忘れられない5か月前の柴田英嗣の一言…「アンタッチャブル」電撃復活を心から歓迎する理由

引用元:スポーツ報知

 バラエティー番組を見ながら、思わず目頭が熱くなってしまった。11月29日深夜に放送されたフジテレビ系「全力!脱力タイムズ」で、その出来事は起こった。

 「アンタッチャブル」柴田英嗣(44)と女優・新木優子(25)をゲストに迎えての番組終盤。新木が「アンタッチャブルさんが好きなんですけど、最近、漫才を見る機会が少なくなってしまって残念だなと…」と突然、発言。すると、俳優・小手伸也(45)が柴田の相方・山崎弘也(43)に扮して登場した。

 戸惑いながらも小手と漫才をすることになった柴田。しかし、素人の悲しさ、ネタの途中で「ちょっとネタが飛んじゃって」と沈黙した小手を強制退場させたMC・有田哲平(48)がセットの袖から手を引いて連れてきたのが“本物”の山崎だった。

 その場で床に倒れ込み、「バカ! ダメだって、おまえ。違うって! マジで? いやいや、おい、おい、おい、ちょっと待てよ! これ本当に? おい、おい、おい、そんな出方あるか!?」と絶叫した柴田。

 しかし、「この番組でやるの!? おっしゃー!」と気合いの雄叫びをあげると、ジャケットを脱ぎ捨て、山崎と用意されたセンターマイクの前に立った。そして山崎のボケに対し、全くブランクを感じさせない“キレキレのツッコミ”を披露。ここ10年、ピン芸人としての地位を確立したザキヤマ相手に最高レベルの漫才をやり遂げて見せた。

 約3分のネタを終え、「今後はどうなるんですか? 人力舎ー! 山崎が出てきているぞ」と所属事務所の名前も絶叫した柴田。「アンタッチャブル」と言えば、94年に結成。03年の「M―1グランプリ」で敗者復活戦から最終決戦に進出し、3位に。翌年の「M―1」では、関西出身以外のコンビとして初の優勝を飾った天才的ボケとツッコミの2人だ。柴田のプライベートでの不祥事のため、10年間、活動を休止。コンビでの番組出演も全くなかったが、今回の番組予告ゼロの突然の復活劇にネット上は完全に沸騰した。

 ファンからの「やはり、柴田のツッコミはキレキレで天才的。アンタッチャブルはすごい!」、「10年のブランクなんて吹っ飛ぶ最高峰の漫才でした」、「M―1優勝はダテじゃない!」という熱い声にまじり、トップクラスのお笑いタレントたちも喜びの声を上げた。

 放送直後には「さまぁ~ず」三村マサカズ(52)が「やったな!アンタッチャブル!」とツイート。翌30日には「東京03」飯塚悟志(46)が「朝起きてアンタッチャブルの動画見ようとしたら、一撃で涙出てきたから、帰ってからゆっくりみよう」とつぶやいた。

 「サンドウィッチマン」伊達みきお(45)もブログで「あのファストフードの漫才が! いやぁ、すげー嬉しかった! 超久々のアンタッチャブルさんの漫才、最高でした。お2人が昔からお世話になっている有田さんの番組で、こうして何となく復活するという(笑)また、その関係性とかが見えてきて、羨ましさとか…。あと、何だか嬉しくてちょっと涙出ましたわ」とつづった。

 伊達は放送後に柴田に「柴田さん! 漫才最高でした! ありがとうございました!」とメールを送ったところ「なんのありがとうございましただよ! そんな事よりスマホにしろ! ありがとうね」と返信があったことも報告。「あー。良かった。漫才界にとっても、こんな嬉しい事はない。いやー。良かった!」と喜んだ。

 柴田自身も30日にインスタグラムを更新し、山崎や関係者に感謝した。頭を下げている自身の写真を添え、「10年ぶりの漫才 場を与えてくれた有田さん、番組スタッフの皆さん、タレントの皆さん、関係各位の皆さん、何より楽しみにしていてくれた皆さん、そしていきなりの漫才を持ち込んだ山崎、本当に有難うございました。こんなにも待ち望んでくれている人が居たのかと驚きと感謝で一杯です。沢山のメッセージもありがとうございます。これからも沢山ふざけて参りますので、恐ろしい程、ハードルを下げて楽しんで頂ければと思います。いやマジでハードル下げてね」と、つづった。

 さらに8日放送のフジテレビ系「THE MANZAI 2019 マスターズ」(後7時)で、2人が10年ぶりに新作漫才を披露することまで発表された。

 世間をあっと驚かせた復活劇。恥ずかしい話だが、私も記者の立場を忘れ、「脱力タイムズ」での唐突な“復活漫才”を見て、泣いた。それには、はっきりとした理由がある。

 それは今年7月16日のことだった。東京・浜松町の文化放送で行われた定例社長会見。ゲストとして登場したのが、1月スタートの「岡副麻希のほくほくたいむ」(木曜・深夜2時)に出演中のフリーアナウンサー・岡副麻希(26)と柴田だった。

 私にとって、柴田を取材するのは、その時が初めて。それでも、どうしても聞きたいことが一つあった。

 当時は振り込め詐欺グループの忘年会に出席していたお笑いコンビ・雨上がり決死隊の宮迫博之(49)やロンドンブーツ1号2号の田村亮(47)ら吉本興業所属の芸人らが謹慎処分になった「闇営業問題」の真っ只中。だからこそ、2010年1月末から芸能活動を1年間休業。山崎との名コンビも解消していた柴田に質問したかった。大好きなお笑いができない辛さ、相方を待たせる辛さを誰よりも身にしみて分かっているだろう―。そう思ったから、思い切って聞いてみた。

 「1年以上、表舞台に立てない1年間を過ごした柴田さんだけに今回の闇営業問題は人ごとではなく、思うことも多いのでは?」―。

 番組紹介の趣旨からは外れたイレギュラーな問いかけ。柴田自身がどんな反応を見せるかも分からず、“無神経”と取られても仕方ない質問だった。だが、こちらをじっと見つめた柴田は確かにニコッと笑うと、「おい、おい、いいかな? 答えても」と、会見室の隅に控えたマネジャーの方を見て、まず苦笑した。

 その後、きちんとこちらを見返すと、「僕は(所属事務所が)人力舎なので、基本的にそういう(闇営業)のはないんで。僕の場合は謹慎ですけどね。頭を冷やしている最中だったというか。それでも、いつでも(復帰の)準備はしていました」と答えてくれた。

 そして、当時の気持ちについても「辛いっちゃ辛いんですけどね。辛いと思うと、押しつぶされちゃうので」と誠実な口調で、まっすぐ答えてくれた。

 1年以上に及んだ謹慎の理由、その間に何があったのかを、私はおぼろげにしか知らない。ただ、「辛いと思うと、押しつぶされちゃうので」という思わず漏れてしまった率直な言葉に、この10年間の柴田の思い、苦悩が確かに伝わってきた。

 そして今、04年の「M―1」で関西出身以外のコンビとしては初の優勝を飾った天才的ボケとツッコミの最強コンビが表舞台に帰ってくる。

 たった1回、記者と取材対象として言葉をかわしただけの関係。それでも、柴田の正直な、時には凶器にもなるだろうまっすぐな性格だけは、はっきりと分かった。多少、危なくたって、制御不能だって、いいじゃないか。今は誰もが「天才的ツッコミ」と認める漫才師の復活を心から歓迎したい。「たかがバラエティー、されどバラエティー」で思わず泣いてしまった私は心底、そう思っている。(記者コラム・中村 健吾)

報知新聞社