「1兆円持ったら変わるかな?」妄想や憧れが生んだTVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』プロデューサー談

「1兆円持ったら変わるかな?」妄想や憧れが生んだTVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』プロデューサー談

筒井康隆作・伝説のミリオンセラー『富豪刑事』(新潮文庫刊)が半世紀の時を越えて今アニメ化する理由とは?

【全画像をみる】「1兆円持ったら変わるかな?」妄想や憧れが生んだTVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』プロデューサー談

ギズが「ガジェットコーディネーター」として作中のガジェット/テクノロジーを考証する、TVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』。2020年4月よりフジテレビ“ノイタミナ”ほか各局にて放送開始される本作について、プロデューサーを務めるフジテレビの松尾拓(まつお たく)さんにお話を伺いました。

なぜ原作に『富豪刑事』を選んだのか、どうしてガジェットコーディネーターが必要だったのか、そして『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』の見所はどこなのか? ギズ的に気になるところを余さず聞いてみました。

松尾拓
アニメプロデューサー。

株式会社フジテレビジョン 総合事業局 コンテンツ事業センター プロデュース事業室 アニメ開発部所属。

『SMAP×SMAP』 や『笑っていいとも!』といったバラエティ番組のADとしてキャリアをスタート。『僕だけがいない街』『いぬやしき』『恋は雨上がりのように』など“ノイタミナ”枠でのTVシリーズや『心が叫びたがってるんだ。』『ペンギン・ハイウェイ』、今年6月公開の『泣きたい私は猫をかぶる』といった劇場アニメを手掛けている。

“僕の考える最強アニメ”がここに。プロデューサーが語る『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』

──『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』はどのように生まれた企画なのでしょうか?

松尾:僕自身が中学生の頃から原作者である筒井康隆先生の大ファンなんです。筒井先生の全作品を読んでいるのですが、キャラクターの強烈さや設定の面白さから、今の部署に異動する前から「これが映像になれば面白いだろうな」と思っていた作品が『富豪刑事』でした。

──ずっと温めていた企画だったんですね。今回それが実現したきっかけとは?

松尾:2016年に『僕だけがいない街』という作品でプロデューサーを務め、伊藤智彦監督と初めてご一緒したのですが、この時伊藤監督が作り上げた作品の完成度と迫力に死ぬほど感動したんです。

だから「伊藤監督と絶対にまた仕事したい」と心に決め、『僕だけがいない街』の放送が終わる直前に伊藤監督に『富豪刑事』の原作本を持って行って打診しました。

1975年に世の中に発表された作品なので、もちろん小説の内容をこのままアニメでやりたいということではなく、神戸大助という圧倒的なキャラクターを伊藤監督がいかにバキバキにかっこよく、華やかに現代風にリブートできるか、という観点で話をさせて頂きました。

伊藤監督も面白がってくださり、それぞれ企画への参加タイミングは違いますが、岸本卓さん(シリーズ構成・脚本)、佐々木啓悟さん(キャラクターデザイン)、CloverWorks(アニメーション制作)という『僕だけがいない街』のチームでそのまま今回の『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』を作れることになりました。

『僕街』を作ってくれたA-1 Picturesのプロデューサー・賀部さんが今回もCloverWorksのプロデューサーとして現場を仕切ってくれるので、アニメ制作チームも含め『僕街』チームです。

僕自身が『僕だけがいない街』の大ファンですので、このドリームチームの再結集が決まった時はとてもワクワクしました。

──『富豪刑事』に感じる魅力とは、どのようなものですか?

松尾:主人公がお金という最強の力を持っていることですね。

現代においては、腕っぷしの力よりもお金の力の方が大きいと思うんですよ。僕はいち会社員ですが、「もし自分が1兆円持っていたら、同じことを言ったとしてもものすごくスムーズに話が進むだろうなぁ」っていつも思うんです(笑)。

そんなふうに「1兆円あったらいろんなことが最短距離で進められるんじゃないかな」と妄想したりして、そういう圧倒的な力を持っている主人公に憧れを抱いていました。

──誰もが一度は考えたことがありそうな妄想ですよね。

松尾:『富豪刑事』では、主人公・神戸大助がお金の力を使ってものごとを大胆に、最短距離で解決していきます。それを近くで見ていると乱暴極まりないですし、型破りなので周囲の人々は困惑するんですけど、俯瞰で見るととても魅力的で華やかなストーリーに仕上がっているという、見たことのないヒーロー像なんですよね。

シンプルですが、だからこそ魅力が半世紀も色褪せないキャラクター設定です。それを僕が「見てみたい」と思ったし、伊藤監督の圧倒的な演出力があれば、お客さんが今、令和のこの時代に「見たい」と思うものにもなるだろうという自信がありました。だから、言ってみれば『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』は僕の中の「最強のアニメ」なんです。

──今回のアニメ化は、現代を舞台としたアレンジが加えられているのが特徴だと思います。

松尾:大富豪の御曹司が事件解決のために資産をバカスカ使いまくるという話をアニメ化するにあたり、現代を舞台にするというのは、伊藤監督と最初に話したことでした。

クリエイティブ観点だけでなく放送枠の事情もあって、ノイタミナ枠で放送する際は1クール(3カ月)が基本なのですが、原作では短編エピソードが4つしか存在しないんです。つまり“原作通りのアニメ化”はどちらにしろできない。だったら「現代風にガチガチにリブートして新しいことをやるべき」と伊藤監督と考えました。

筒井先生にもその部分はご快諾頂きましたので、現代で神戸大助が活躍するにあたっての設定は色々と現場チームで楽しみながら作っていきました。

それに僕は『007』シリーズや『ミッション:インポッシブル』シリーズが好きなので、莫大な資産を持っていたら開発できているであろう最新鋭のガジェットが出てくる作品にしたいという想いもありました。

『バットマン』や『アイアンマン』もそうですけど、ああいうワクワクするヒーロー物って、海外のコンテンツにはいっぱいあるけど意外と日本には少ないんですよね。主人公が「普通のいい子」ではないことも含めて、そういう手触りのコンテンツを作りたいとずっと思っていました。