「羽生結弦は、女優です。」ミッツ・マングローブのアイドル論

引用元:BuzzFeed Japan
「羽生結弦は、女優です。」ミッツ・マングローブのアイドル論

〈アイドルってキラキラしている以上に、モヤモヤもしくはヒヤヒヤする生き物だ〉

テレビでも活躍する女装家・ミッツ・マングローブさんが、2016年から『週刊朝日』で連載している「アイドルを性(さが)せ!」をまとめたエッセイ集『熱視線』を発売しました。

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タイトルに「アイドル」と冠してはいますが、取り上げる人物は歌手やタレント、アスリートから政治家まで、多種多様です。

例えば連載初回では、フィギュアスケートの羽生結弦選手のことをこう語っています。

〈羽生クンのスゴさは、例えば『転倒したシーン』を、瞬時に『立ち上がるシーン』に変換させてしまう『ヒロイン力』です。「お黙りなさい! 転んだのではありません! これから立ち上がるところなのです!」と声高らかに凄まれることで、観ている側の感情も「勝て!」から「負けないで! ゆづぅ!」になる。

羽生結弦は、女優です。〉

「アイドルとは、『人』ではなく『現象』だと思っている」と語るミッツさん。独自の“アイドル論”を聞きました。


「羽生結弦は、女優です。」ミッツ・マングローブのアイドル論


ミッツ・マングローブさん

世間の目がアイドルを作る

イチロー、安室奈美恵、SMAP、松田聖子、星野源、菅田将暉、小泉進次郎……。

2016年5月にスタートした連載は150回を超え、テレビや新聞を賑わすさまざまな人々を取り上げてきました。

当初編集部からのオファーは、より狭義のアイドル、つまり「アイドル歌手」について書いてほしいというのでしたが、それを断り、このような形にしたそう。

「私は、アイドルってその人自身や職業を指す言葉ではなく『現象』――要するに、世の中との関係性だと思っているんです。世間の目線が、アイドルを作る」

例えば、アーティストとしても役者としても幅広く活躍する星野源さんについて。

〈薄いようで、パーツそれぞれの主張は怠っていない上、年齢不詳な質感。明るいんだか暗いんだか、天使なのか悪魔なのか判別できない表情。不器用そうに見えて、どこか揺るぎない自信に満ち溢れた佇まい。すべてひっくるめて、人はそれを「魅力」というのでしょうが、そんなつまらない言葉では片付けたくないくらい、底知れぬタチの悪さが後を引くのです。〉

「魅力」と「タチの悪さ」。正反対の言葉が同居する評ですが、この気持ちはなんだかわかるような……。

星野源のスゴさはとてもよくわかる、曲も雰囲気もすごくいい、好きなんだけど、でもなんだか何かが悔しい!! というひねくれた思い……自分にもどこか身に覚えがあります。

「そうそう、その感じですよね。単純に『好き』だけを叫ばせない力」

「松田聖子のときなんて、すごかったですからね。『聖子なんて嫌い!』の大バッシングの裏にものすごい『好き』がこもっていた。真正面から好きと言えないから、嫌いと言うしかなかった人たちがたくさんいた」

「『嫌い』という言葉は『好き』の対義語として捉えられがちですが、本当は違うんですよね。『好き』の上に『嫌い』が成り立っている」

「聖子ちゃんの頃にはSNSはなかったですが、今はネットに書き込まれるアンチの言葉が、複雑さを無視して額面通りの意味で拡散していってしまう時代。『嫌い』にこそ裏がある、その構造は今も一緒なはずなのに……気の毒だなと思います」

「好き」があるからこそ成り立つ「嫌い」。バッシングと表裏一体の愛情表現。

なるほど、ミッツさんの「世間の目線がアイドルを作る」という言葉の意味が、あの人やこの人がこの連載で取り上げられた理由がわかってきた気がします。

政治家の小泉進次郎氏もこの通り。

〈それにしても進次郎氏は、とことん「クサい」。巧けりゃ巧いだけクサい。あの姿に政治家としてのカリスマ性を感じろと言われても、私はそんな真っ直ぐな心を持ち合わせていません。〉

「マツコさんなんかは、圧倒的に『好き』で成り立っていますから、また別ですけどね。アイドルというよりヒーロー」