反体制反権力志向が息づいた「米映画3本」の重要な共通点

反体制反権力志向が息づいた「米映画3本」の重要な共通点

【大高宏雄の新「日本映画界」最前線】

 今年の映画ベスト3を選出する。すべて米映画で、邦画は入らない。それほど、米映画に勢いがあった年であった。「アイリッシュマン」「ジョーカー」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の3本である。

 共通点がある。1960年代から70年代にかけて、一世を風靡した反体制、反権力志向が濃厚だった一連の米映画を土台にしていることだ。自由を求めるがゆえに自滅していく若者たちを描いたアメリカン・ニューシネマや、移民のはみ出し者が裏社会で活躍するマフィア映画などの系譜である。

 アイルランド系のマフィアを中心に描いた「アイリッシュマン」は、ロバート・デ・ニーロに加え、アル・パチーノ、ジョー・ペシら、過去のマフィア映画でお馴染みの面々が、大迫力の演技で裏街道を突っ走る。老いた姿も出てくるが、今どきの枯れた風情などみじんもない。年齢など関係なく、生と死の概念さえ飛び越えたかのような彼らの永久不変の不良青年ぶりが心を躍らせる。

「ジョーカー」は、孤立する人間像の逼迫感が、強烈な恐怖感を伴って見る者の安穏とした日常を脅かしてくる。ジョーカー役のホアキン・フェニックスは、うらびれたなかに恐ろしさと鈍いコミカル性をにじませ、見る者を不思議な感覚に誘う。

 古き良きハリウッドを舞台にした「ワンス――」は、俳優たちの夢と落とし穴を軽妙かつ、とっぴな表現力でえぐりだし、映画への愛もふんだんに盛り込む。女優賛歌に愛があふれた何ともほほ笑ましい作品の印象があった。

 米映画は羨ましい。映画史を踏まえつつ俳優たちへの尊敬も損なわず、現代そのものの映画を送り出してくるからだ。多くの日本映画は、爪の垢を煎じて飲むべきと思う。

(映画ジャーナリスト)