“一夜逆転”の「ミルクボーイ」サンドウィッチマン以来の快挙を成し遂げた

“一夜逆転”の「ミルクボーイ」サンドウィッチマン以来の快挙を成し遂げた

【2020 新春「笑」芸人解体新書】#1

 昨年末の「M―1グランプリ」は史上最高レベルの激戦となった。3年連続準優勝の和牛、ラストイヤーを迎えたかまいたち、変則キャラ漫才のぺこぱなどファイナリスト全組がハイレベルな漫才を披露していた。

 その中で優勝を果たしたのがミルクボーイだった。決勝1本目のネタでは大会史上最高得点を獲得して、最終決戦でも審査員7人中6人から支持された圧巻の勝利だった。

 彼らが披露したのは、駒場孝(33=写真左)が謎を提示して、ヒントを小出しにしていき、内海崇(34=同右)が答えを当てようとする謎解き形式の漫才だった。

 1本目では駒場が「母親が好きな朝ご飯を思い出せなくて困っている」と言う。さらに「甘くてカリカリしていて牛乳をかけて食べるやつ」という特徴を挙げると、内海は拍子抜けしたように「コーンフレークやないか」と断言する。

 だが、駒場は母親が「死ぬ前の最後のご飯もそれでいい」と言っていたと続ける。そこで内海も「ほなコーンフレークと違うか」と答えを撤回することになる。

 その後、この漫才では、駒場がコーンフレークっぽい特徴とそうではない特徴を交互に出していき、そのたびに内海の意見がコロコロ変わる。その中で彼はコーンフレークに対して「そこまで言わなくてもいいんじゃないか」というぐらい偏見まじりの熱い主張を展開していくことになる。

「コーンフレークはまだ寿命に余裕があるから食べていられる」「コーンフレークは朝の寝ぼけてるときだから食べていられる」などと毒を吐く。ただ、角刈りで小太りのコミカルな外見の内海が、そんなたわいもないことをやたらと熱く主張するのがおかしい。

 そんな2人は決して優等生タイプの真面目な芸人ではなかった。鳴かず飛ばずの日々が続いてネタ作りをサボるようになり、駒場は先輩芸人と遊び歩き、内海はギャンブルに溺れていた時期もあった。

 だが、2015年にM―1が復活した頃には心機一転して真剣に漫才に取り組むようになった。漫才の基本的な形は昔から変わっていないのだが、極限までネタを作り込み、話芸を洗練させたことで、破壊力抜群の漫才が完成した。

 ほぼ無名の芸人が「M―1」で優勝を果たしたのはサンドウィッチマン以来の快挙。ミルクボーイは一夜にしてシンデレラボーイになった。

(ラリー遠田)