木村定三の陶磁器コレクションが名古屋で話題 文人趣味の貴重な137件がずらり

引用元:中日スポーツ
木村定三の陶磁器コレクションが名古屋で話題 文人趣味の貴重な137件がずらり

 名古屋駅前の商業ビル社長を務めた木村定三(ていぞう)さん(1914―2003年)が収集した陶磁が愛知県瀬戸市の県陶磁美術館で公開されている。猫を描き近年、再び注目を浴びている岐阜県出身の画家、熊谷守一を見いだし、パトロンとなった大コレクター。中国趣味を伝える陶磁コレクション展のタイトルは「文人趣味と煎茶」。3月22日まで開かれている。

 木村さんは、東京帝国大学法学部卒業後、名古屋市に戻り、不動産管理の家業を継承。直後に絵画や陶磁の収集を始めた。2003年以降、木村さんや遺族が3307件を県美術館に寄贈した。

 同時に巨額の寄付金も受け、調査研究や修復に充当。陶磁器は県陶磁美術館が調査した。県美術館所蔵の木村コレクションの陶磁作品をまとめて紹介するのは初めてとなる。

 木村コレクションの特徴は幅の広さ。近現代美術や江戸絵画、書、仏教の工芸品など、柔らかな視点で見いだした遊び心ある作が多い。「木村さんのコレクションの原点は中国陶磁、茶道具です」と田畑潤学芸員。展覧会では、中国由来の「唐もの」やそれを国内で模倣した文人趣味の陶磁を中心に137件が並ぶ。

 文人とは、中国で古典に通じ、漢文や書画の素養、美意識のある人のこと。文人を象徴するのが煎茶道。千利休らが発展させた抹茶の「茶の湯」に対し、茶葉を用いる「煎茶道」は中国・唐代がルーツ。江戸中期に広がり、文人に憧れた明治・大正期の実業家が茶道具や書画をめでた。「木村さんも文人の世界に憧れ、文人趣味の中国陶磁を集めました」。田畑学芸員も煎茶道をたしなむ。

 大小2件の「青磁多嘴壺(せいじたしこ)」は中国・宋代の12世紀に焼かれた文人好みの花器。大壺はくちばしのような突起が5本つき、五穀豊穣(ほうじょう)、多子多福の願いが込められている。小壺の突起6本は非常に珍しい例。

 軸絵「虎僊育乕子図(こせんこしをはぐくむのず)」は「最後の文人」ともいわれる富岡鉄斎の作。木村さんが20代半ばで京都の菓子店「虎屋」に懇願して譲り受け、文人コレクションの原点となった。中国に伝わる2人の僧、寒山(かんざん)と拾得(じっとく)を、巻物と茶道具を背負う2頭の子虎に見立てている。素養ある人は中国の禅画「寒山拾得図」を想起したらしい。

 その「寒山拾得図」は「奇想の画家」として人気の曾我蕭白の作を木村さんは入手しており、展覧会でも、巻物を広げる寒山、ほうきを持つ拾得の姿が確認できる。

 木村コレクションの調査はまだ半ば。考古遺物で新発見があるかもしれない。