令和婚でも直筆は人気、「美文字」ブーム経てボールペン字講座の現在地

引用元:オリコン
令和婚でも直筆は人気、「美文字」ブーム経てボールペン字講座の現在地

 昭和から平成に移行し、手書きの機会が減った中、達筆であることが「美文字」と呼ばれるようになり、大人のお稽古ごとの筆頭として「ボールペン字」講座が一世を風靡した。芸能人の「令和婚」でも二宮和也や、貫地谷しほりの直筆報告に注目が集まった。手書き文字に対する関心はどう変化したのか。「実用ボールペン字講座」を展開しているユーキャン担当者に聞いた。

【写真】これは美文字?『中居正広のミになる図書館』MC務めた中居、退所会見前にプラカード持参で登場

■仕事や公式文書で使用されるのは“ボールペン”“スキマ時間”の個人消費を刺激 

 「美文字」を「書道とは異なる文字の上手さ」と定義すると、「美文字」を目的にした講座は1973年頃から開始された。1960年代に高度経済成長期を迎え、民間消費が急成長を迎えていた。そんな中、1973年は第一次オイルショックの年で、これまでの長期好況に陰りがさし景気の後退期に突入していた。世界的な原油の価格の高騰が起きたものの、日本では変わらず個人消費が伸びている時期だった。

 日本書道協会(ユーキャン)では「1973年に『ペン字講座』がデビューしました。こちらが好評を得たので弟分として、1975年、『ボールペン字講座』を開講しました。すでに筆記用具の主流となっていたボールペンの通信講座のニーズを期待して開発されました。」(ユーキャン担当者/以下同)

 このとき、講座名は「硬筆」ではなく「ボールペン字」であることにこだわった。これは「硬筆」とすると、つけぺん、万年筆、鉛筆も含まれてしまうからだ。「当社としては仕事や公式文書などで使用される“ボールペン”をメインにした講座であることを、講座名だけでお客様に理解していただけるようにしました」

■21世紀、手書き機会が「激減」 文字は手で書くよりも“入力する”ものへ 

 「ボールペン字講座」が生まれた1970年代から現在まで、「文字を書く」ことにまつわる、さまざまな時代の変遷があった。たとえば1980年代には、止めはねを廃し、文字を小さく丸く書く「丸文字」や、絵との相性やインパクトを重視した「マンガ文字」が女子中高生の間で流行。ひらがなのみで使われる「ルリール体」など新しいフォントが生まれ、社会的ブームにもなった。さらに2000年代には「ギャル文字」という、ひらがな、カタカナ、漢字をいくつかのパーツに分解、変形させて使う文字体も流行している。「ギャル文字」に至っては「デジタルの壁」も乗り越え、記号や海外のフォントを組み合わせることで、メールにおいても使われた。

 21世紀以降はどんどんデジタル化が進み、文字は手で書くよりもパソコンや携帯電話で“入力する”機会の方が多くなっていく。つまり手で文字を書く機会が「日常で必須」なものから「特別なもの」へと変化していったのだ。それに伴い、「ボールペン字講座」も「受講者層の変化は特にありませんが、残念ながら以前と比べると受講者数はかなり減りました」とのこと。

 2008年には任天堂から『DS美文字トレーニング』が発売され、タッチペンで文字の練習をする人が増えた。ユーキャンも、これまでタッチパネルの機器メーカーから何度か「タッチパネル化」の打診を受けたそうだが、「大まかな字形のチェックはできても、ハライやハネなど細かくなる線が、タッチパネル機器では再現できなかった」などの理由から導入に至らなかったようだ。

■『中居正広のミになる図書館』での美文字ブーム デジタル化で起こった「美文字」の価値変化

 2013年頃には『中居正広のミになる図書館』(テレビ朝日系)など、バラエティー番組で「美文字」が取り上げられ、「美文字ブーム」が巻き起こったが、現在はそれも一旦落ち着いた感がある。そして2020年現在、「ボールペン字講座」が誕生してから45年の歳月が経ったが、ユーキャンはいまだに“紙での通信講座”を貫いている。「受講生お一人ずつクセや書きにくい箇所は違いますし、それに対するアドバイスも全員同じではありません。先生が肉筆で朱書き添削することで見違えるように字が変わりますので、今の段階では、紙の通信講座に勝る手法はないと思っております」と揺るぎのない自信を見せている。

 令和になり、デジタル時代となったからこそ逆に「手書き文字」の価値はある、と主張する。時代が変わっても「ボールペン字講座」の方針は変わらず、今後も「美しい文字」を推奨していくという。

 「手書きが少ない今だからこそ、きれいな文字が光り、また注目されるのだと思います。書店のPOPやカフェの黒板文字、ラーメン屋さんの看板、ペットボトルや食品、調味料のラベルはむしろ手書き文字が多いですし、とても魅力的だと思います。」と実例を挙げた。

■ライフステージの変化が文字に出る、直筆が話題になったあの芸能人

 確かに、芸能人の結婚報告では、直筆の署名入りでファンにお知らせすることが多い。写真一枚で伝えられる場合も敢えて「手書きメッセージ」を入れることで人柄が伝わったり、特別な思いが伝わると言われる。

 自筆署名が出る度にクローズアップされることが多いのが宮沢りえ。一度目の結婚、母の訃報、離婚、森田剛との結婚と4つのターンの文字を比較されていた。以前はギャル風の独特な文字だったが、森田との結婚報告では、凛とした美文字へと変貌を遂げており、ネットでも話題に。

 壇蜜も「手書きお手紙」をブログに載せていたことで人気を得ていたり、深田恭子の達筆などは、良い“ギャップ”として効果的だ。

 「手で文字を書く機会が減ってきていますが、いつの時代であっても、美しい字は書く人だけでなく、目にした人も幸せにしてくれるものだと信じております」と文字の重要性を力説した。電子化に一存する中「災害時の手書きパネル」の重要性が見直されたり、芸能人の「令和婚」でもへの直筆投稿の人気は根強く、手書き文字は「特別」で「重宝」されるものへと変化しているようだ。