俳優・梅宮辰夫、命のバトンを娘へプレゼント 父の老いと逃げずに向き合ったアンナの努力にも拍手

引用元:夕刊フジ
俳優・梅宮辰夫、命のバトンを娘へプレゼント 父の老いと逃げずに向き合ったアンナの努力にも拍手

 【ドクター和のニッポン臨終図巻】

 「骨だけがバラバラになって出てきた。悲しかった。人間ってこんなに簡単なものなのか…」

【写真】松方さんの遺影に語りかける梅宮さん

 盟友・松方弘樹さんが亡くなった際、声を震わせてそう語った姿が今でも焼き付いています。

 あれから約3年。12月12日、俳優・梅宮辰夫さんが旅立ちました。享年81。死因は慢性腎不全。発表では、神奈川の病院で死亡とのことですが、実際は真鶴のご自宅で朝、静かに息を引き取られたようですね。そこから病院に運ばれて死亡確認となったのでしょう。

 死の前日まで透析を受けており、その病院から自宅へ帰る車中、海を眺めて「天気がいいなあ。釣りがしてえ」と話していたとか。今、あの世で松方さんと久しぶりに並んで釣り糸を垂らしているのでは。

 梅宮さんは今年1月に、自身6度目のがんとなる尿管がんの手術を受け、その後、慢性腎不全と診断。2月から人工透析になりました。慢性腎不全とは腎機能が徐々に低下した状態。透析治療で延命をしても、いつか限界が訪れます。

 訃報には、壮絶死のような見出しも散見されますが、直前までおしゃべりができて、大好きな海の見える家での旅立ちですから、見事な平穏死でしょう。

 それを支えたのが、娘のアンナさん(47)の存在。お父様が旅立ったその翌日、アンナさんはブログにこう綴っています。

 「家族皆んなで、日々最善を尽くす日々でした。父の変わりゆく姿に何度も泣いた」

 頼もしかった父・辰夫さんの老いと逃げずに向き合われた、アンナさんの努力に拍手をしたい。

 親の死はもちろん、老いさえも受け止められない子供は多く、そのために在宅医療がうまくいかないケースを時々経験します。

 そこで私は、40~50代の子供世代に向け『親の老いを受け入れる』という本を出しました。本書に載せた詩を少し紹介しましょう。

 「親が老いていくということ。それは、萎んでいくこと。小さくなっていくということ。小さくなって軽くなって、それでもあなたの親であるということ/親が老いていくということ。それは、お別れの日が少しずつ近づいているということ。親がどんなお別れを望んでいるのか、察してあげること。あの世とこの世の境目が、少しずつ曖昧になってくるということ/親が老いていくということ。それは、命の仕舞い方をあなたに教えてくれているということ。あなたもいつかこうなるのだと、それは最後のプレゼント」

 辛い介護経験もたくさんしたことでしょう。それでも、最愛のお父様と過ごせた日々は、命のバトンという貴重な贈り物です。落ち着いたらアンナさんの言葉で、「親の老いの受け入れ方」を同世代の方々に語ってほしいと願います。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。