NHK朝ドラ「スカーレット」を包み込む富田靖子“昭和のオーラ”

NHK朝ドラ「スカーレット」を包み込む富田靖子“昭和のオーラ”

 101作目となるNHK連続テレビ小説「スカーレット」が絶好調だ。

 特に第11週の「夢は一緒に」では、戸田恵梨香(31)演じるヒロイン・川原喜美子が松下洸平(32)演じる同僚の十代田八郎に募る思いを告白。二人は喜美子の父親・常治(北村一輝・50)に結婚の許しを得るために説得を続け、最後は条件付きではあるが、常治が折れる形で許しを得た。緊張感も、笑いも泣きも散りばめられた名シーンの数々。まさに前半戦の山場と言える週だった。

「喜美子、八郎、常治の熱い演技に注目が集まっていますが、重要な局面では、喜美子の母・川原マツを演じた富田靖子さん(50)の演技が光りました。常治に自分たちが駆け落ちした時のことを目を輝かせながら話すシーンなど、控えめで言葉数は少ないけれど、その場の空気を一言で和ませる。酒浸りで横暴な父親と個性豊かな3人姉妹を上手に回しているのは実は控えめな性格のマツで、まさに昭和の妻であり母親といった姿を思い起こさせる名演技です。富田さんの女優としての底力を見た思いがします」(NHKドラマ制作スタッフ)

■オーディションで12万7000人の中から選ばれた

 かつて、富田はアイドル女優だった。83年に映画「アイコ16歳」で主演デビューを飾った。薬師丸ひろ子(55)はオーディションで8万7000人の中から選ばれたが、冨田は12万7000人の少女たちの中から選ばれた。映画宣伝のCMでは「その時、富田靖子トミタヤスコはアイコになったのです」と映像の下にテロップが流れるほどだった。

「薬師丸さんは、デビュー当時からすでにスーパースター扱いされていましたが、富田さんはクラスの女子が映画に主演したような素人っぽさを感じさせる女優でした。映画の中のアイコがそのまま富田と重なり、ファンはまるで彼女のドキュメンタリー映画を見ているような錯覚を抱いたものです」(芸能ライター・弘世一紀氏)

 富田は85年には大林宣彦監督の「さびしんぼう」に主演し、女優としてさらに高い評価を得る。まさに順風満帆。薬師丸以上の活躍を期待された。

「その後、共演者の不祥事によって映画やドラマが2度に渡って途中で打ち切られたり、自身も車の衝突事故を起こし、同乗していた俳優の筧利夫(57)との交際が明るみに出ます。清純派のイメージが完全に崩れたのは誤算でした。その後、95年にはイメージチェンジを図るべく、映画『南京の基督』でフルヌードの濡れ場を演じましたが、映画そのものの評判が芳しくなく、この頃から主演作が減っていきました」(前出・弘世一紀氏)

 と言っても、女優としての実力は誰もが認めるところ。90年に、つかこうへい演出の二人芝居の舞台「飛竜伝90 殺戮の秋」の演技が評価され、昨年の主演舞台「母と暮せば」では、朝ドラで共演中の松下洸平とも共演した。原爆で亡くなった息子が、一人で生きる母親を心配して亡霊となって出てきて二人で語り合うという芝居で、富田は、和服姿に白髪まじりで少し病弱な雰囲気も漂わせながらも、健気に一人で生きる母親役を演じた。

■松嶋菜々子との違い

 そこで思い出されるのが、「スカーレット」の第1話での登場シーンだ。リヤカーを押す常治とマツ、そして三人の幼い娘たち。琵琶湖を前に赤ん坊を抱えたマツが登場する。

「正直、ものすごく驚きました。マツは終戦直後の貧しい一家で3人の子供を抱えた母親ですから服装もみすぼらしく、髪型や化粧に気を使う暇も余裕もない。と言ってもドラマです。ベテラン女優さんなのでそれっぽいメイクはしても、本当にみすぼらしく見える格好はほとんどしません。しかし、富田さんは本当に全くメイクをしていないかのように見えました。目が落ち窪み、肌の張りもなく、髪もパサついている。つまり、ちゃんとやつれていて、見ていて本当に心配になるほどでした。前回の『なつぞら』も終戦直後の北海道のシーンから始まりましたが、開拓民の娘役でありながらツルッツルの美肌で登場した松嶋菜々子さん(46)とは役者が違うと思いました。こういう演技ができる女優さんになったのも、これまで苦労を重ねてきた女優人生がしっかり糧になっているのでしょう」(前出・弘世一紀氏)

 最初の頃は個性の強い夫と3人の娘の世話でクタクタになっていたのが、ときに力の抜けた笑いを交えながら3人の娘の成長とともに娘たちに力を与えてもらいながらどんどん強くなっていく。そんな富田が日に日にたくましく美しく見えてくるのも、彼女の演技力がすごすぎるからに違いない。