「ずるいよ」客席のファンのメッセージに涙 HKT月足が無観客公演で卒業

「ずるいよ」客席のファンのメッセージに涙 HKT月足が無観客公演で卒業

 HKT48チームT2の月足天音(20)が30日、福岡市で「卒業」公演に臨んだ。新型コロナウイルスの影響で動画配信限定の異例の無観客卒業公演となったが、仲間たちや、サプライズで座席に張り出されたファンのメッセージに見守られながら、グループに別れを告げた。

【写真】月足天音の卒業公演で「白線の内側で」を披露するHKT48の4期生

 「キスは待つしかないのでしょうか?」で幕を開けた。センターに立った主役の目が、みるみる潤んでいった。誰もいない客席には、ファンが集めたメッセージがびっしり。劇場の隅では、特注のフラワースタンドが晴れの舞台を見届ける。会場に足を運べなくても「できる限りのことをしたい」というファンの熱意に、運営スタッフが応えて実現した演出だった。「最初から泣くつもりはなかったのに感動しすぎちゃって…。ずるいよ」。同期をはじめ多くのメンバーが涙を見せる中、月足本人も声を震わせた。

 涙をふいて迎えたユニットパートでは、同期の小田彩加(21)、武田智加(17)とともに「雨のピアニスト」を披露。真骨頂の妖艶かつキレのあるパフォーマンスで画面の向こうのファンを魅了した。

 2016年7月から活動してきた4期生として、初の卒業。身長153センチと小柄ながら大人っぽく整った顔立ちで、一度聞いたら忘れられない名前とともに人気を集めた。自身もまた大のアイドル好きで、SNSで「アイドルとして誰かの力になりたい」と吐露したこともあった。

「わがままでごめんなさい」

 同期の4期生メンバーとは、それぞれの個性が強すぎる故にぶつかり合うこともあったが、月日を重ね、それは笑い話へと変わった。互いにバラバラだからこそ、いくつもの山や谷を越えて一つになった10人は、一部のファンから「最強」と呼ばれるまでになり、HKTの次代を担う存在へと成長していた。

 アンコールでは、チームの異なる運上弘菜(21)、地頭江音々(19)、豊永阿紀(20)も登場。4期生全員で「白線の内側で」と「さくらんぼを結べるか?」とオリジナル曲を披露した。すれ違い、口をきくことさえなかった日々を振り返りながら、運上も顔をくしゃくしゃにして号泣した。「センターになってうれしかった。これからも応援するよ」。月足も涙ながらに、HKTの新センターに指名された運上へエールを送った。

 「いつ普段通りの公演ができるようになるのか、卒業待ちのままで在籍することが不安だった。わがままでごめんなさい」

 延期せず、異例の無観客での卒業公演となったことをファンにわびた月足。

 「不器用でうまくやれないことが多くて、ファンの皆さんやメンバーとかスタッフさんに、もどかしい思いをさせてしまうことがあったと思うんですけど、それでも応援してくださった皆様に感謝しています」と頭を下げた。「私の夢は、卒業してもファンの皆さんの自慢になること。いつかどこかで、何かしらの形で大きくなって、昔から知っているんだって自慢してもらえるようになること。これからどうなるか分からないけど、引き続き応援してくださるとうれしい」と呼びかけた。

 「ずっと好きだったアイドルになれて、すてきなメンバーに、すてきなファンに出会えて、HKTに入れて、本当に幸せでした」

 劇場に「天音」コールは響かなかったが、だからこそ届いた思いもあった。「アイドルになってくれてありがとう」。劇場を彩ったたくさんの“声”に背中を押されながら、1389日間のアイドル人生に幕を下ろした。(古川泰裕)