柳亭小痴楽、初の著書「まくらばな」で記した父・痴楽の教えと歌丸さんへの思い

引用元:スポーツ報知
柳亭小痴楽、初の著書「まくらばな」で記した父・痴楽の教えと歌丸さんへの思い

 9月に真打ち昇進を果たした落語家・柳亭小痴楽(31)が「まくらばな」(ぴあ、1540円)を11月に出版した。亡き父親の5代目・柳亭痴楽さんの独特の教育方針や、かわいがってもらった桂歌丸さんとの思い出など極上のエピソードを書き下ろした。笑いながら心が温まる21個のストーリーからなるエッセー集。2、3日で1冊読了するヘビーな読書家の小痴楽が本へのこだわりと作家デビューを語った。(高柳 義人)

 9月21日に新宿末広亭で始まった柳亭小痴楽の真打ち昇進披露興行。落語芸術協会(春風亭昇太会長)では15年ぶりの単独昇進と期待が高まる中、池袋演芸場、浅草演芸ホール、国立演芸場と40日間の興行は連日満員、立ち見が出る盛況だった。全ての日でトリを務め、終演後は毎日「打ち上げ」に繰り出した。

 楽屋入りすると、まず客席をのぞき、お客さんの入りを確認した。「埋まってくれて良かったです。小遊三師匠、米助師匠と出てもらったのが芸協のオールスターと言ってもいいですし、上方、円楽一門にも出てもらいましたから」と小痴楽は感謝した。

 多忙な披露目の最中に「まくらばな」を執筆した。春に出版社から真打ち昇進の9月発売予定で執筆の依頼を受けた。ライターが間に入るインタビュー形式も提案されたが、断った。「本が好きなので、書くんだったら自分の言葉で書きたかった。それを承認してもらいました」。楽屋にこもってキーボードを叩いた。「一人だとサボっちゃう。自分は“格好付けしい”なので(周囲に)人がいる方がやる。『オレ、やってるぞ!』って」と笑った。

 高校中退の16歳で入門した小痴楽にとって本は常に身近にあった。小学3年くらいだった。「学校の勉強が出来ないから、授業でも何をやっているか分からない。それで本を読んでいた。現実を忘れて(本の)中に入れる。居場所がある。分からない今の状況を忘れられる。本に逃げたんでしょうね」。「ハリー・ポッター」シリーズや、湯本香樹実「夏の庭」から本の世界にどっぷりと漬かった。

 伊坂幸太郎、万城目学、黒川博行、朝井リョウ、冲方丁、石田衣良…。好きな作家の名前が次々と出てくる。地方への仕事などで文庫本は欠かせない。「(家を出て)携帯を忘れても取りに戻らないけれど、本は取りに戻る。時間的に無理な時は、読んでいた途中でも同じ本を(もう一冊)買う。本依存症ですね」と笑い飛ばした。

 読書家ならではのこだわりもある。「どういうふうに想像してもらおうか。しゃべりと字では全然違うのが面白かったですね。同じエピソードでもマクラで話すのと字にするとでは全然違う」。話の展開や文字で情景を描くことに苦心した。高座では鉄板のネタでも、文字にして伝えることが難しく、泣く泣く断念したものもある。出版すると、小遊三から声をかけてもらった。「お前、アレ良かったよ。いいよ。いいよ」。小痴楽は「絶対褒めることがない人から褒めてもらえて、泣きそうになりましたね」。

 昨年7月に亡くなった桂歌丸さんのことも書き記した。祖父と孫ほど年が離れていたが、かわいがってもらった恩人でもある。食べ物を巡るやりとりを独特のタッチで描き、情景が浮かんでくる。「読んでもらいたかったです。ニヤッと笑ってくれる気がします」

 父・痴楽さんとの思い出も書いている。入門する直前に病で倒れ、小痴楽が二ツ目に昇進する直前に亡くなっている。小痴楽がけんかをした時も頭ごなしに叱るのではなく、けんかの仕方を説いた。ヤクザになりたいと言うと、“ホンモノ”に会わせるなど型破りながらもまっすぐに生きた父親が描かれている。「勉強ばっかりしてきた人に読んでもらいたいですね。何が正解とかないんじゃないかと思うんです」

 刺激的なエピソードばかりだが、読み終わった時に、なぜか心がほっこりする。本を読んだファンから言われた。「痴楽さんは見たことがないですけれど、面白いお父さんだったんですね」。その言葉が小痴楽の胸に響く。天国の父親への親孝行にもなる。「そう言われると本当にうれしいですね」

 ◆柳亭 小痴楽(りゅうてい・こちらく)本名・沢辺勇仁郎(さわべ・ゆうじろう)1988年12月13日、東京都生まれ。31歳。5代目・柳亭痴楽の次男として生まれる。2005年10月、桂平治(現・文治)に弟子入りし「桂ち太郎」。08年6月、父・痴楽門下に移り「柳亭ち太郎」。09年9月、痴楽死去後、柳亭楽輔門下へ。同年11月に二ツ目昇進し「3代目・小痴楽」となる。13年に神田松之丞、瀧川鯉八、桂宮治ら11人でユニット「成金」を結成し二ツ目ブームを起こした。今年9月に真打ち昇進。 報知新聞社