時代考証から見るとNHK大河「麒麟がくる」は十分楽しめる

時代考証から見るとNHK大河「麒麟がくる」は十分楽しめる

【テレビが10倍面白くなるコラム】

 日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」欄で桧山珠美さんが、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」(総合日曜夜8時)に、火事場で母親が娘に「お母さんよ、お母さんよ」と呼びかけるシーンがあって、「時代劇なら『母ですよ』が自然に聞こえるが」と指摘されていた(1月27日付)。たしかに、「お母さん」は江戸時代以降の商人の言葉で、戦国時代にはなかった。ほかにも「麒麟がくる」には、あれれ? と思わせるセリフやシーンが少なくない。

 織田信秀との戦いで、籠城と見せかけて反転攻勢に出た斎藤道三は、「織田“軍”を追い討ちにするのだ」と号令するが、“軍団”は明治以後の近代軍事用語だから、ここは「織田勢」「織田方」とした方がよかったのではないか。直後に斎藤方が上げる鬨の声も、大将が「エイエイ」と言って、家来たちが「オー」と呼応するものなのに、「エイエイオー」とひとりで叫んでいる足軽がいた。

 また、叔父から「敵の数は2万、わが方はわずか4000ほど」と聞かされた明智光秀が、「はあ~?」と呆れたように尻上がりに言う。現代ドラマでも相手を小ばかにしたようで感じが悪いのに、戦国時代の武士が、ましてや目上にこんな失礼をするはずがない。「何ですって?」がふさわしい。

 逆に、さすがNHK大河、しっかり時代考証をやっていると納得させられるのはこんなシーンだ。道三の娘の帰蝶も光秀の母も、立て膝で座っている。女性が行儀悪いように見えるが、正座は江戸期からの座り方で、戦国時代は男も女もあぐらか片膝立て座りだったのだ。

 織田信秀は双六に興じながらマクワウリをかじる。マクワウリは美濃国真桑村のものがとくに美味といわれ、道三が気づかぬうちに、信秀は美濃の奥深くまで手を突っ込んでいたことを暗示する演出だった。領内の田で代かきを手伝う光秀が、へっぴり腰で鍬を振っているように見えたが、鍬はツルハシのように上から振り下ろすものではなく、土寄せや畝立ての農具なので、腰の高さで使うのだという。つまり、“へっぴり腰”が正しかった。

 以上、すべてNHKの時代考証業務担当のシニアディレクター大森洋平氏の著書「考証要集」「考証要集2」からの受け売りです。これをわきに置いて、突っ込みを入れたり感心したりしながら「麒麟がくる」を楽しむのも、面白いかもしれない。目からうろこが落ちるはずである。あっ、目からうろこも戦国時代劇ではNG。新約聖書の言葉だそうだ。

(コラムニスト・海原かみな)