報道現場の矛盾に迫るドキュメンタリー「さよならテレビ」 エンタなう

引用元:夕刊フジ

 【エンタなう】

 東海テレビのドキュメンタリー番組を再編集した映画「さよならテレビ」。暴力団事務所に密着取材した「ヤクザと憲法」で話題を呼んだひじ(=玉の上の横棒を取る)方宏史監督は局の社員だ。その手法は、切れ味抜群に闇をえぐる、というより、今回も淡々と人の営みの細部から“日常”の違和感をうまく切り取っている。

 カメラを向けたのは、ホームグラウンドの報道部。上司や同僚たちに煙たがられながら、夕方のニュース番組づくりを追う。視聴率至上主義や契約社員、働き方の実態、放送事故の教訓などが徐々に浮かびあがってくる。他の業種の人が見ても、「どこかで見た光景」かもしれない。

 「残業時間を守るために、夜回りを減らせ」と命じながら、「ライバル局に負けるな」と活を入れる。矛盾する上司に、部下が食ってかかる場面。双方の気持ちがわかって、いたたまれない。

 撮影する監督自身も、かつて県警担当記者などを経験している。いったい、どの目線で何を目的に撮っているんだと、モヤモヤした思いがわいてくる。それへの答えはないが、だれもがインターネットで情報発信できる時代に、テレビ的な予定調和や権力におもねった風に見える作法が通用しないのは自明の理。

 メディア関係者の中には「掘り下げ方が浅い」という評価もあるが、映画「新聞記者」のように、権力者の陰謀めいたあざとい場面がないのは良心的だと感じた。

 東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場ほか全国順次公開中。(中本裕己)