韓国映画「パラサイト」史上初の大金星 アカデミー賞作品賞のワケ

韓国映画「パラサイト」史上初の大金星 アカデミー賞作品賞のワケ

 外国語映画が米アカデミー作品賞を受賞するのは史上初だ。

 米映画界最高の栄誉とされる第92回アカデミー賞の授賞式が9日(日本時間10日)、ハリウッドで開かれ、最高賞である作品賞に韓国の格差社会を描いた「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)が選ばれた。同作は国際長編映画賞、監督賞、脚本賞も受賞した。

 韓国映画として初のカンヌ国際映画祭最高賞(パルムドール)を受賞し、ゴールデン・グローブ賞のほか全世界で120以上もの映画賞を総ナメにした作品。カビの生えた半地下住宅に暮らすキム一家の長男ギウ(チェ・ウシク)が、友人の紹介でIT長者の屋敷の家庭教師の仕事に就いたことを機に、妹ギジョン(パク・ソダム)ら家族も次々と同屋敷で働き始め、パラサイト=寄生する物語だ。上流階級の富裕層と仕事もない貧困生活者の経済格差や分断された社会構造の様子を強烈に風刺した内容でもある。

「パラサイトーー」は、すでに米国ではテレビドラマ化も決定するなど高評価を受けているとはいえ、米アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーといえば、女性監督や黒人がノミネートされにくいといった旧態依然とした保守的体質が度々、批判されてきた。それが今回、アジア映画を作品賞に選んだのだから極めて異例だろう。

 映画批評家の前田有一氏がこう言う。

「正直、驚きました。今回、作品賞を争っていたのは『パラサイト』と、(作品賞、監督賞など10部門でノミネートされた)『1917』(サム・メンデンス監督)ですが、格差社会や分断という政治的メッセージの強い前者に比べ、後者は政治色の全く感じさせない作品です。古い体質のアカデミーはこれまで、大統領選が行われる年の作品賞にはミュージカルや歴史作品を選出してきたのですが、それが今回は政治色の強い映画を選んだわけです。しかも、かつて右派政権から反政府的な作風などと難癖をつけられ、国家情報院のブラックリストに入れられた経験のあるポン・ジュノ監督にも監督賞ですからね。これらが意味することといえば、米国内で“分断の象徴”と位置付けられているトランプ大統領に対する痛烈な批判ではないでしょうか。格差拡大、人種差別、分断という、いわゆるトランプ的な空気を、アカデミーが相当、嫌っているのは間違いないでしょう。いずれにしても、いろいろな意味で『パラサイト』は大金星です」

 イランなどイスラム教国7カ国の市民の入国を90日間禁止したトランプ大統領に対し、抗議声明を出したこともある映画芸術科学アカデミー。今回の痛烈メッセージをトランプ大統領はどう受け止めるのだろうか。