【インタビュー】のん、“リミッター”を意識しても譲れないこだわりとは?

引用元:cinemacafe.net
【インタビュー】のん、“リミッター”を意識しても譲れないこだわりとは?

「やりたいことはとことんやる!」というポリシーのもと表現活動に突き進む“のん”。女優・ライブ・アート・映画監督……とジャンルは問わない。2016年公開された劇場版アニメ『この世界の片隅に』で演じたヒロイン・すずさんの声の演技も、彼女にとっては「大切なものをたくさん与えてくれた」と強く印象に残る出会いだったという。そんな思い出深い作品が“さらにいくつもの”気づきをのんさんに与えてくれたようだ。

【写真】のん撮り下ろしカット(全12枚)

やりたいことに力を注げない…焦りを感じる主人公に共感できます
2016年11月、全国63館で公開された『この世界の片隅に』は、製作陣の真摯な原作への向き合い方、作品の持つメッセージ性、のんさんら声優たちの魂を込めた思いが相まって大きな反響を呼んだ。そして2019年12月、前作から250カットを超える新エピソードが追加され『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』として生まれ変わった。第32回東京国際映画祭では、特別招待作品としてレッドカーペットを闊歩した。

「まさか東京国際映画祭に呼ばれるとは思っていなかったので…」とのんさんは一報を聞いたとき驚いたというが、片渕須直監督が「映画祭で選んでいただけたということは、新作として扱ってもらえたということなんだ」とコメントしていたのを聞き、大きな喜びとと共に「この映画が多くのお客さんにメチャクチャ愛されているんだな」と強く実感したという。

新たに追加されたシーンを演じることで、のんさんは前作時には気づけなかったすずさんの思いを感じた。「すずさんがここまで“自分の居場所がないんだ”ということに危機感を抱いていたとは思わなかったんです。すずさんは絵を描くことが好きですが、慣れない奥さんとしての仕事に追われ、日常的に描いていた絵を描く時間はなくなる。だからリンさんに求められたのが心の救いになるのはとても共感できました」。

生まれて初めて「リミッター」という言葉を意識した初舞台
好きなこと、やりたいことに力を注げない――。のんさんにとっても、それは大きなストレスになる。だからこそ、思ったこと、やりたいことは存分に表現する。これまでのんさんは「リミッター」を意識したことがなかった。とにかく突っ走る。そしてふと「疲れた!」と気づくというのだ。

そんな彼女も、今年8月に出演した女優の渡辺えりさんが脚本・演出を手掛ける舞台「私の恋人」に出演した際、「リミッター」という言葉を初めて意識した。「私は自分の健康状態にうぬぼれているところがあって、どこまでもタフだと思っていたんです。でも疲れで蕁麻疹が出てしまって…。私が蕁麻疹!? と思ったのですが、やっぱり体力的な部分では、しっかりリミッターを意識していかないといけないんだなと思ったんです」とはにかむ。

一方で“ものづくり”という点では、片渕監督の良いものを作ろうという執念にも近いこだわりには、度肝を抜かれたという。前述した東京国際映画祭初日のレッドカーペットイベントで片渕監督は、映画が「未完成」であることを報告していたが、その後も完璧を求めるために、ギリギリまでこだわりを見せている。

のんさんもYouTubeにて配信されている『おちをつけなんせ』で映画監督デビューを果たしているが「ものづくりをしている人ってリミッターがないんだなと思いました」と語ると「純粋にすごいなと思うし、尊敬できる部分だし、多くのことを学ばせていただいています。とにかく片渕監督は、私が疑問に感じたことに対してとことん向き合ってくださる方。こういう作品作りっていいなと純粋に思いましたし、自分が生み出す側でも、俳優としてでも大事な感覚だと改めて実感しました」と脱帽する。

こなれていくことは一生したくない
片渕監督の映画作りにほだされたのんさん。体調面では「蕁麻疹になったらしっかり体調を整えるようにしなければいけない」とリミッターを意識するようになったと言うが、それでも自身の好奇心にはふたをすることはできないようだ。「やりたいと思ったことにはブレーキをかけないようにしています。今日も朝から取材だったのですが、昨晩お布団に入ったあと、衝動的に曲が作りたくなってしまい、ギターを弾きながら歌詞を書いて、一曲作ってしまったんです」と笑う。“体調面”がやや心配になる発言だが、楽しそうな語る彼女の表情は明るい。

瞬間に生まれた感情を表現すること――。こうした行動をとることで、のんさんは「常に新鮮でいること」ができるという。「こなれていくことは一生したくない」と強い視線で語る。

その意味で、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は、新たな発見がたくさんあった。象徴的だったのが、すずさんがラストに子どもを連れて帰るシーンだ。前作でのんさんは片渕監督から「ここですずさんは母親になるから、お母さんの役もやってください」と言われたという。そのときのんさんは「子どもを連れて帰るからお母さんなんだな」と納得したが、今回、新たなシーンが追加されたことで、「母親という気持ちに到達するまでの積み重ねた感情が重なり合った」と役へのアプローチ方法がまったく変わった。

「余白がたくさんあるからこそ、解釈によって180度キャラクターが変わってしまうことがある」と作品の特徴について語ったのんさん。だからこそ、何気ない会話や行動には、さまざまな感情が隠されている。「やればやるほど奥が深い。改めてすごい映画だと感じました。長い期間携われたことは大きな財産です」と目を輝かせながら、作品に参加できたことへの感謝を述べていた。