「仁義なき戦い」だけにあらず 改めて見たい“辰兄ィ”作品

「仁義なき戦い」だけにあらず 改めて見たい“辰兄ィ”作品

【大高宏雄の新「日本映画界」最前線】

 今月12日に亡くなった梅宮辰夫さん。幅広い交友関係や釣りの話など人間性に即した記事は盛りだくさんだが、意外に俳優としての記述が少ない。

 代表作としてすぐに「仁義なき戦い」(1973年)が出てくる。確かに重要な作品ではあるが、そこだけを切り取っても、彼の魅力は一部分しか分からない。

 ニューフェイスとして東映に入社したのは1958年だ。以降の作品群を見ると、よくもまあ東映カラーに染まった道を進んだものだと感心する。ギャングもの、色もの、ヤクザ映画など、東映のあくどいまでの娯楽路線にぴったりと寄り添った印象が強い。というより、梅宮さんの個性が、それらの作品を引き寄せた感じもある。

 筆者は、細身の体にスーツ(当時は背広)が抜群に似合い、色悪ぶりがピカイチだった一群の作品を特に買っている。なかでも「ひも」(65年)から始まる夜の青春シリーズだ。緑魔子や大原麗子らが共演した。女を食い物にする役柄が水を得た魚のようだったが、どこかワルになりきれない優しさ、弱さも抱えていて、不思議なマイルド感を漂わせていたと記憶する。

 60年代末以降はコワモテキャラが一段と強化されていくが、テレビドラマ「前略おふくろ様」(75年)あたりを契機に、市井の兄貴分が似合っていく。ワルになりきれないマイルドさは、極度の不良性が要求される東映カラーとは別の個性へと変化を遂げていく。「辰兄ィ」がそこにいた。

 極め付きの作品を挙げよう。深作欣二監督の傑作「県警対組織暴力」(75年)だ。彼の押し出しが強く、端正なエリート刑事役が見事だった。

 梅宮辰夫さん。本当に多くの映画をありがとうございました。

(映画ジャーナリスト)