元星組トップスター・紅ゆずる、18年の宝塚人生は「スーパーハッピーな時間」

引用元:Lmaga.jp
元星組トップスター・紅ゆずる、18年の宝塚人生は「スーパーハッピーな時間」

2019年10月に宝塚歌劇団を卒業した元星組トップスター・紅(くれない)ゆずる。タカラヅカ王道の華やかな作品から、明るい持ち味を活かした落語が題材のミュージカルまで幅広い作品に出演し、唯一無二の個性を発揮。大阪仕込みの軽妙なトークでも魅了する紅は、今後どのような道を歩いていくのか。退団後の率直な思い、初主演コンサート『紅-ing!!』への意気込み、さらに今の「紅ゆずる」をつくり上げた原点について語った。
取材・文/小野寺亜紀
「規格外で破天荒でした!」

【写真】インタビュー撮影にて

──退団のご挨拶で、「心が震えるほど愛する場所」と表現された宝塚歌劇団を10月13日に卒業されて、翌日はどのようなお気持ちだったのでしょうか?

翌日は組旅行(星組生全員での旅行)でみんなに会えるから、まだ寂しさはなかったのですが、14日の午前0時を過ぎたときに、「あぁ、自分はもうタカラジェンヌじゃない日を送っているのだな」と一瞬思いました。そして、組旅行を終えて新幹線で別れるときに初めて、「みんなは宝塚に帰るんだ、自分は違う道なんだ…」と寂しさを実感しました。ただ、12日の前楽が台風の影響で中止になり、「千秋楽は何とか成功させたい。ファンの方に納得していただける形で退団したい」と強く思っていたので、何かを成し遂げたという思いも大きかったです。

──あらためて18年間の宝塚人生を振りかえると、いかがですか?

すごく苦労があったと同時に、スーパーエンジョイした、スーパーハッピーな時間だったと思います! よく「苦労したことも忘れる」と言うけれど、苦労にも意味があるというか、苦労は花咲くための大切な時間、ということを実感する日々でした。

──確かに、コツコツと努力されてトップスターに上りつめられた印象があります。品のある伝統的なスター性と同時に、規格外な魅力を放たれたように感じますが、ご自身ではどのような男役だったと思われますか?

仰っていただいた通り、規格外で破天荒でした! 宝塚はすべてが自己プロデュースなのですが、私自身「見かけは宝塚っぽいのに、全然宝塚っぽくないよね」と言われる人になりたかった。実際私は(宝塚王道の)コスチュームものやレビューが好きですが、それとは別に「紅子(べにこ)」(紅演じる個性的な女性キャラクター)みたいなものもできたらいいなと思っていたので、本当に良かったなと思います。

──ではやりたいことを、全うできた宝塚人生だったのですね。

そうですね。劇団にそれを叶えていただきました。最初は劇団も戸惑われたと思うのですが、最終的にはすごく面白がっていただき、本当にかわいがっていただきました。もうファミリーという感じです。

──それは紅さんの宝塚愛の大きさゆえ、というのもあると思います。大阪出身の紅さんですが、小学5年のときに宝塚歌劇の舞台をテレビで観てから、虜になったのですよね。

はい。ただ私の家族は全然芸能に興味がなくて、自分が「タカラヅカ、タカラヅカ」と騒いでも「よく知らないな」という感じで・・・。でも昔から近所の方に、「宝塚に入ったら?」とすごく勧められてはいました。

──見た目などからですか?

どこに行っても男の子に間違われてイヤでしたね(苦笑)。小学6年で168cmあり、ランドセルが非常に似合わず、「タカラジェンヌみたい」とよく言われていました。でも周りはそんなに宝塚には詳しくなかったんですよ! 唯一、書道の先生が宝塚をとても好きで、毎回書道をするというより、永遠に宝塚の話をするという感じでした。先生に「私、宝塚に入りたいねん」と言うと、「入り入り!」と応援してくれました。

──その頃から、「人を楽しませたい、笑わせたい」という感じだったのですか?

いえ、全然そうでもなくて。その頃はすごく人見知りをしていました。挨拶も頑張らないとできない、みたいだったのが、やはり舞台に立ってから変わりましたね。自分の発することに対して、お客さまから返ってくるものがあったとき、とてもうれしくて。初主演させていただいた新人公演の最初のソロナンバーで、右手と右足が同時に出るぐらい緊張して、人生の大ピンチだったのですが、銀橋(オーケストラボックスと1階客席の間にあるエプロンステージ)のど真ん中で、お客さまから大きな拍手をいただいたときに、一気に吹っ切れたんです。大ピンチが大チャンスに変わった瞬間でした。

──紅さんにとって最後の新人公演、『THE SCARLET PIMPERNEL』(2008年)でつかんだ初の主役ですね。

はい、あのときにお客さまからの温かい拍手がなかったら、もうド緊張で全然ダメだったのかもしれないのですが、その拍手で「自由におやりよ」と言われている感じがして、とても助けられました。そこで「お客さまありきの自分」なのだと感じ、それからは劇場でお客さまとのキャッチボールがしたい、という思いがずっとありました。

──この時の曲が『ひとかけらの勇気』で、まさにその曲の通り、紅さんの宝塚人生に勇気をもらった方も多いのではと思います。

自分の好きなことをして、みなさまが喜んでくださるなんて本当にありがたいです。まさかこの作品を、自分がトップになったお披露目公演(2017年)でさせていただけるなんて思ってもいなかったので本当に幸せでした。

「絶対にこれ!というものを見つけることが目標」

──先日は後任の新星組トップスター・礼 真琴さん主演、『ロックオペラ モーツァルト』を観劇されたそうですね。

開幕2日目に! とても感動しました。組旅行で別れてからみんなはお稽古を始めたのに、「こんな短い期間でよくやったな!」と礼 真琴に言ったら、「さゆみさん(紅)はもっと短い稽古で、公演をやっていましたよ」と言われて、「そうやったっけ!? 」と思いました(笑)。星組のみんなの「吸収したい」という思いが強く、私が開演前に楽屋へ行くと「ここでこういうセリフを話すので、後でダメ出しをください」と言われ、みんなの要望をいっぱい抱えながら客席につきました(笑)。私が観に行くたびに、いつもアドバイスしていたからでしょうね。

──これからの星組も頼もしいですね。 紅さんご自身は、来年2月に『紅-ing!!』で退団後本格始動となります。主演コンサートは念願だったのですか?

退団後について考えたとき、自分が生きていくために何かをやるというよりも、これまで応援してくださったみなさまに楽しんでいただけることをやりたいと思っていたので、このお話をいただき心が動きました。

──宝塚歌劇専門チャンネル『タカラヅカ・スカイ・ステージ』の番組のなかで生まれた、男役5人組ユニット「紅5(くれないファイブ)」のメンバー、壱城(いちじょう)あずささん、如月 蓮(きさらぎ・れん)さんが出演され、美弥(みや)るりかさんも東京公演のスペシャルゲストとして参加しますね。

やっぱりこの「紅5」のメンバーが一番自分を分かってくれているという思いがあるので、心強いです。今まで苦楽を共にしてきた仲間たちと一緒に、新たな紅ゆずるの開拓を考えていけたら。今までがあってこその紅ゆずるなんだ、ということを、お客さまと一緒に共感し、楽しみたいです。

──構成・演出は、前星組トップスター柚希礼音さんのコンサートシリーズや、紅さんのディナーショーなど多くの作品で組まれた藤井大介先生。観客との絡みが楽しい「紅子」の生みの親でもありますね。

「紅子」は、柚希さんのコンサート『REON!!』で誕生し、最初は「何これ!?」と思ったキャラクターでしたが、最終的にはお客さまとのやりとりで公演時間がオーバーしてしまうほどに濃くなりました・・・(笑)。客席案内係という設定だったのですが、お客さまのノリもありどんどん強烈な、でもみなさまから愛されるキャラクターになったと思います。最初はあそこまで強気なキャラクターでやるつもりはなかったんですけどね(笑)。

──2018年の台湾公演『Killer Rouge/星秀☆煌紅(アメイジングスター☆キラールージュ)』で、「紅子」は海外へも進出しましたね。

海を渡りました! 「紅子」というキャラクターが出ることで、普段の紅ゆずるが言えないことも代弁してくれる、お客さまとの懸け橋になっているなと思います。今回のコンサートで「紅子」が登場するかはまだ分かりませんが、台湾公演でも感じた、お客さまと一緒につくり上げる空間を今回も目指したいです。タイトルに込めた「紅、続行!」で暴れたいですし、自分自身も楽しみ、みなさまにも楽しんでいただきたいです。

──最後に、「信じた道を突き進む」というストイックさが、紅さんの良さでもあると思うのですが、今後の活動への意気込みをお聞かせください。

これまでは宝塚歌劇の舞台に立つことが私の信じる道、極めていく道だったのですが、今はそうではないからこそ、「絶対にこれ!」というものを見つけることが目標です。そのために挑戦できることはすべて挑戦したいです。最初の一歩がこのコンサートなので、お客さまのお力をお借りして、これまでにない魅力を発見できれば。何より私はお客さまありき、ファンの方ありきなので、みなさまと一緒に新しい紅ゆずるを見出していきたいです。

『紅ゆずる 1st CONCERT「紅‐ing!!」』は、「梅田芸術劇場メインホール」(大阪市北区)で2月6日~9日に上演。その後、「東京国際フォーラム ホールC」(東京都千代田区)で2月13~15日に上演。チケットはS席11000円ほか、2020年1月11日発売。