藍井エイル「Fate」は特別な存在 大切な人に気づいた原点回帰:インタビュー

引用元:MusicVoice

 シンガーの藍井エイルが11月27日、シングル「星が降るユメ」をリリース。シングルには表題曲の他に藍井のゲーム好きの一面が描かれた「インサイド・デジタリィ」、デビューのきっかけにもなったシンガー・ピコのカバー「Story」の全3曲を収録。表題曲の「星が降るユメ」はデビュー曲「MEMORIA」でも携わった“Fate”シリーズのTVアニメ 『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』 のエンディングテーマでミドルバラードナンバーに仕上がった。藍井は改めてこの曲の歌詞を書くにあたり、大切なものへの気づきがたくさんあったという。インタビューでは今の自身の歌についてや、「星が降るユメ」に込められた想いなど、多岐にわたり話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】


藍井エイル「Fate」は特別な存在 大切な人に気づいた原点回帰:インタビュー


藍井エイル(撮影=冨田味我)

色んなものをちゃんと直視できるようになった

――以前から思っていたのですが藍井エイルさんというお名前、すごくクールですよね。お名前にはどのような意味が込められているのでしょうか。

 PCで名前を決めるときに使っていた名前が“aoi”でした。なんとなくその響きが好きだったので、自分がもし生まれ変わったら「aoi」という名前がいいなとも思っていたんです。「エイル」はもともと“eir”という表記だったんですけど、デビューする際に苗字も付けて名前もカタカナにして改名しようということになりました。そこでスタッフさんも含めて話しをして、じゃあ文字表記をどうするかとなりまして。aoiのaoには漢字にすると“青”や“蒼”もあるんですけど、それだと普通過ぎるかなと思いました。あえて“藍”で「藍井」にすると、「何て読むのかな?」と思ってもらえるかなと思って。

――そうだったのですね。実際、名前の字画数も良かったりするのでしょうか。

 そうなんです。おみくじで言うと大吉でちょうど良い画数でした。

――曲のタイトルも画数を気にしたりされますか。

 曲のタイトルは画数はあまり気にしないので響き重視です。あと私は本を読むのが好きなんですけど、パッと見た時に引っかかるワードってあるじゃないですか。それがあるといいなと思ってタイトルを付けているので、フックを気にして考えています。

――今作「星が降るユメ」の“ユメ”がカタカナなのもそう?

 そうです。漢字で「星が降る夢」にしてみたんですけど、スッとその文字が目の前に通り過ぎた時に何も思わないなと思って。あえてカタカナで“ユメ”と、少し不自然な文字を入れ込むことによってフックになるかなと思いました。

――その「星が降るユメ」は藍井さんのデビューから携わっている“Fate”シリーズのTVアニメ『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』エンディングテーマですが、タイアップが決まった時はどんな心境でしたか。

 『Fate』は私の生みの親であるアニメ作品です。デビューから8年経ってまたこの作品に関わらせていただける機会ができるなんて思ってもいなかったです。自分のなかでも『Fate』は特別な存在なんです。再びその特別な存在である作品のエンディングを歌わせていただけるということで、今まで過ごしてきた日々を色々考えさせられました。

――その中でどんなことを思いましたか。

 メジャーデビューから始まって、様々な人達と出会って、色んな幸せを知って、凄く大事なものをこの8年のなかで得られたと思っています。今作は「出会いと別れのなかで見つける大切なもの」というものをテーマにしたのですが、それは私が『Fate』という作品でデビューできたからこそ、色んなものを見つけられたからなんです。濃密な時間を改めて振り返る時間も作ってくれたので、原点回帰のようなシングルになっているんじゃないかなと思っています。

――この8年で出会いと別れがたくさんあったと思いますが、印象的だった出会いを一つ挙げるとしたら?

 ファンの方たちです。ファンというのは当たり前にはいないものじゃないですか。いままで私もファンの方たちがいたわけではなかったですし、自分にとって歌えているのもファンの皆さんのおかげです。あと、友達の存在の大切さというのを活動休止中に感じました。それまでは「友達っていいよね」くらいの感覚だったんですけど、普段の私を知ってくれている人達なので、色んな深い話しができたりとか、思い出話をした時に、私が覚えていないことを覚えていてくれていたりして。そんな友達がいるからこそ、自分を取り戻せたと思いました。

――その中で歌という部分でも改めて見つめ直したこともあったと思われるのですが、私は過去の藍井さんの歌を聴いて、張り詰めたギターの弦のテンションのような感覚がありました。歌で最も変わったと自身で思うところは?

 まさにそうでした。今はちょっと大人になったと思います(笑)。それもあって丸ごと発声を変えました。だから「昔やっていたことを今やってください」と言われたら、できるんですけど、逆にあの時は今の歌い方ができなかったんです。発声にもっとちゃんと力を入れて喉を守りつつ、ずっと歌い続けていくために喉を守っていく歌唱法を手に入れていないと、結局またダメになって活動休止になってしまう…。それはあまりにもファンの皆さんに対して申し訳ないなと思いました。なので、ちゃんと自分の喉を守っていくために、発声は絶対的に必要なことだったので、ボイストレーニングにこまめに行っていました。でも、その期間に発声障害になってしまって…。

――発声障害ですか…。

 そうなんです。パワーボーカルと周りからは言ってもらえていたのに、パワーどころか虫のような、ずっとファルセットみたいな感じになっちゃって…。家族とカラオケに行った時に「自分の曲歌ってよ!」とリクエストされて歌ってみるんですけど、1曲歌いきれない、息が続かなくて1コーラスも歌いきれないという状況でした。

 体全部が楽器なのに、「楽器=喉とお腹だけ」という風に考えていた発想がそもそも間違えていたということにその時は気づいていなくて。それでボイトレを何度も何度もこまめに受けて、自分が一番心地良い歌い方はなんだろうと先生と試行錯誤しました。活動休止中は自分を見つめ直す期間だったなと思っています。「自分はこうでなければいけない」という思いが今まで凄く強かったんです。

――固定観念があって。

 そうです。「自分はとってもハッピーでしょうがない人間なんだ」と思い込もうとしていたりとか、「ネガティブな部分なんてないんだ」というくらい、自分で自分に暗示をかけていて、おそらくそれが張り詰めた歌声になっているのも、関連するんじゃないかなという風に思っていて。どこかに力が入ってくると歌もそれこそ張り詰めた弦のようになってしまうと感じています。今は自分の弱い部分、苦手な部分、傷つく部分、色んなものをちゃんと直視できるようになったので、歌詞もだんだん、リアルな方向に変化していきました。

――発声を変えるというのは勇気が要ることと思います。

 結局歌えなくなっちゃったから、過去の自分と比べていたんです。「昔は歌えていたのにいまは何で歌えないんだろう」と。「星が降るユメ」を作曲して頂いたTAMATE BOXさんもシンガーとしても活動されている方で、凄く綺麗な発声をされるんです。それで私は発声の相談をしていたんですけど、「過去の自分と比べるのはやめたほうがいい」とアドバイスをしてくださって。今やろうとしている藍井エイルは“新生藍井エイル”だから、過去をなぞっていくのではなくて、新しいものを一から作っていくという考えにしないと辛いと思う、と話して下さって。確かにそれは凄く辛かったです。でもどこかで比べちゃう部分、できていたことができなくなったと思っちゃうんですけど、あの歌い方はどちらにせよ、結局いずれ出来なくなる方向に向かう破滅的な歌い方でもあったなと今は思います。