譚話」、新橋演舞場が宮崎駿原作の「風の谷のナウシカ」、国立劇場では喜劇王チャールズ・チャップリン「街の灯」から、「蝙蝠(こうもり)の安さん」を上演中。いち早く話題作を観劇した記者が本音の感想をつづる。

 映画版で有名な、壮大な世界観。舞台で表現するのは無謀ではないか…。心の隅にずっと半信半疑の思いを抱えていた。しかし、冒頭。びっくりした。幕が開くと、そこに広がっていたのはこの作品の象徴である「腐海の森」だったからだ。参った。森に入り込んだ錯覚に陥り、一瞬にして引き込まれた。いや応なしに気分が高揚した。

 今作の歌舞伎化を5年がかりで企画し、主人公を演じる尾上菊之助(42)。公演中の負傷で演出が一部変更になっているが、作品の魅力は損なわれていない。

 皇女クシャナ役の中村七之助(36)も圧倒的な存在感を見せる。次代を担う、いやもう担っていると言うべきか。菊之助、七之助が歌舞伎の女形の力量を見せつける。演じ方は対照的だ。七之助はあえて女形の所作を部分的に封印し、“男装の麗人”的に役を作り上げている。口跡の良さも生きる。

 菊之助のナウシカ像は、「歌舞伎の女形とは?」という大きな命題の答えを表現しながら役を成立させている。一挙手一投足、全身の骨格の使い方、脚の運び。普段は着物で全てを見ることができないだけに、貴重な機会といえる。

 菊之助は、17年に古代インドの世界最長文学を歌舞伎化した「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」に挑んだ。ナウシカのルーツはギリシャ神話にある。まず不可能に見える絶壁のような「対象」におじけず、よじ登り、頂を目指そうとする。今作でも「深く複雑な世界だから」が突き動かされた理由だった。

 「蝙蝠の安さん」にチャレンジした松本幸四郎にもいえるが、400年続く歌舞伎の伝統に風穴を開けるのは容易ではない。新作歌舞伎の本質にあるのは「高潔な心意気の力強さ」。歴史が動こうとしている瞬間に立ち会えた喜びを改めて思う。(内野 小百美)

報知新聞社