役者がスポンサーに配慮…倫理観重視のモノづくりに違和感

引用元:オリコン
役者がスポンサーに配慮…倫理観重視のモノづくりに違和感

■「Film makers(映画と人 これまで、そして、これから)」第39回 遊川和彦監督

【場面カット】劇中でウエディングドレス姿も披露する波瑠

 『女王の教室』や『家政婦のミタ』、『純と愛』など数々の話題作・問題作を世に送り出してきた脚本家・遊川和彦氏が、オリジナル脚本を書き下ろし、自ら監督を務めた映画『弥生、三月-君を愛した30年-』。本作を通して、遊川監督が抱く映像界への思いや、問題点などを語ってもらった。

■波瑠、成田凌をキャスティングした理由

 遊川監督にとって『恋妻家宮本』に続く映画監督作品となる本作は、以前から熱望していたオリジナル脚本での映画化。配給元となった東宝からも「ぜひオリジナルで」という話をもらっていたという遊川監督は、2017年に公開された映画『恋妻家宮本』が完成した直後から構想を練り、学生時代に運命的に出会った弥生(波瑠)と太郎(成田凌)の30年間を、三月に起きた出来事だけで綴るラブストーリーを作り上げた。

 メイン二人のキャスティングについて、最初は難航したという。というのも10代から40代までの人生を描くため、構想段階では30代の人に演じてもらう方がいいと思っていたというが、そうなると30代の人に10代を演じてもらわなければならないということでハードルが高くなった。

 しかし、30代の芝居があまりないことに気づき方向転換。「これは朝ドラ方式で、若い子がだんだん年をとっていく方がいいと考えたんです。女子高生も無理なく演じられて、等身大の20代もしっかり芝居ができる人。そう考えたとき、波瑠ちゃんがいいと思ったんです」。

 遊川監督のオファーに、波瑠は弥生という女性の純粋さはハードルが高いと思い「断ろうと思った」とイベントで話していたが、監督の作品にかける熱意に気持ちが変わりタッグを組んだ。そこから太郎役のキャスティングに入ったという。「僕は『俺格好いいですよ、俺』という感じの人があまり好きじゃないんです」と遊川監督は笑うと「成田くんの情けない芝居が結構好きで、会いましょうという話になったんです。実際話をしていると、すごく面白い男だったので、彼がいいということになりました」。

 さらに弥生の親友として登場するサクラにも強い思いがあった。遊川監督が脚本と一部の話で演出を担当した『ハケン占い師アタル』で主演を務めた杉咲花にオファーを出した。「出番は少ないのだけれど、出てくれないかとお願いしたら、快諾してくれた。彼女がサクラを演じてくれたことで、作品により深みが出るなと確信できました」。

■否定することが蔓延している世の中だからこそ、人を幸せにするモノづくりをしたい

 さらに、黒木瞳や小澤征悦など遊川作品常連の俳優たちも作品を彩ったが、監督は一緒に仕事をする人間には、共通の思いを持つ人を求めている。それは、人を幸せにするためにモノづくりをしたいということに賛同できる人。

 「なんのために作品を作るのか。それは人を楽しませたい、人を幸せにしたいから。エンターテインメントというのはそういうものだと思うんです。なかには自分のためだけに仕事をしている人もいる。僕はそういう人は嫌なんです。とにかくお客さんが一番面白いと思えるものはなにか――ということを考えられる人がいい。その意味で、黒木さんは自身で監督をやられていましたし、小澤くんもきっと将来監督をやると思う。成田くんにもそういう作り手の感覚が備わっている。波瑠ちゃんもすごくクレバーな子なので、役者が面白いと思うことよりも作品のことをしっかりと考えられる人だなと感じました」。

 「人を幸せにする」という意味では、ドラスティックな設定や展開がありつつ、遊川監督の作品には「人間愛」という共通点が感じられる。この点について「僕は人間が大好きなので」と笑う。

 続けて「特にいまは否定することの力が強いですよね。その方が楽だし、排除してしまう方が自分も傷つかない。そういう風潮に対して焦りがあるのかもしれません。もちろん、人間のダメさもしっかり描きますが、良さも提示する。そのなかで観ている人が、人間の持つ善の力を信じて、自ら選択していってくれたなら人は幸せになれるかもしれないじゃないですか」と持論を展開する。