ジャ・ジャンクー監督、清水崇監督を激賞!次回作はホラーに?【『犬鳴村』特別対談】

引用元:Movie Walker
ジャ・ジャンクー監督、清水崇監督を激賞!次回作はホラーに?【『犬鳴村』特別対談】

『呪怨』(03)のヒットでJホラーブームを巻き起こし、ハリウッドに渡って監督した『THE JUON 呪怨』(04)、『呪怨 パンデミック』(06)が相次いで全米初登場1位を記録したJホラーの第一人者、清水崇監督が実在する心霊スポットを舞台に描いた『犬鳴村』(公開中)が、近年のホラー映画としては異例のスマッシュヒットを記録している。

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英語圏や国内はもちろん、容赦ない恐怖描写とエンタテインメント性が高い作風でアジア圏でも人気を誇る清水監督だが、中国映画界からも新作には熱い視線が集まり、第63回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞した中国映画の巨匠、ジャ・ジャンクー監督が、自ら主宰を務める第3回平遥国際映画祭に招待、ワールドプレミアが開催された。

Movie Walkerでは、両監督に取材を依頼。アジアを代表する監督2人が互いの作品から映画界の未来までを語り倒す、貴重な対談をお届けする。

次々と巻き起こる恐怖体験で観客を恐怖のどん底に叩き落す本作は、臨床心理士の森田奏(三吉彩花)の周りで奇妙な出来事が起こり始めるところから幕を開ける。奇妙なわらべ歌を歌いながら突然死した女性、行方不明になった兄弟、繰り返される不可解な変死…。それらの共通点は奏の地元でも有名な心霊スポット、犬鳴トンネルにあった。すべての真相を突き止めるため奏は犬鳴トンネルに向かうが、その先には決して踏み込んではいけない、驚愕の真相が待ち受けていた。

インタビューに先がけて行われたワールドプレミア上映には、プレゼンターとしてジャンクー監督が参加。清水監督が「身長が同じくらい(小柄)だったので、安心しました」と冗談めかせば、ジャンクー監督も負けじと反撃するなど息の合ったところを見せた。

■ 「ジャンクー作品には、一貫して“自分の生き場所”というテーマが見える」(清水)

対談のはじめに、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され話題となり、昨年の日本公開もロングランとなったジャンクー監督の最新作『帰れない二人』の感想を、清水監督に尋ねた。

清水「ジャンクー監督の作品には、一貫して“自分の生き場所”というテーマを感じています。『帰れない二人』はそのテーマを踏まえつつも、さらに一歩進んだテイストに仕上がっていると思いました。二人の男女がバラバラになっていくなかで、どちらもが“そこにいていいのかわからない”と言いたげに見えるのは、急成長していく中国と自分との間にズレを感じている人々の姿を体現していると感じました」

ジャンクー「ありがとうございます。私はこれまでも映画のなかで、中国社会でも特に小さい町で過ごしている人々、あるいは権力や金を持っていない貧しい人々のことを描いてきましたが、『帰れない二人』は社会の変化をどう映画に反映するか、どうやってお客さんに見せるのかを、非常に考えて作りました」

清水「劇中でヤクザ者のビンが若い男に襲われますが、それを許して『お前らには未来がある』と逃がす、しかしそのあと許した若者にまた襲われてしまう。モデルになった出来事や人物などはいるのですか?」

ジャンクー「特定のモデルがいるわけではないのですが、中国社会は競争が大変激しく日本で言うような先輩と後輩の区別もないんです。ビンはそういった、競争の時代に遅れてしまった人物の“象徴”として描きました」

■ 「『犬鳴村』は、ホラーと社会への問いかけという組み合わせがすばらしい」(ジャンクー)

現地記者に向けて行われた清水監督の記者会見には中国全土から集まった記者たちが集結し、学生向けのティーチインでは「ホラー映画は単なる娯楽か」「映画は現実社会を反映すべきか」など次々に熱心な質問がぶつけられた。また、屋外の巨大スクリーンで開催されたワールドプレミア上映はチケット1500枚が完売。会場を埋め尽くす観客には若年層の姿が目立っていた。

『犬鳴村』に対する中国の若者たちが熱狂する背景には、中国映画界特有の「検閲」のシステムが影響している。幽霊や迷信などを描いた外国映画は中国国内では一般公開ができず、清水監督が手掛けてきた作品も例外ではない。それでも、ホラー映画をいかなる手段を駆使してまで観てきた中国の若者からは清水監督を支持する声が絶えない。ジャンクー監督は、そういった熱狂を生む清水監督の作品を「非常に社会的」と評価する。

ジャンクー「『呪怨』から清水監督の映画はずっと中国で人気があるのですが、残念ながらこれまでは公式に上映する機会に恵まれませんでした。それでも人気が続いているのは、やはり作品自体が優れているからだと思います。映画祭のなかで行われたメディア向け試写で『犬鳴村』を拝見した知り合いの記者は、『まさか、ホラー映画の物語に、差別など複雑な社会問題が絡み合っていくとは思わなかった』と言っていましたよ」

清水「テーマなど、この映画の社会的な部分に注目していただけるのはうれしいです!僕はホラー映画を監督することが多いので、どうしても刺激的な部分ばかりが注目されがちで…。今回、ホラーを観たくても観られない若者たちに観てもらいましたが、刺激的なだけじゃないものを見出してもらえたらうれしいですね」

ジャンクー「つい最近まで中国では、映画というのは芸術なのだ、と見られていましたが、現在は娯楽映画、いわゆるポップコーン・ムービーが主流です。その証拠に私の『帰れない二人』はやくざ映画になっていますよね(笑)。『犬鳴村』は、ホラー映画と社会への問いかけという組み合わせの妙がすばらしいと思います。私のこれからの映画のなかでも、社会問題を物語にしていくためにホラーの要素を入れるかもしれません」

清水「物語とテーマ、どちらから先に発想しているかっていうのは、自分のなかでも作る時は曖昧なんですが、そのように言っていただけて恐縮です(笑)」

■ 「中国の映画人は、検閲の改善のために闘わなければいけない」(ジャンクー)

3D映画の台頭、IMAXやライブビューイングといった上映方式の多様化など2010年代の10年間で映画を巡る状況は大きく変化してきた。中国の映画市場は急成長を遂げ、いまやハリウッドを押しのけて世界一のマーケットへと変貌している。一方、先に挙げたようなホラー映画などは検閲の対象になり続けており、ホラー以外でも、世界的大ヒット作の『ボヘミアン・ラプソディ』(18)では、フレディ・マーキュリーのセクシュアリティを示す表現がすべて削られたことが世界的に報道された。自身も監督作が検閲の対象となった経験を持つジャンクー監督は、しばらく考え込んだあと、中国映画界の課題について話してくれた。

ジャンクー「検閲については、中国の映画監督や俳優、スタッフたちが改善のために闘わなければいけないと思います。およそ40年前までは、中国はすごく閉ざされた国だったので、それに比べればすごく進歩したと思っています。しかし、ことに映画分野においては“中国らしいスピード”でしか発展していません。いずれにせよ、我々映画人が使命感を持って、それなりの努力をしなければなにも変わらないでしょう」

清水「今回、僕の映画が中国のお客さんに受け入れてもらえるだろうかと不安でしたが、若い人たちの反応を見てホッとしました。僕が撮っているようなホラー映画を、ジャンクー監督のように社会や国と闘ってきた人が紹介してくれると説得力があってうれしいです。中国国内での受け止められ方とか、ホラーの観られ方も今後は変わっていくんでしょうね」

ジャンクー「『犬鳴村』のメディア向け試写には、連日中国の映画会社の代表がたくさん来ているそうなので、中国での上映にも大いに希望が持てると思いますよ!」

清水「ありがとうございます!上映禁止されないといいんですけどね…」

ジャンクー「上映禁止?とんでもない、私がさせませんよ(笑)」

(Movie Walker・取材・文/編集部)