「火事だアー!!」ニュースにもなった俺の泥棒逮捕劇秘話【ダンカンの笑撃回顧録】

【ダンカンの笑撃回顧録】#18

 クルクル~カタ~ン!! 人生ルーレットが止まった……。ふぁ~眠いなあ……もうすぐ夜が明けるよ~早くコント仕上げちゃって少し寝よ~。おっ、この状況はあの時だ……そう1998年の夏……。

 カタン! あれ? 俺の座っている右後方の廊下からリビングへと入る扉が開く音がしたゾ。何だ? えっ?? な、なんでそこに見知らぬ顔があるわけ? ってか、向こうも俺とまったく同じ表情で固まってるぞ???

 グエー!! ドロボーだァ!! といきなりダムが決壊するように脳が正常に機能したのだった。人間というものは不思議なモノである。起こるはずのないことを目にすると、自分の脳を疑って、それを否定しようとするものなのだと初めて知った瞬間でもあったのだ。

 いや、そんな悠長なことを言っている場合ではないのだ! まさに早朝、我が家に泥棒が侵入、日常ではあり得ない事態と直面しているのだから……。凶器は? 次に命の危険を考え、泥棒の両方の手を確認するとそこには何ひとつ握られていない! ホッとした次の瞬間、泥棒はクルリと向きを変えると、侵入してきた玄関方向へ全力で走り始めたのである。

 凶器がない安心感が急に俺に勇気を与えたのだろう。まあ、捕まえることは無理にせよ、犯人の特徴くらいは目に焼き付けておこう! と追撃を始めたのだった。その差十数メートルくらいだったろうか……。その差からおそらく逃げ切られるだろうと思ったのだが、次の犯人の行動が思わぬ展開を呼んだのだった。

 泥棒は犯行に至る前に道を挟んだマンションの陰に自転車を隠していたのだ。おそらく逃走用であったのだろう……その自転車に乗って逃げようとして、動きが遅くなったその時、俺は自転車の後ろの荷台に飛び付き、倒れた犯人の上に覆いかぶさっていたのだ!

 さあ、そこからが修羅場の始まりだった。「ドロボー! ドロボー!!」と町内に響きわたる絶叫を上げたにもかかわらず、一人として外に出てくる者の姿はない……。そーか、以前聞いたことがあるぞ……泥棒だと自らも危険な目に遭いかねないので、なかなか出にくい……そして、火事と叫ぶと自分にも被害が及ぶ可能性があるので、集まってくるという話を。

「火事だアー!!」。これが見事に的中してパジャマ姿の町内の人が寝ぼけ眼でゾロゾロと姿を現す。これでもう一安心とタカをくくった俺は気持ちに余裕ができたので、イソップ童話の「オオカミ少年」のごとく「オオカミだ!! オオカミが出たぞー!!」と悪乗りまで始める始末……。

 結局、集まった町内の男衆が駆けつけ見事、泥棒事件は一件落着となった。だが、情けなかったのはマリリン(妻)が町内の人に「みなさんスミマセン、うちのパパリンが酔っぱらって大騒ぎして!」と俺を酔っぱらいと決めつけ、平謝りしていたのと、その日の午後のニュースでこれが報道されると、状況説明に行っていた中野警察署の受付にダチョウ倶楽部の上島竜兵が現れ、「ダンカンさんは普段は決して悪い人じゃないんです、おそらく何かの出来心なんで寛大なおさばきをお願いします」と差し入れのメロンを置いていったのだった……だから俺がドロボーじゃなくて、捕まえた方だってー!! (つづく)

(ダンカン/お笑いタレント・俳優・放送作家・脚本家)