【レビュー】小説と映画、2つの「シャイニング」が見事に融合!『ドクター・スリープ』の味わい方

引用元:Movie Walker

アメリカを代表するベストセラー作家で、その著作が次々に映像化されているスティーヴン・キング。現在公開中の『ドクター・スリープ』は、彼の同名長編を映画化したエンタテインメント大作だ。心に闇を抱える孤独な中年男ダニー。特別な力“シャイニング(かがやき)”の持ち主である彼は、同じくシャイニングを持つ少女アブラと共に、忌まわしい児童連続失踪事件に巻き込まれてゆく。

【写真を見る】『ドクター・スリープ』には『シャイニング』(80)とのつながりを感じさせるシーンも…<写真15点>

『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(公開中)や日本公開が来年に迫る『ペット・セメタリー』(19)などキング原作の話題作が相次ぐ中、『ドクター・スリープ』が特に注目されてきたのは、原作がキングの初期代表作「シャイニング」の続編であるため。雪に閉ざされたオーバールック・ホテルで管理人一家が邪悪な存在に襲われるこの作品には、“先生(ドク)”の愛称で呼ばれる少年ダニーがキーマンとして登場。ホテルから生還したダニーのその後の人生を描くのが『ドクター・スリープ』なのである。

■ ホラーにフォーカスして作られた『シャイニング』

「シャイニング」が人気を博した背景には、キングの才気に加えスタンリー・キューブリックによる80年公開の映画版の存在があった。キューブリック初のホラー映画として注目された本作は、緻密で力強い映像や狂気に駆られるダニーの父ジャックを演じたジャック・ニコルソンの怪演も手伝い高い評価を獲得。作品と共にキングの名を世界中に知らしめた。

ただし映画版は、キューブリックが「男とその家族が狂っていくだけの物語」と語ったように原作を大幅に脚色。黒幕である“呪われたホテル”の存在を曖昧にし、ダニーとジャックの絆のドラマも省いたため、物語の大枠を使った別作品に仕上がった。そのためキングは映画版に批判的で、97年には原作に忠実な(かつ、霊魂となったジャックが立派に成長したダニーを祝福するエピローグを加えた)テレビ版を自らの脚本、製作総指揮で手掛けている。

■ 小説と映画版。双方の特徴を巧みに組み合わせる

原作と映画版、2つの「シャイニング」をどう消化するのか?今作でその難題に挑んだのが、小学生の頃からキングを愛読し、キューブリックに映画の魅力をたたき込まれたというマイク・フラナガンだ。彼は映画の軸として、ダニーとディック・ハロラン(『シャイニング』でダニーと交信する老人)やアブラの関係を通し、父と子の物語を展開。原作では破壊されたが、映画版では生き残ったオーバールック・ホテルを呪われた地としてクライマックスの舞台に選ぶなど、軸足を映画版に置きながら前作で省かれた要素を回収した。

原作と映画版どちらのファンも納得させる続編に仕立てたフラナガンを、“否定派”キングも称賛。加えて、ダニーとアブラが邪悪な集団に戦いを挑むサイキックなバトルをはじめ、道を踏み外した男の再生ドラマ、二転三転するミステリアスな展開や容赦なきホラー描写など、キングの魅力が詰まった作品になっている。かつて惨劇を生き延びたダニーは、なぜ再びあのホテルを目指したのか…?2つのDNAを受け継いだ『ドクター・スリープ』を味わってほしい。

(Movie Walker・文/神武団四郎)