問題作『ルパン三世 GREEN VS RED』が追求した、「真のルパン像」とは

引用元:マグミクス

 山崎貴監督の映画『ルパン三世 THE FIRST』が2019年12月6日(金)に公開され、ファンの熱もますます高まっていることと思います。1967年の原作マンガの誕生以来、50年以上にわたってマンガ、アニメ、実写、舞台、ゲームなどで幅広く展開する「ルパン三世」シリーズのなかでも、2008年に発表された『ルパン三世 GREEN VS RED』は、今なおファンの間で論議を呼んでいる問題作です。

【画像】『GREEN VS RED』から大きく広がった? 多彩な「ルパン像」(6枚)

『ルパン三世 GREEN VS RED』(以下、GREEN VS RED)は、真のルパンの座をかけて緑ルパンと赤ルパンが対決するという内容です。ここでいう「問題作」とは、単に賛否両論が分かれているというだけでなく、観た者に「ルパンとは何者か?」という問題を投げかけてくる、別の意味での「問題作」でもあるのです。

 時代は現代、舞台は長く不況が続く東京。ある日、ルパン三世が万引きの現行犯で逮捕されたというニュースが流れます。すると世界中に散らばっていた数百人のルパンが東京に集結します。捕まったルパンに、「俺の名を汚すんじゃねえ」と訴えるために。この世界では、ルパン三世の名は個人のものではなく、無数の泥棒たちがルパン三世を名乗り、各地でヤマを繰り返していたのです。

 誰でも緑もしくは赤のジャケットを着れば、つまらない現実から抜け出してデカいヤマを踏める男になれる……そんな憧れを持つ者は多く、中華料理屋でアルバイトの日々を過ごしていたヤスオもそのひとりでした。あることがきっかけで緑のジャケットを手に入れたヤスオは、自分こそが “本物”のルパンになろうと、民間の軍事組織“ナイトホークス”が所持するお宝“アイスキューブ”を盗むことを計画。そのカギを握る少年と勝鬨橋で接触した時、そこに赤いジャケットを着たルパンが現れて……。


問題作『ルパン三世 GREEN VS RED』が追求した、「真のルパン像」とは


宮崎駿監督が手掛けた、『ルパン三世 カリオストロの城』DVD(ウォルト・ディズニー・ジャパン)

『カリオストロの城』での“成長”から世代を超えた“継承”へ

『GREEN VS RED』のプロデューサーは、1996年のTVスペシャル『ルパン三世 トワイライトジェミニの秘密』からTVアニメ最新作『ルパン三世 PART5』まで、数多くのシリーズ作を手がける浄園祐氏。監督は2002年のTVスペシャル『ルパン三世 EPISODE:0』で監督デビューを果たした宮繁之氏です。

 ルパンに縁の深いふたりだけに、随所に過去作、特に『ルパン三世 カリオストロの城』へのオマージュが盛り込まれた、非常に情報量の多い作品です。また「ルパンとは何者か?」という自己言及的なテーマや、あえて交錯させた時間軸を構成、すべての謎や疑問を明らかしないストーリー展開などもあって、同作には「よくわからない」「結局何がやりたかったのか」といった否定的な意見も多くみられます。

 確かに、TV第2シリーズ以降に多く描かれてきた、明快な1話完結の冒険活劇としての「ルパン三世」を望んでいた人にとって、この作品は合わなかったかもしれません。

「ルパン三世」シリーズ作のほとんどは、前の作品・話での体験や事象が次の作品・話にあまり影響しない“レギュラードラマ”のスタイルを取っていましたが、宮崎駿監督がテレビ第1シリーズの“その後のルパン”として描いた『カリオストロの城』は、前の作品の体験を受けてキャラクターが成長する“ストーリードラマ”として作られ、シリーズを通じて異色な存在となっていました。

 しかし、この『GREEN VS RED』は、それまで制作されていたシリーズのルパン像を引き受けたうえで「ルパンとは何者なのか」に言及し、同時に「ルパンになるにはどうすればいいのか」と若者が悩み足掻いて“成長”する姿を描くという、シリーズ全体においても、作品単体の物語としても“ストーリードラマ”の要素が組み込まれた作品なのです。こうした二重構造が、作品を難解に感じさせる原因になっているのかもしれません。

 それでも筆者にとって印象的だったのは、作中である人物がヤスオをルパン三世になるように導いている点です。宮崎駿監督は『カリオストロの城』で“成長”を『ルパン三世』に持ち込みましたが、宮繁之監督と浄園祐プロデューサーは、宮崎駿監督による一世代の“成長”を踏まえたうえで、世代を超えて多種多様に分化していく“継承”を『ルパン三世』持ち込みたかったのではないでしょうか。