「ブス」の言葉に悩んでいる人へ 整形アイドル轟ちゃんと“可愛いの呪い”を考える

「ブス」の言葉に悩んでいる人へ 整形アイドル轟ちゃんと“可愛いの呪い”を考える

 生きていると、多くの人が外見の壁に、ぶち当たります。“可愛い”を求め、求められ、さらにはマウントを取られ、不用意な傷を負う人が後を絶ちません。そんな状態に“可愛い戦争”という名を付け、「離脱宣言」をした女性がいます。これまでに、1000万円以上を整形に費やしてきたYouTuberの整形アイドル轟ちゃんです。学生時代にいじめを受け、長い間外見に悩んできた彼女に、今回クランクイン!トレンドがインタビュー。彼女の初書籍「可愛い戦争から離脱します」(幻冬舎)に書かれていたルッキズムの呪いや、そこから“離脱”するにはどうすればいいのかを聞いてきました。(取材・文・写真=阿部桜子)

【撮り下ろし写真】笑顔が素敵な整形アイドル轟ちゃんギャラリー

■いじめの経験がトラウマに

ーー学生時代にいじめを受けたそうですね。「ブス」など心のない言葉を吐かれたとか…。

あの時は、本当に辛かったですね。今でも、人前での食事は苦手です、顔を一番動かすので。話しているときは、口を隠したりできると思うんですけど、見られるのが怖いんです。給食が嫌でした。

ーーいじめの影響は、大人になっても消えることはないと思います。

実は、YouTuberの新しくできた友達が、当時のいじめっ子のような性格になる夢を、よく見るんです。「だんだん給食のときのような空気になってきて…」という内容で。きっとトラウマになっちゃってるんですよね。

ーー学校が嫌だった気持ち、痛いほどわかります。

学校に行きたくない人って、すごくいっぱいいると思うんですけど、わたしみたいにトラウマを作るくらいなら、「無理をして行かなくていいのでは?」って思います。

ーーわたしは、親に引きづられて行くタイプの子でした(笑)

同じです(笑)。休んで、調子に乗ってテレビで『がんこちゃん』を見てたら、めちゃくちゃ親に怒られて、車で連れて行かれました。

今回「離脱」っていう言葉をタイトルに使ったんですけど、“逃げ”とかとはまた違う言葉選びをしたかったんですね。「逃げてもいいんだよ」って言葉は、よく見かけると思うんですけど、逃げではないのかなと。理不尽なところから、あえて離脱するっていうのが、大事なのかと思います。

ーー意思をもった行動ということですね。

「生きにくい」っていうのも自分だけが悪いのではなくて、周りの環境がおかしすぎるっていうこともあるかもしれない。顔面への悪口を言ってくる相手がひどいのであって、そこから抜け出すことは「果たして逃げなのかな?」って考えちゃうんですよね。

■自分と他人の“可愛い”は別と考える

ーー地獄のような日々の中で、“離脱”するまでの間に救済措置はありましたか?

わたしにとって、妄想や仮想現実に沈み込むことと、寝ることが唯一の救済でした。でも当時のわたしは、それを“逃げ”だと思っていたんです。状況を打破しないといけないのに、現実と向き合わない自分に嫌悪感を感じていたのですが、今振り返ると上手いやり過ごし方だなと思います。「無理やり外に出ろ」と言う人もいますが、わたしにとっては引きこもることが充電でした。

ーー没頭できることがあれば、少しの救いになりますよね。

好きなことを見つけるって本当に大事だなって思います。好きまで至らなくても、興味を持つことから始めて、“やりたい”から“やる”に変える。そこからコミュニティーに出会えるかもしれません。先が見えないってなったときに、「ここ以外にも行き着く場所はあるよ」ということを、悩んでいる人に伝えたいです。

ーーそんな一方で、他者からの「ブス」の言葉が離れない現実もあります。

本を書いていたときに気付いたのですが、自分の思う可愛いと世間の思う可愛いって、一緒に考えちゃいけないんです。わたしの場合、自分の可愛いと世間が思う可愛いは別なんだと考えたら、気持ちが楽になりました。

今だと橋本環奈さんや白石麻衣さんのような完璧なゴールに、みんなが向かいすぎているのではないでしょうか。いろんな可愛いの種類があるから、自分が可愛いと思うものを着て、自分の可愛いを目指したら良いと思います。自分で納得する可愛さを手に入れるのが、“可愛い戦争の離脱”なのかな。

ーーたしかに! 「ブス」の自虐ノリが受けるやっかいな環境は、どう打破しましょう。

学校で「ブス」って言われたりしてる視聴者さんの声を聞くと、「すごい、わかる~」って共感します。若く、強い意思をもって「わたしは可愛い」と、なかなか言えません。だから大人になったときに、力が持てるように、ちょっとずつ“世間と自分の可愛いは別”という思考を徐々に植え付けるのがいいのではないかなと思っています。

でも、わたしもメイク動画を公開すると、「ブスを武器にしている人もいるのだから、身の程をわきまえてメイク動画なんかやめなさい」ってコメントが来るんです。ブスを笑いに変えることが正解だと思っている人も世の中にはいるんです。本来はパーツが異なるだけで、この顔はこの職業って決まっていないはずなのに…。

ーーそれは酷い。“身の程”って言葉、わけわかんないですよ。

確かにモデルさんや女優さんのような職業だと、時代の波もあって“求められている顔”があると思います。でも本来、容姿に階級はありません。わたしが整形するのは、わたしの中に「容姿に階級がある」という考えがあるからと思われがちですが、視野を広げたかっただけです。それを“ずるい”と感じる人もいるようですが、外見で選択肢が狭まるのは悲しいことだと思います。

■SNSでの誹謗中傷はどう対処する?

ーー悲しいことを言う人もいるんですね。今の時代SNSを通して、一般人も誹謗中傷を受ける機会が増えましたが、轟さんは、どうやって対処しているんですか?

「ブス」とか「死ね」みたいなものには、「はいはい」って流すようにしているんですけど、長文で書かれた時は、反論を書いて、相手にはぶつけずに消し、自分の中で飲み込むようにしています。わたしは間違っていないんだと納得して、寝ます。

とはいえ、浅はかな人たちの言葉って刺さります。前までのわたしは、重く受け止めるべき言葉だって誤解していました。相手にとって誹謗中傷は、挨拶程度でしかないのに。自分が悪いんじゃなくて、ただ嫌いで傷つけたいだけということに、なかなか気が付けませんでした。

わたしは、自分が自分に納得していたら、どんな言葉も防げるようになってくると思っています。悪口が飛んできても、強い意志があれば、傷つくペースは減らせます。社会を変えるのはすごく難しいので、自分の中を整えるのが大切なのではないでしょうか。

ーー自分を信じ、視点を変えることが重要なのですね。

数年前、整形は頭のおかしい人がするという扱いでした。テレビ番組でも整形をしたい人や整形をした人に対して説教をするような内容が多かったです。でも、ここ最近は肯定的になってきました。

それでも数年かかったんです。なので、息苦しい環境の中で生き残るために必要なのは、やっぱり内面だと思っています。明日、明後日は変えられないけれども、少しずつ強い心を持つと、「可愛い戦争から離脱します」って言える余裕が出てくるんじゃないでしょうか。

【「可愛い戦争から離脱します」概要】
著者:整形アイドル轟ちゃん
価格:1300円+税
発行: 幻冬舎