52年後の仏映画「男と女」に感じたすがすがしい生命力の正体

52年後の仏映画「男と女」に感じたすがすがしい生命力の正体

【大高宏雄の新「日本映画界」最前線】

 日本でも非常に馴染みの深い仏映画の「男と女」(1966年)。その52年後を描いた「男と女 人生最良の日々」を、都内のミニシアターで見てきた。平日でありながら、ほぼ満席状態であったのには驚いた。年配者中心に男女ほぼ半々の客層だったのも妙な納得感があった。

 52年後を同じ俳優が演じた。アヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンだ。若いときに別れた2人が再会する。年を重ねた今の姿に、「男と女」の若き日の映像が重ね合わされる。感動したのは年をとった2人の俳優から、実にすがすがしい生命力の息吹が感じられたことだ。

 風貌では差があった。エーメは若き日の美貌の片鱗が、上品でたおやかな趣のなかから浮かび上がる。対して、トランティニャンは深く刻まれたシワが、ちょっと痛々しいような老いぶりを見せる。ただ、彼には絶妙な会話術があった。その勢いが生きる糧となって、全身を貫いていた。

 こんなセリフに魅了される。「1000人の女性を口説くより、1人の女性を1000回口説くほうが難しい」。エーメの「(今も)魅力的よ」という言葉にトランティニャンは、「嘘だ」「嘘をつく女は可愛い」と返答する。格好いいったら、ありゃしない。もちろん、彼女も負けてはいない。「(彼は)変わってしまった。男性的ではなくなったから」。この言葉は怖い。

 仏映画の醍醐味が本作に満ち満ちている。何歳になっても、会話の中心は相手を思いやる愛を伴う言葉なのだ。それが生命力に直結している。枯れているどころの騒ぎではない。監督は言わずと知れたクロード・ルルーシュだ。映画館に集った年配者は、本作を見てノスタルジーに浸っている暇はない。愛を囁き、行動あるのみである。

(大高宏雄/映画ジャーナリスト)