アーロン・クォック、チョウ・ユンファとダブル主演「プロジェクト・グーテンベルク」は「お互い火花が散るよう」

引用元:映画.com
アーロン・クォック、チョウ・ユンファとダブル主演「プロジェクト・グーテンベルク」は「お互い火花が散るよう」

 中華圏のスター俳優チョウ・ユンファとアーロン・クォックがダブル主演を務め、偽札造りの達人が犯罪の連鎖に巻き込まれていく姿を、予測不能な展開と迫力のアクションで描いたクライムアクション「プロジェクト・グーテンベルク」が公開された。監督は「インファナル・アフェア」シリーズの脚本家フェリックス・チョン。第38回香港電影金像獎で作品賞、監督賞など最多7部門を受賞した本作で、天才偽作家レイ・マンを演じたアーロン・クォックが作品を語った。

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 偽造画家のレイはタイで逮捕され香港に護送されるが、高名な美術家ロアンによって保釈される。時はさかのぼって90年代のカナダ。レイは画家として成功を目指すがなかなか認められず、絵画の偽造に手を染める。そんなある日、「画家」と名乗る男に腕を認められたレイは、彼の運営する偽札組織で働くことに。米ドル紙幣の偽札発見テクノロジーの進化をあざ笑うかのように、レイの偽札造りは世界を席巻していく。

–本作「プロジェクト・グーテンベルク」の脚本を読んだときの感想は?

 この映画は、とても複雑な構造な作品です。そのため、「なぜ、ここにこのセリフがあるのか?」「そのときのレイ・マンの気持ちは?」といったことを、すべて理解するため、私は脚本を7回ほど読み返しました。それは私の長い俳優人生で、初めての経験でした。通常の作品なら、2~3回程度ですから。そして、この映画を初めて観た方が、素直に「面白い作品だ」と思っても、2回、3回と観返していくうちに、細かいディテールが見え始めると思いました。そんな観るたびに、新たな発見や解釈ができるような作品に仕上がったと思います。

–レイ・マン役を演じるにあたって、年齢設定など、心掛けたことはありますか?

 レイ・マンを演じるにあたって、私は常に彼が“弱者”であることを心掛けました。チョウ・ユンファが演じた“画家”から無理難題を押し付けられ、もがき苦しむ。つまり、彼は成人男性でありながらも、自身の考えでは行動することができないんです。そして、その後の展開でのギャップのようなものも考えながら演じました。そのため、オープニングとエンディングでは、レイ・マンの表情がまったく違って見えると思います。

–チョウ・ユンファさんとはこれまで数度共演していますが、本作ではどのような気持ちで共演されましたか?

 まるでお互い火花が散るように、ここまで共演したのは本作が初めてです。とても幸運だったと思います。彼は私にとって、大先輩のスターであり、もちろん尊敬しています。とはいえ、私も俳優としてのキャリアを積み、多くの映画賞も受賞してきました。そのため、撮影現場にいるときは、憧れの先輩やファン目線ではなく、共演者の一人として接していました。そして、常に「どのように、目の前にいる“画家”と対峙するか?」という気持ちで演じました。

–香港電影金像奨で初めて主演男優賞を受賞した「九龍猟奇殺人事件」(15)以降、作品選びの基準や俳優としての変化はありましたか?

 私の中で転機になった作品は、追い詰められていく刑事役を演じた「ディバージェンス 運命の交差点」(05)といえるでしょう。それまではアイドル歌手であり、アイドル俳優として、役のうえでもファッションや髪型など、小奇麗なイメージを大切にしていました。「ディバージェンス」では、有名な美術監督であるウィリアム・チャンから、初めて無精ヒゲ姿と、どこか汗臭くくたびれたイメージの衣装を提案されました。そのように、見た目からすんなり役に入ることができたことで、初めて「役との向き合い方」に気付かせてもらったんです。その後には、「父子」(06)で名匠パトリック・タム監督と出会い、実生活では経験したことのなかった父親役を演じました。そのとき、タム監督から「役者とは同じような役を繰り返し演じ、楽をするものではない。難しい役に挑戦するのが、役者である」という有難い言葉をいただきました。それ以降、「九龍猟奇殺人事件」など、できるだけ新しい役柄に挑戦できる作品に出演しているんです。

–一時代を築いた香港映画は現在、中国大陸の資本なしでは、まず製作できません。本作や「ファストフード店の住民たち」(19)のような香港映画らしさが強調された作品に出演されるアーロンさんは、この現状をどのように捉えられていますか?

 香港映画は長年いろんなタイプの作品が作られ、ハリウッドや韓国映画にもリスペクトされ、一時代を作ってきました。でも、今もまだ創作の余地もあるし、優秀な人材もたくさんいると思っています。また、自分がこのような立派な俳優になることができたのも、香港映画界に育てられたからということに間違いありません。だからこそ、その感謝の気持ちをしっかりカタチとして返したいんです。

–具体的には、どういうことでしょうか?

 ここ数年、私は「殺人犯」(09)のロイ・チョウ監督や「コールド・ウォー」シリーズ(12/16)のリョン・ロクマン&サニー・ルク監督など、あえて新人監督と組むことも心掛けています。ウォン・シンファン監督も「ファストフード店の住民たち」がデビュー作です。そうやって、私と組んだことを機に、新人監督だった彼らが賞を獲ったり、大作を手掛けたり、ブレイクすることはとても喜ばしいことです。そのようにして、今後も香港映画を応援したいですし、さらに世界中の人に好きになってほしいとも思います。

–ちなみに、アーロンさんからみて、本作における“香港映画らしさ”とは、どこだと思いますか?

 香港人のチームが偽札を作って、世界を舞台に暗躍し、最終的に香港に戻ってくるという展開は、フェリックス・チョン監督が脚本を書くうえで、香港という存在をかなり意識しています。また、チョン監督はこれまで新しいテーマに挑むことで、香港映画人に対して「こういったテーマ、やり方で戦うことができること」を提示してきました。この映画は、それが顕著に表れている作品だと思います。そして、もちろんチョウ・ユンファさんの存在感も大きいです。彼は香港の伝説的な映画スターであり、本作では「男たちの挽歌」に代表される二丁拳銃を持ったアクション・スタイルを久々に披露しています。あのスタイルは、誰がやってもいいものではない。ユンファさんがやらなければ、香港映画の味を出すことはできないし、カッコ良く決まらないですから。あの雄姿こそが、香港映画そのものといえるしょう。