令和初の紅白歌合戦で感じた「歌の力」と新たな方向性

引用元:スポーツ報知
令和初の紅白歌合戦で感じた「歌の力」と新たな方向性

 昨年の大みそかに行われた「第70回NHK紅白歌合戦」。令和初でもあり、第70回の節目、そして2020年の東京五輪を目前に控えた時期の開催と、様々な“枕ことば”がつき注目を集めた「紅白」。16年から「夢を歌おう」をテーマに進めてきた4か年計画の最終年にふさわしいステージだった。

 一昨年は、桑田佳祐(63)のほおに松任谷由実(64)がキスするサプライズもあり話題を集めた。比べると派手さはないものの、じっくりと歌の力で勝負する演出が目立った。NHK2020ソングとして米津玄師が作詞・作曲した新曲「カイト」を、嵐が完成したばかりの国立競技場で初披露。ラグビーW杯で日本代表が初の8強入りした快挙にリンクしたり、東京五輪を前に過去の五輪を振り返る演出も良かった。改めてスポーツと音楽の親和性と未知なる領域に挑み続けるアスリートとアーティストの共通点を感じた。

 長い歴史がある紅白は視聴者もそれぞれのこだわりを持つ。その年に流行した歌を聴いて1年を振り返りたい―という声もよく聞く。そう主張する人からすれば、過去のヒット曲のメドレーなどが多い昨年の、そして近年の紅白は邪道かもしれない。

 ただ、「夢を歌おう」をテーマに様々な世代の人を「歌の力」で応援していくコンセプトから言えば、王道を行った。歌手として初出場となったビートたけし(72)が「浅草キッド」をじっくりと聞かせた。芸人の下積み時代の思い出を歌った曲に総合司会の内村光良(55)はリハーサルの時から「泣けるんですよね」と話していたが、終演後「やばかったです。フルコーラスだったら泣いていました。ずっと『司会だぞ』『司会だぞ』と言い聞かせていました。観客だったら? 号泣していたと思います」と語った。私は、いきものがかり「風が吹いている」で当時の映像が流されると、不覚にもこみあげてくるものがあり涙した。誰にも心の琴線に触れる曲はある。

 今月末で退任するNHK上田良一会長は「私にとって任期中最後の紅白なのでいい意味で感慨深い紅白になる。紅白は家族団らんで楽しんでいただくもの。みなさんの心、思い出に残る歌を聴いて欲しい」。

 家族団らん―。昔のように一つのテレビを世代の違う家族で見る光景はほとんどないが、言わんとしていることは分かる。「パプリカ」で子供たちが踊り、初登場の竹内まりや(64)に期待し、AI美空ひばりに若い頃の思い出を重ねる。どの世代でも楽しめるような番組作りは、昔も今も変わらない。

 番組終盤には、氷川きよし(42)が登場。「紅組でもあり白組でもある。ありのままの姿で自分を表現したい」と堂々のステージを繰り広げ、紅組のトリ、MISHA(41)の「アイノカタチメドレー」ではLGBTの象徴のレインボーフラッグが振られた。紅組、白組のカテゴライズが意味をなさない時代にも突入している。

 「紅白歌合戦」という形式は時代遅れか。3年連続総合司会を務めた内村は「紅白の舞台に立てるなら白組の司会をしたい。優勝旗を受け取るのを見て、『いいな』とずっと思っている」と話し、紅組司会の綾瀬はるか(34)も「今回負けたので(次に司会を務めることがあれば)次こそ勝ちたい。勝敗じゃないと思っていても勝ちたくなる」と不思議な心理を語った。対決形式は時代を超えても支持される伝統の“締め方”になっている。

 変えないもの、変わるもの、柔軟に対応してきた紅白。今後の試金石にもなる「紅白歌合戦」だった。(記者コラム・高柳 義人) 報知新聞社