「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」デュボア監督インタビュー 完結編は「2人の人生に訪れる、避けられない変化」の物語

引用元:ねとらぼ
「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」デュボア監督インタビュー 完結編は「2人の人生に訪れる、避けられない変化」の物語

 ついに「ヒックとドラゴン」が日本の劇場に帰ってくる。この知らせを聞いた時、喜びに打ち震えたファンは多いはずだ。

【画像】監督とポスター

 2010年に公開されたシリーズ1作目は当時最先端の豊かな3D表現もさることながら、ファンタジー、ロマンス、未知の生命との友情とさまざまなジャンルがミックスされた、見事なジュヴナイル・アニメーション映画の傑作だった。

 ただその続編であり2014年に全米公開された大傑作、「ヒックとドラゴン2」は東京国際映画祭に出品されたものの、日本国内の上映は特別上映など一部に限られ、結局通常の上映がなされることはなかった。

 「聖地への冒険」も2019年2月の全米公開後しばらくは音沙汰がなく、日本公開についての情報も錯綜。ファンが日本での公開を求める署名活動を行ったことも記憶に新しい。そんな中無事に公開が決定し、全3作の監督を手掛けたディーン・デュボア監督が来日。貴重なインタビューを行うことができた。この記事ではその一部始終をお送りする。

【※本記事は「ヒックとドラゴン」第1作および「ヒックとドラゴン2」のネタバレを含みます】

映画版で課された、ヒックへの試練

――最新作を大きなスクリーンで見られる日をずっとお待ちしていました。「2」の時には監督と同じく私も署名活動に参加しました。まずは無事日本公開され、とてもうれしく思っています。

デュボア ありがとうございます! 私もとてもうれしいです。

――まずそもそもの企画の発端からお聞きします。本作の原作となった小説版『ヒックとドラゴン』シリーズでは、「トゥースレス※が人間としゃべることができる」「彼はもともと特別なドラゴンというわけではない」など、設定も物語もほぼ完全な別物となっています。劇場版がこのような「最強のドラゴンと、少年の物語」になったのはなぜでしょうか。

※ヒックの相棒「トゥース」は、原語版では「トゥースレス」という名前。トゥースレスは「歯無し」の意。

デュボア 私とクリス・サンダースがこのプロジェクトに入ったのは、ドリームワークスがもう2年以上も「小説版に忠実な企画」を暖めて続けていた後でした。しかしその時点で物語は少々若年層向けで、映画にするにはスケールもあまり大きくありませんでした。そのためわれわれは原作の骨子である「負け犬である主人公が勝利する」というところを残し、人間とドラゴンが戦い続けているところに背景を置き、”一人の少年と巨大なドラゴンの友情が周りを変えていく”という話にしたい、というのが「ヒックとドラゴン」シリーズの始まりでした。

――1作目についてお聞きします。本当に大好きな作品なのですが……、「種族を超えた友情」を描いた同作においてトゥースレスが飛べなくなった原因を作ったのが明確にヒックである、というところがずっと引っ掛かっています。「本当の信頼」を描くのであれば、例えば彼を傷つけるのはヒックでなくても、例えば他のバイキングや、あるいは事故のようなものでも良かったのではないか、と思ってしまいました。これにはどのような意図があるのでしょうか?

デュボア ここは本来の物語の形式、発想をひねりたかったんです。ヒックは他のバイキングたち同様、「ドラゴンを自分の力で見事に仕留めることで、皆に認められる立派なバイキングになりたい!」という目的をもつ少年でした。そして彼の手により、ついにそのチャンスが訪れます。その自ら作った好機を元に「ドラゴンを殺すのか、生かすのか?」という選択をする環境。そこに彼を置きたかったんですね。結果、彼はトゥースレスを救うことに決めます。そして彼は自分を恥じることになるわけですが、その自分が弱いと思っている点が自分と周りを成長させる、という部分を描きたかったのです。

――その選択において、ヒックと異なる道を選んだのが「2」のヴィランであるドラコや本作のグリメル、というわけですね。

デュボア はい、その通りです。特にグリメルは単純な悪役ではなく、共存を否定する、「ヒックがもしかしたらたどったかもしれない」「若い頃からドラゴンを殺してきた人間」として、明確にヒックの対比として配置しています。

――なるほど。対比といえば、特に「2」においてドラゴンは自然の象徴として、神秘的な存在として書かれていたのが印象的でした。ところで日本で自然を象徴した超存在といえば「ゴジラ」です。本作ではとあるシーンでトゥースレスの背びれが青く光りますが、それは、やはり……。

デュボア (笑)。いえ、そこまで意識はしていませんでした。というのも、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」を見たのはちょうど3作目を完成させているときだったんですね。そこで初めて「似てると言われてしまいそうだ!」と思ったくらいです。むしろ「2」に登場させた巨大なアルファ・ドラゴン(ワイルダービースト)の方が、ゴジラシリーズからは直接的な影響を受けていますね。

――「ヒックとドラゴン」シリーズは作品を重ねるごとにヒックとトゥースレスの関係性が変化していくことに強い特徴があるかと思います。1作目では「良きペット」。そして2作目で信頼しあえる親友に。本作ではついには「家族」としての物語になっていきますね。

デュボア はい。3つの物語で一貫しているのはヒックとトゥースレス、二者の関係に重点を置いているところです。まずは敵としての対峙、そしてお互いを守り合うような友情が芽生えます。2作目ではトゥースレスがドラコに洗脳され、ヒックを傷つけかねない――すなわち友情が試される状況に対して、お互いの信頼でその試練を乗り越える物語になっていました。そして3作目で描いたのは、2人の人生に訪れる、避けられない変化の物語です。

 トゥースレスは生まれて初めて、ライト・フューリーというヒックと関与していない存在と出会います。それに対してヒックは、「もしもトゥースレスと離れてしまったら最初の負け犬に戻ってしまうのではないか」という恐れ、つまり“依存”になりかねない思いと対峙することになります。そしてそれぞれが生きていくうえで、やがて向き合わなければいけない問題にどう立ち向かうのか? というのが「聖地への冒険」の主軸になっています。

――トゥースレスは尻尾のけがでヒックなしでは飛べないわけですが、2011年のホリデースペシャル「ドラゴンの贈り物」の後半、ヒックはトゥースレスの尻尾を自分で飛べるように修理しますね。それを拒絶するトゥースレスをとてもかわいいと思いながらも、その先行きに少し怖いものを感じたのも事実です。

デュボア 本作のアスティのとあるセリフは「ドラゴンの贈り物」のそのシーンに対応しています。熱心なファンがそこに気づいてくれるのではないかと思ってこのシーンを入れたので、とてもうれしいです(笑)。そうですね、その当時のトゥースレスには、ヒックと一緒に居続けることに疑念がありませんでした。ただ本作のトゥースレスは、ヒックと異なる場所で大切にしたい存在と出会ってしまいました。その後の彼らの関係、そして選択に注目して見ていただけるとうれしいです。

――今年のクリスマスシーズン、アメリカでは「聖地への冒険」の続編「How to Train Your Dragon:Homecoming(※)」がオンエアされるかと思います。こちらも日本で見れることを願って、楽しみにしております。

※「聖地への冒険」のネタバレを含むので、検索する際にはご注意を!

デュボア そちらは本当のところ、まだ見れてないんですよ。私は制作に関わっていないので……ちょっとナーバスな気分ですね(笑)。でも評判がよければ日本でも見れるかと思います。おそらくいい出来になっていると思いますよ! ねとらぼ