自身も、そして父親も直木賞作家。それは誰もが望んで手に入れられるような人生ではない。
小説家・白石一文の人生は、その1点だけを切り取れば華々しい。
「病気になってね、届けも出さないで急にいなくなったんですよ(笑)」
若かりし頃。自身の休職を振り返り、白石は悪びれることなくそう口にする。まるで、他の誰かの話をしているような口調だ。
パニック障害で休職し、会社を去った。家を出た日から20年以上も妻と息子とは音信不通だ。
「もうね、僕の人生は大失敗。大失敗なんですよ」
躊躇せず、そう言い切る。
でも、なぜ?
白石は最新刊『君がいなければ小説は書けない』で露悪的とも言えるほど自分の人生をさらけ出している。
本書の主人公は元大手出版社勤務の小説家。籍は残したまま妻子を捨て「ことり」という女性と夫婦同然の暮らしを長く続けているが、ことりの母が病を得たことをきっかけに別居を余儀なくされる。ことりの不在は、自らの人生を反芻する時間となっていくのだが、主人公の人生は白石の人生とぴたりと重なる。(敬称略)【BuzzFeed Japan / 千葉雄登】 Yuto Chiba / BuzzFeed
突然消えた「将来の社長候補」周囲はきっと突然の休職に戸惑ったに違いない。記者・編集者として様々なネタを追いかけていた当時の白石は、周囲から「未来の社長候補」と将来を嘱望されていた。
休職の直接の原因は家庭で抱えたトラブルだった。妻との生活が上手くいかず、精神的にすり減っていたと振り返る。
「僕が土下座して結婚してもらった相手だったんだけど…人間関係ってダメになるときはダメになるんだよね」
どんな状況であれ、生活のためにも仕事は全うする。そんな自分への厳しさが、徐々に白石を追い込んだ。「これが本当に自分のやりたいことなのか?」胸の内には仕事への迷いも抱えていた。
誰からみても順風満帆。出世街道をひた走る男の人生は、ここから狂い始めた。 時事通信 このままではダメになる。心を決め、手帳に退職の予定日を書き込んだ。だが、当時抱えていた訴訟に向けた打ち合わせなど仕事が重なり、退職届を出すタイミングを逃した。
退職届を提出するはずだった日から5日後、突然体が震え出す。動くこともできなかった。
パニック障害の発作だ。会社で働き続けるという選択肢が消えた。
「あの日は、抱えていた大きな裁判について弁護士と打ち合わせをする日だったんです。でも、なんでこんなことをしないといけないんだろうって、嫌になってしまった。だから、もう帰ろうと思って会社を出たんです。誰にも言わずに」
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失敗だらけの人生で。直木賞作家は今日も逃げ続ける
引用元:BuzzFeed Japan