退屈という地獄を経て「松本まりか」が手にした大人の顔

退屈という地獄を経て「松本まりか」が手にした大人の顔

【今週グサッときた名言珍言】

「私は長い時間をかけて、人生の退屈っていうのを味わったんですよね。嫉妬するかわりに」(松本まりか/テレビ朝日「太田松之丞 今年話題の女優が来たよスペシャル」12月13日放送)

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 2018年のドラマ「ホリデイラブ」(テレビ朝日)で、主人公の夫を奪い取ろうとする不倫妻を演じ、「あざとかわいい」などと評され、ブレークした松本まりか(35)。だが、本人も「暗黒の時代」と呼ぶ下積み期間が長かった。そんな時代を振り返って語った言葉を今週は取り上げたい。

 蒼井優や宮崎あおいといった同世代の友人たちが、どんどん売れていく中で自分だけはくすぶったまま。当然、最初は嫉妬もした。けれど、「嫉妬心にさいなまれて、自分が自分でいられなくなっちゃうから、自分が生きるために、私は彼女たちを羨むことをやめた」。でないと「きっと顔が醜くなる」と思ったからだ。

 もちろん、それは簡単なことではない。だから自分自身を「洗脳」し、嫉妬心を「忘れた」のだという。そうして残ったのが「退屈」だった。

 松本まりかは15歳の頃、原宿を歩いているときにスカウトされ、2000年に「六番目の小夜子」(NHK)で女優デビュー。ネクストブレーク間違いなしと注目を浴び、コンスタントに役をもらえていたが、満足のいく結果を残すことができなかった。

 その頃は「自分のことを見たくなくて、長いこと逃げていた」(読売新聞「OTEKOMACHI〈大手小町〉」18年10月25日)という。

「自分の居場所がなく、自分で自分のことを認めることができなかったんです。“絶望”という言葉が何度、頭の中をめぐったかわかりません」(同前)

 このままじゃダメだと、デビューから10年が経った2010年から1年間ロンドンに留学した。

 帰国後、小劇場と出合い、小さな舞台に積極的に出るようになった。そのうちのひとつが、山内ケンジ主宰の「城山羊の会」。映画のようにささやくようなセリフの応酬が衝撃的だったという。この劇団に出演したときの芝居をプロデューサーが見たことがきっかけで、「ホリデイラブ」の出演が決まった。やっと自分の居場所を見つけて、スタートラインに立てたと感じたという。

「下積み時代が18年あったからこそ、今の自分を客観的に見られる」(テレビ東京「テレ東プラス」19年11月12日)という彼女は「今、私、第3次成長期を迎えている感じ」と笑う。「思春期を終えて、大人になって改めて、いろいろなことを吸収していることが実感できる。そうすると、自然と希望も出てくる」(同前)と。

「醜い顔」にならないことと引き換えに味わった「退屈」という地獄を経て、魅力的な大人の顔と、退屈する暇もない希望を手に入れたのだ。

(てれびのスキマ 戸部田誠)