「R-1ぐらんぷり」“無観客”がもたらしたエンタメの可能性

「R-1ぐらんぷり」“無観客”がもたらしたエンタメの可能性

【エンタメ界激震 コロナショック】#4

 ピン芸人のナンバーワン決定戦「R―1ぐらんぷり2020」の決勝が8日、無観客で生放送された。新型コロナの影響で、ギリギリのタイミングで放送枠を外しにくかったりスポンサーの兼ね合いなどもあり、無観客という苦渋の選択が視聴率に影響を及ぼすのではとネガティブに見る向きもあったが、結果的に新たなエンタメの可能性をしっかり見せてくれた。大金星だ。

 優勝したマヂカルラブリーの野田クリスタルの言葉が象徴的で「桂文枝師匠が最初に僕に1票入れてくれて……」とプロに向けて全力をぶつけた“芸人としての底力”を感じさせた。

 会場に観客を入れたお笑いバトルは客の笑いに審査が流れる。僕も審査員をやらせていただくことはあるが、審査員も会場につられて笑ってしまう。「芸人は客が育てるもの」といわれるが、歴代のR―1王者にアキラ100%のような一発芸、ハリウッドザコシショウのキワモノ系が多いのも、会場の雰囲気によるところが大きい。野田クリスタルは「完全なる無観客の中でやるネタ番組よりは全然マシ」と動じなかった。上沼恵美子も自身のラジオで無観客テレビ収録を行ったことに「なんの支障もなかった、観客ナシでしゃべり続けるラジオで鍛えている人間は無観客には動じない」と賛成票を投じている。

 Bブロックで3人が同点の際、審査員ではなく、ツイッターとdボタンによるお茶の間ポイントの高い芸人が勝ち抜いたというのも、今旬かつ最適な判断基準になった。これがずっと続くとなると意味合いが変わる可能性もあるが、辛口批判も少なく、視聴者もおおむね納得、むしろ満足している。

“無観客”はある意味エンタメ界の原点回帰ともいえる。80年代、「オレたちひょうきん族」(フジテレビ系)が、「8時だョ!全員集合」(TBS系)の視聴率を追い抜いたのを思い出す。コントテイストで、スタッフだけが大声で笑う「ひょうきん族」の独特の世界観はあっという間にお茶の間に受け入れられた。作り手も受け手も割とすぐに慣れていくものなのだ。

■テレビ界がYouTubeに本格参入する糸口に

 無観客でも面白いものをつくることができる、視聴者も評価してくれる、ということが分かったことは作り手側にも大きかった。

 若い視聴者がYouTube的な面白さと捉えたことも興味深い。もしかすると、テレビ界がYouTubeに本格参入する糸口にもなったのではないか。

 歌手のaikoが8日、無観客ライブをYouTubeで無料配信していたが、スタッフが全力を注いだクオリティーの高い動画は、aikoの歌の力、生ライブができなかったもどかしさまで伝わるもので、プロの技を見せつけた。13万人が生視聴したのもうなずける。これまでYouTubeと同じことをやるのは、特に古参テレビマンのプライドが許さなかっただけで、もうそんな時代ではないことは、彼ら自身が十分気づいているはずだ。

 今後はYouTuberがテレビに脅威を感じる番が来ると僕は思う。テレビの可能性は、まだまだある。

 “無観客R―1”はエンタメ界にそんな新たな風をもたらしたのではないだろうか。

(影山貴彦/日本笑い学会理事 構成=岩渕景子/日刊ゲンダイ)