「スカーレット」最終回 ロス広がる 武志、26歳の誕生日を前に…

「スカーレット」最終回 ロス広がる 武志、26歳の誕生日を前に…

 女優の戸田恵梨香(31)がヒロインを務めたNHK連続テレビ小説「スカーレット」(月~土曜前8・00)は28日、最終回(第150話)を迎え、完結した。俳優の伊藤健太郎(22)が好演し、白血病と闘ってきた主人公・川原喜美子(戸田)の長男・武志は26歳の誕生日を前に旅立った。インターネット上には涙に暮れる視聴者が続出。放送終了を惜しむ「スカーレットロス」が広がった。

【写真】工房で武志(伊藤健太郎)を抱きしめる喜美子(戸田恵梨香)

 朝ドラ通算101作目。タイトルの「スカーレット」とは「緋色」のこと。フジテレビ「夏子の酒」「妹よ」「みにくいアヒルの子」、日本テレビ「ホタルノヒカリ」などのヒット作を手掛けた脚本家の水橋文美江氏(56)が朝ドラに初挑戦したオリジナル作品。“焼き物の里”滋賀・信楽を舞台に、女性陶芸家の草分けとして歩み始める大阪生まれのヒロイン・川原喜美子の波乱万丈の生涯を描いた。

 最終回は、喜美子(戸田)は武志(伊藤)と信楽の仲間と琵琶湖に出掛け、清々しい思いに満たされる。武志は闘病しつつ作陶を続け、側で喜美子も陶芸に励む日々。喜美子は武志との時間を大切に過ごしながら、ふと武志に問い掛ける。喜美子に強く抱き締められる武志。2人は幸せを胸に刻む…という展開。

 直後の中條誠子アナウンサー(46)の語り。「武志は26歳の誕生日を前にして旅立ちました」…。武志の白血病は第131話(3月6日)で判明。1983年(昭58)、喜美子45歳、武志22歳の時だった。

 「スカーレット」が参考にしたのは、信楽焼の女性陶芸家の草分けとなった女性陶芸家・神山(こうやま)清子氏(83)の人生。長男の賢一さんが29歳の時、白血病に倒れ、神山氏は骨髄バンクの立ち上げにも尽力した。

 脚本の水橋氏は2月29日、自身のインスタグラムを更新。残り1カ月の終盤、試練の展開を選んだ理由を明かした。

 「(喜美子が)陶芸家の道を歩きだしたことを表現するためには、どなたかの作品をお借りしなければなりません。あちこちから適当にというわけにもいきません。喜美子の作品はすべて陶芸家の神山清子先生からお借りすることになりました。喜美子の作品イコール神山清子先生の作品です。神山清子先生の最愛の息子さんは白血病と闘われたという経緯があります。お借りした作品ひとつひとつに、息子さんへの深い愛情とその時々の思い出、いとしい出来事が込められていることを知りました。それら大切な作品をお借りして喜美子の作品と謳っているからには、その思いに全く触れずにいることは同じ物作りの端くれとして敬意に欠けることではなかろうか。チーフ演出の中島(由貴)さん、(制作統括の)内田(ゆき)P(プロデューサー)と十分に熟考を重ね、できる限りの配慮を胸に、私は覚悟を決めました。第22週からは喜美子の人生の最終章『生きるということ』を描いていきます」

 近年多かった朝ドラ王道パターン「偉業を成し遂げる女性の一代記」とは異なり、終盤は朝ドラとしては異例とも言える闘病記を通じて家族愛と、愛すべき何気ない日常「いつもと変わらない1日は特別な1日」を丹念に紡ぎ上げた。同じく朝ドラ王道の「ある職業を目指すヒロイン」の点からも、異色の構成。喜美子が陶芸家になった後、その成功の華々しさなどは詳細には描かなかった。

 喜美子は第105話(2月5日)で7回目にして、ついに穴窯による窯焚きに初成功。しかし、その第105話のうちに「灰と土が反応してできる自然釉の作品は陶芸家・川原喜美子の代名詞となりました」の語りで劇中の時間を一気に7年進めた。

 今月1日放送のNHK FM「岡田惠和 今宵、ロックバーで~ドラマな人々の音楽談議~」(隔週日曜後6・00)にゲスト出演した水橋氏は「7年バーンと飛ばしたんですが、あそこは意図的です。喜美子にとっての成功は、陶芸家として有名になることじゃなく、穴窯で自然釉の作品を作ること。ゴールは(窯焚きに初成功して)作品ができた瞬間なんです。その後(の陶芸家として有名になっていく姿)を描くと、ゴールが見えなくなっちゃうと思ったので、飛んだんです。その台本を渡すと、(チーフプロデューサーの)内田さんもOKしてくれて。プロデューサーによっては『もうちょっと、ここをやりましょう』と言う人もいると思うんですが」と説明。

 岡田氏が「考え方によっては(喜美子が陶芸家として有名になっていく姿は)いくらでもやりようはありますよね。楽しいことが書けたりもしますし」と挟むと、水橋氏は「喜美子にとっての成功は、そこじゃないんで。陶芸家として売れっ子になるかどうかは関係なく(穴窯で)作品ができるかどうか。『完成しました、終わり』という話。そこは潔く」と狙いを明かした。

 同じ陶芸家ゆえに、お互い譲れぬ一線があり、結局は離婚に至った喜美子と八郎(松下洸平)の苦悩など、水橋氏が派手さこそないものも、キャラクターの機微を生々しく描き出した「スカーレット」。また1つ、ここに“新しい朝ドラ”が生まれた。