実在の殺人鬼が照射する現代の病とは?ファティ・アキンが妥協なしで挑んだ衝撃作

実在の殺人鬼が照射する現代の病とは?ファティ・アキンが妥協なしで挑んだ衝撃作

 映画『ソウル・キッチン』『女は二度決断する』などのファティ・アキン監督による最新作『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』が14日に公開。アキン監督が過去に実在した連続殺人鬼を描いた本作での挑戦について語った。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』場面カット【画像】

 舞台は、敗戦が尾を引く1970年代ドイツのハンブルク。1970年から1975年にわたって連続殺人を繰り返したフリッツ・ホンカを主人公に、4人の娼婦を殺害しながら過ごす日常が描かれる。安アパートの屋根裏部屋に住み、夜な夜な寂しい男女が集るバーで酒をあおるホンカ。カウンターの女性に声を掛けても、顔をしかめられるだけ。一見、無害そうに見える彼の狂気に気づく者は誰一人いなかった……。 アキン監督が脚本とプロデューサーも手掛けた本作は、その衝撃的な内容ゆえにコンペティション部門に出品された第69回ベルリン国際映画祭で賛否両論を巻き起こした。殺人を衝動的に繰り返す男の行動にはスプラッター映画のような様相もあるが、印象に残るのは貧困と寂しさの中で大人になった彼の悲哀な姿だ。最近話題をさらった『ジョーカー』のように、社会的に救済の対象とならない孤独な男性を描いた作品として、切実な問題を突きつけてくる。 実在の殺人鬼が照射する現代の病とは?ファティ・アキンが妥協なしで挑んだ衝撃作 (C) 2019 bombero international GmbH&Co. KG / Pathe Films S.A.S. / Warner Bros.Entertainment GmbH  「本物のシリアルキラーというのは、いわゆるフィクションに描かれる連続殺人鬼とは異なるんです。興味があるのは実在の殺人鬼のリアリティーのある姿で、彼がどのように存在するのか? どんなふうに振る舞うのか? ということ。もちろんフィクションであればカリスマ性を持たせるでしょうが、僕としては新しいストーリーテリングを受け入れる余地を持つものを描きたかったんです」

 殺人は淡々と赤裸々に描かれ、ホンカに幻想を抱かせる要素は皆無だ。監督は劇中のホンカを「科学者のように作り上げた」と語るが、なぜ彼に光を当てようと思い立ったのだろうか? 「僕は常に自分の世界や社会、住んでいる場所に映画の素材を探しています。ハンブルク出身の僕が子どもだった80年代、たとえば遊び場にいると『遠くまでいくとホンカが来るよ』と言われるような民話的な存在でした。ある種カルト的で、精神科病院から退院したときも新聞で危険ではないかと書かれたり、一方で彼は自由であるべきだと主張する落書きが壁に書かれたり、物議を醸しました」。そして、2016年に本作の原作となるホンカについての小説が出版されてベストセラーとなり、監督の目に留まった。

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