3代目神田松鯉さんの秘蔵写真は“ロングヘア”の二つ目時代

3代目神田松鯉さんの秘蔵写真は“ロングヘア”の二つ目時代

【私の秘蔵写真】

 6代目神田松鯉さん(77歳)

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 6代目神田伯山(2月に松之丞から襲名)の人気がキッカケになり、空前のブームともいえる講談。今ではどこで講談会を開いても満員御礼状態で、チケットを取るのが難しいほどだ。伯山の師匠は神田一門を率いる3代目神田松鯉さん。昨年、人間国宝に認定され、最近はメディアに登場することもしばしば。松鯉師匠にとって貴重な秘蔵写真を紹介してもらった。
■談志が「そのヘアスタイルで売りゃいい」と

 ロングヘアのりりしい、キリッとした姿は松鯉師匠が二つ目の時のもの。神田陽之介から小山陽に改名、二つ目に昇進したのは1973年のこと。張り扇で釈台を激しく叩く姿が目に浮かぶようだ。

「この髪形には理由がありましてね。年でいうと30歳から34歳まで。当時、私は連続もの、続きものの『徳川天一坊』をやっていました。あの頃、連続ものの講談を重視している人はあまりいなかったのですが、講談は連続ものが命だとこだわり続け、『大岡政談』にある8代将軍・吉宗の落胤を名乗って捕らえられた天一坊事件をやってました。その天一坊の髪形がこんな感じで。髪形も似せて講釈していたわけです」

 長髪の講談師に対して揶揄する声もあったようだが……。

「亡くなった立川談志師匠は『おめぇはそのヘアスタイルで売りゃいいんだよ』と言ってくれましてね。また、先代の古今亭今輔師匠(5代目、故人)も『噺家はこういう髪形じゃダメだけど、講釈師ならいいね』って言ってくれて。私も気に入ってました」

 そして松鯉師匠が力を入れていた連続ものが、今の講談人気の礎になっている。

「本来の講談という伝統芸能は『一席もの』ではなく、『連続もの』です。天一坊以来、講談の命は連続ものと信じてきました。でも、講談界全体はそうではなかった。ところが、松之丞がもともと講談は連続ものがバックボーンにあるとの私の主張を継承して、やるようになった。それに彼のパワフルな講釈と演技があって、若い人たちに響いたのでしょうね。彼の功績は大きいですよ。業界が栄えると講釈師一人一人にも影響する。最近は講談界に往年のダイナミズムが蘇って、活力が備わってきました」