「デジモン」シリーズの核とは何か? 関弘美P&木下陽介Pが「ラスエボ」で最も大切にしたこと【インタビュー】

「デジモン」シリーズの核とは何か? 関弘美P&木下陽介Pが「ラスエボ」で最も大切にしたこと【インタビュー】

2020年2月21日に公開された『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』。

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大学生となった八神太一をはじめとする「選ばれし子どもたち」の物語が再び描かれる本作は、当時「子どもたち」だったデジモンファンの反響を集めている。
かつてのシリーズで描かれた「人とデジモンとのパートナーシップ」の意志を受け継ぎつつ、2020年に『デジモン』を作ることへの意義が随所に込められているからだ。

アニメ!アニメ!では、99年放映の『デジモンアドベンチャー』よりプロデューサーを務め、本作ではスーパーバイザーを担当する関弘美さん、『デジモンアドベンチャー tri.』からシリーズに携わる木下陽介プロデューサーのふたりにインタビュー。

関さんのシナリオ作りへの熱き想いや、木下プロデューサーの考える『デジモン』シリーズの魅力をお聞きした。
[取材=山田幸彦、江崎大/文=山田幸彦]

■『デジモン』だからこそリアルなドラマ作りを
――お二人が今作にスーパーバイザー、プロデューサーとして関わるうえで、必ず押さえておきたかったポイントを聞かせてください。

関:ひとつは、『02』のキャラクターを登場させることです。今回は太一たち8人の子どもたちと共に、彼らのその後もぜひ描きたいと思いました。

もうひとつは、「パートナーシップとは何か?」をしっかりとシナリオに反映させること。正直に申し上げると、私は『tri.』のドラマに物足りなさを感じた部分があったんです。

例えば二人きりのときに、太一が黙っていて、アグモンも黙っている……というシーンがありましたけれど、そこで会話をしないとパートナー感が出ないと思うんです。
「無言の会話の中にも実は裏がある」と観客に委ねる方法論もありますが、話さないことには推測もできません。

そういった部分を今回シナリオづくりで意識しました。

――初代『デジモンアドベンチャー』も、リアルなドラマ作りを大切にされていた作品でしたね。

関:SFもファンタジーも、ヒットして長続きしている作品は人間関係のドラマがしっかり描かれているはずですから。

木下:まさに今お話に出ていた部分が作品に足りていないと僕も感じており、今回スーパーバイザーとして関さんに参加してもらいました。
そもそも、アニメは映像の設計図となる絵コンテが重要視されがちですが、僕はシナリオが最も大切だと思っているんです。

絵コンテで変わることもたくさんありますが、根本となるシナリオで作品の核となる要素が織り込まれていれば、そこは守られるだろうと。
なので今回、田口(智久)監督、シナリオの大和屋暁さんを中心にシナリオ打ち合わせを行い、初期から大事な要素をメンバーで共有できたのは良かったですね。

関:散々話をしたし、ご飯も食べたよね(笑)。

木下:関さんの時代……というと失礼かもしれませんが、昔はアフレコや打ち合わせ後は飲み会があり、そういった場で話したことの積み重ねが作品に反映されていた、とお聞きしていたんです。
今回、それを体験させてもらいましたし、その成果は大きかったです。

関:食事の場で話すのって、とても大事なんですよ。お互いに向き合ってご飯を食べるということは、手羽先にかじりついているところまで相手に見せることになるので(笑)、警戒心をある程度解かないとできない行為なんです。
そういう場でこそ話せることも出てくるんですよ。

――今回から参加された『02』メンバーのキャスト陣も、飲み会をきっかけに仲良くなったそうですね。

木下:『tri』に途中参加したときに、デジモンを演じる先輩キャストと、子どもたちを演じる新しいキャスト陣のパートナー関係がすごく出来上がっていたのが印象的でした。
だから、今作から参加する『02』の人たちにも、同じ関係を作り上げてもらいたいなと。

そう思っていたら、顔合わせも兼ねたアフレコ前の読み合わせの後に飲み会が開催され、それをきっかけに『02』組とそれまでのキャスト陣との結束が固まっていきました。
先輩たちが積極的に働きかけてくれたそうです。

関:キャストの話に戻すと、亡くなられた藤田淑子さんが闘病中の頃、『tri』をご覧になって「若い人たち、頑張ってるじゃない!」とおっしゃってくださったんです。アフレコ後の打ち上げでそのことを花江夏樹さんに直接伝えられたのが嬉しかったですね。

『02』組とも、木下さんと一緒に3時くらいまで話したりして(笑)。

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■過去作オマージュと新たなる要素
――今回初代『デジモン』の主題歌である「Butter-fly」のオリジナルバージョンをシリーズ最新作である本作でオープニングとして流す演出に、スタッフ陣のこだわりを感じました。そこへの思いも聞かせて頂ければと。

木下:これはとても迷ったんです。『デジモン』は劇伴も大事だけど、歌がなにより大事だなと思うんです。
だけど、象徴である「Butter-fly」は和田(光司)さんがいない今、新しくは作れない。でも他の人が歌うのは違う。そう思って辿り着いたのが、今の形です。

決め手になったのは、田口監督が作品の構成を「前半でファンに喜んでもらい、後半でこの作品ならではの思い、メッセージを伝えたい」と考えていたことですね。
だから、前半のオープニングではオリジナルの「Butter-fly」を流すことにしたんです。

――関さんとしても「Butter-fly」を使うことへの思いはありましたか?

関:私は「Butter-fly」という楽曲の凄さは誰よりも知っているのですが、ここの判断は木下さんと田口監督に委ねることにしました。
なぜかというと、昔のTVシリーズや映画と同じように、今作も愛され続けていくとして、20年先の責任が私に持てるのかと言われたら、正直言って難しい。でも、20年後も木下さんは会社にいるはずだから、責任とれるよね? と(笑)。

新作を新しいスタッフが作る以上、大事な決断はその人たちが下すべきだし、今のプロデューサーが責任を負うべきだと思っているんです。

――今作のキャラクターは、『02』の最終回で描かれた、大人の姿を意識した造形になっていると感じました。終着点が過去に描かれているからこその苦労はあったのでしょうか?

関:苦労はしませんでしたね。過去のTVシリーズを作ってるときを思い出しつつ、楽しく作ることができました。

木下:基本的にそれぞれの2010年時点でのキャラクター像のアイデアは関さんに出してもらったのですが、早かったですね。

――ファンからすると太一たちがお酒を飲んでいる姿には感慨深いものがありましたが、スタッフ陣として特に見せたかったシーンはありますか?

木下:お酒を飲ませようというのは、最初の頃から打ち合わせで言っていました。

関:それと、太一の家がそれほどお金持ちではなかったから、バイトをしないと一人暮らしは難しいよねという話はしていて。

――太一のバイト先はどのような経緯でパチンコ屋になったのでしょう?

関:大和屋くんと太一のバイトについて話していたとき、「家庭教師は似合わない。かといって、居酒屋の店員もちょっとイメージと違う」という風に、いろいろなバイト先を考えた結果、最終的にパチンコ屋へと落ち着きました。

木下:太一は大学生になってもまだ自分の道を決めきれていなくて、とりあえず一歩踏み出すために一人暮らしを始めたんですよね。
そこで「親に負担をかけずに自分でなんとかしたい場合、割の良いバイトを探すだろうと。じゃあパチンコ屋かな?」という流れがあって。
そういったリアリティを追求するのは、打ち合わせをしていても楽しいところでした。

関:まず、交通事情から考えたんですよ。「太一は東京のお台場に住んでいるから、都内の大学に通うのが大変ではない。じゃあ、一人暮らしをする理由は?」とか、そういうことをリアルに設定しないとウソっぽくなりますし、突き詰めて設定していくのがとても好きなんです。

木下:今作は2010年のお話ですが、当時のデジタル事情に関しても、実際の年表と照らし合わせて考えていきました。
ただ、全部を現実に即した設定にしたわけではありません。例えば、今回登場するデジヴァイスはスマホ型ですが、2010年はそれほどスマホが普及していないんです。

でも、シリーズの中で現代社会がデジタルワールドと関わることが増えているから、文明がちょっとだけ先に行っても良いんじゃないか? と解釈したりもしていて。

関:調べると、2011年あたりからスマホがどっと増えてきているんですよね。あとは、今はみんなが使っているLINEのようなアプリも、実は2010年にはまだ登場していないのですが、今回は描写としてあったりもして。

木下:我々の歴史より一足先にスマホが普及しているなら、グループチャットを行うアプリが普及してもおかしくないかなと。

――そういった様々な変化が描かれる中、8人の子どもたちの中では、空の立ち回りが独特だった印象を受けました。

木下:今回の物語の根幹になる「いつまでもそのままではいられない」ということを8人の中の誰かで象徴的に描くならば、空が適任だと考えたんです。

関:もう一つは、大人になった空を登場させると、「太一やヤマトとどうなってるの?」という疑問に答えを出さないとお客様は納得しないと思うのですが、今回の映画は90分なので、恋愛を描いても中途半端になってしまうおそれがありました。
なので、今回はシンプルに、『デジモン』の良さを出すことに特化した映画にしようと考えたんです。
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■ファンの声が、次へと繋がる!
――本作を観た人の反響に触れる機会はありましたか?

関:私はスタッフとの試写で観たので、ファンの方の反響はまだ知らないんです。でも、社内の人は「これが『デジモン』だよね」と言ってくれたので、とてもホッとしました。

木下:「これが『デジモン』!」って、抽象的な言葉ですが、それぞれの求めていた作品だったということが表れているし、僕も聞いたときは安心しましたね。
それこそ「ボレロ」が流れただけでジーンと来てしまう人とか、観る人の数だけ琴線に触れるポイントがあるんですよ。関さんもそうでしたし(笑)。

関:私はシナリオに3箇所泣けるポイントを入れたつもりだったんです。でも、いざ試写で観ると泣ける箇所が増えていましたね。
自分で作っといてどうなんだって感じですが、ボロボロと泣いてしまって……(笑)。

――最新作を通して、改めて感じた『デジモン』シリーズの魅力はありましたか?

関:シナリオの第1稿を読んだときに頭が“デジモン脳”に変わった瞬間があって、完成した脚本を読んだときに、間違いなく続きが作れると思ったんです。そんな懐の深さも『デジモン』の魅力なのかなと。

プロデューサーの業なのかもしれませんが、「次はこうするぞ」とか、「別の展開にしたらこういうこともできるかも?」とか、どんどん思い浮かんじゃうんですよ。
最初は小さなアイデアでしかないことも、しばらく考えていると少しずつ輪郭が見えてきたりして。

木下:僕はリアルタイムで『デジモン』を観ていた人たちの思いも注入できるようになったのは、すごく良いことだなと。
初代からシリーズを作り上げてきた関さんなどの力も借りながら、新しいスタッフで作り続けられるIPになっているのは、作品の大きな魅力だと思います。

関:弊社の『ゲゲゲの鬼太郎』は、第6期まで作品を重ねたことで、今では親子3代に渡って楽しんでもらえる作品になりました。『デジモン』もそういうIPにまで育てたいんですよね。

それには、時代とシンクロする必要がある。私はアナログな人間だけど、木下さん世代や、さらに若い世代は、もっとデジタルに慣れているわけでしょう?
もちろん私もいろんな情報を仕入れることはできるけれど、実際にたくさんの新しいデジタル技術に触れているのは、木下さんたちの世代のはず。

その人たちだけで作った、時代にシンクロした『デジモン』を是非観たいですね。

――では改めて、最後にファンへ向けてメッセージをお願いします。

木下:本作はシリーズの集大成と位置づけて作らせてもらいました。小学生のときに観ていた方々が当時の友達と一緒に観て、20年前と同じように語り合い、共有するような映画になってほしいと思います。
もし良かったと感じたら、どんどん身近な人に勧めていただけると嬉しいです。また映画は賛否両論あって当然なので、どんな声でも我々に届けて欲しいです。

関:老体に鞭を打って頑張りましたけれど、今はこの映画がみなさんにどのような評価を受けるかが楽しみですね。
今の私は、20年前よりも素直にファンの人の声が聞けるような気持ちになっているんです。太一たちと同様、私も大人になったかな? みたいな(笑)。

木下:いいことです!(笑)。

――改めていろいろな人の意見を聞きたいと。

関:本当にそうです。いろんな意見を精査したうえで映画が生まれていくので、先々のデジモンの展開のためにも、どんな小さなことでも呟いてもらえると嬉しいです。「もうちょっとこういうシーンが観たかった!」などでも構いません。お待ちしています! アニメ!アニメ! 山田幸彦