大東駿介「新しい自分を引き出してくれる…そんな監督や共演者たちと仕事をしていきたい」 障害をテーマにした話題作「37セカンズ」公開中

引用元:夕刊フジ
大東駿介「新しい自分を引き出してくれる…そんな監督や共演者たちと仕事をしていきたい」 障害をテーマにした話題作「37セカンズ」公開中

 ベルリン国際映画祭を始め、世界の映画祭で絶賛された話題作「37セカンズ」が公開中だ。

 「こういう映画が日本でヒットしてほしい。そのためなら僕は俳優として何でも応援しますよ」

 NHK大河ドラマなど話題作への出演が相次ぐ脂の乗り切った実力派は、派手さはないが骨太の社会派ヒューマン映画に、こう期待を込める。

 生まれたときに37秒間、呼吸が止まっていたために、脳に障害を抱え、自由に手足が動かせなくなった23歳のユマ(佳山明)が主人公。彼女を支える介護福祉士、俊哉を演じた。

 「子供の頃から介護や福祉に興味を持っていたので、ヘルパー役での依頼はうれしかったですね」と笑顔で語る。

 ジョージ・ルーカスら名監督を輩出する米国の南カリフォルニア大学で映画製作を学んだ新進の日本人女性監督、HIKARIにとって初の長編映画だった。

 「監督とは以前から知り合いでしたが、突然、連絡が来たんです。障害をテーマにした作品だと聞き、『どんな役でもいいから出たい』と即答しました」

 堺市で生まれ育った。

 「自宅近くに身障者の施設があり、幼い頃から車いすの人たちなどを自然に見ていましたから、健常者との違いなど意識したことがなかったんです。だから差別的な視点を持つ人の方が不自然ではないかと思っていた。そこにずっと違和感を覚えていたんです」

 車いすのまま家出してきたユマの対応に戸惑いながらも、希望をかなえさせようと決意した俊哉は彼女を連れてタイへ行く。2人の旅はまるでドキュメンタリーを見るようだ。

 ■女優デビュー、脳性まひを持つ佳山明の無垢な姿に刺激を受け

 ユマ役にオーディションで選ばれた佳山は今作が女優デビュー作。佳山はユマと同様、脳性まひの障害を持っている。

 「撮影では僕が一番、彼女のそばにいたので、できる限りサポートしましたが、実際に支えられていたのは僕の方でした」と打ち明け、こう続けた。

 「女優になる夢をかなえ、カメラの前で、今という瞬間を懸命に演じ、生きている明さんの姿から学ぶことは多かった。本当に無垢(むく)なんです。本来、俳優の演じる姿勢とはこういうものではないかと、突き付けられた気がしました」

 俳優という仕事に憧れを抱いたのは中学の頃。「友人に勧められ、映画が好きになり夢中でレンタルビデオを借りて見ていた」と言う。

 大ファンになった俳優が名脇役の大杉漣だった。「大杉さんの出演作を何本も見て気づいたのが、どんな役を演じても大杉さんの人柄がにじみ出ているということ。こんなすごい俳優になりたい」と衝撃を受け、俳優への憧れは増した。

 こんな青春時代を送っただけに、役作りに懸ける姿勢はストイックだ。

 シンガー・ソングライターの松山千春を演じた主演映画「旅立ち~足寄より~」(2009年)ではデビュー前の松山を彼そのままに体現し、共演者らを驚かせた。昨年の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」では苦手な水泳を猛特訓して克服。体重も10キロ増量し、日本水泳界初の金メダリスト役に挑んだ。

 今作の「37セカンズ」では自ら希望し、介護福祉士に付いて介護技術などを身に着けた。

 近年、歴史大作などへの出演が増えた。図書館で史実を調べたり、現地を訪れたりして役作りに備えるという。

 「そうやって自ら想像力をかき立てるんです。教科書で読む知識とは違う生きた歴史として伝えたいから」

 今後、演じたい役を聞くと「役にはこだわりません。さまざまな役を演じ、経験値を積みあげていかないと」と語る。

 19歳で俳優デビューし14年。「30代に入ってこだわりがなくなりました。まだ知らない新しい自分を引き出してくれる。そんな監督や共演者たちと仕事をしていきたい」。充実した笑みが満面に広がった。(ペン・波多野康雅 カメラ・須谷友郁)

 ■大東駿介(だいとう・しゅんすけ) 1986年3月13日生まれ。33歳。堺市出身。ファッション誌の専属モデルなどを務めながら2005年、テレビドラマ「野ブタ。をプロデュース」(日テレ系)で俳優デビュー。「平清盛」(12年)以来、「花燃ゆ」(15年)、「いだてん~オリムピック噺~」(19年)とNHK大河ドラマに出演。映画の近作では「曇天に笑う」(18年)、「108~海馬五郎の復讐と冒険~」(19年)など。